ブレア・ウィッチ・プロジェクトを映画じゃなくて本にしたものを、ナボコフが思いっきりふざけて書いたあと、スティーヴン・キングが精一杯脳を振り絞って編集したあげく、未来派雑誌「ブラスト」がその前衛性の限りを尽くして活字遊びに明け暮れたような…
amazon.comの書評(John Ponyicsanyi)によれば、『紙葉の家』はそんな作品。800ページを超える大冊。
ペラペラとめくると、活字がひっくり返ったり、白いページがあったり、絵や写真、公文書・インタビューが混じってて、へんてこな本のつくり。
アマゾンでは、「現代アメリカ文学の最先端にして最高峰!」…なんて書評が。
小難しい本かなと思い、あんまり難しいなら、ちらっと見るだけにしようと思ってました。
でも。
読んでみると、これがホラーで。
見かけはすごくいかめしいけど、非常にフツーの、でも傑作ホラーです。
お話を追って、どんどん読めました。
現代文学とか思ってシャチこばって読むより、ともかく、このややこしい見せかけから、怪談を発掘するように読む。
すると、けっこうすらすら読めます。
ある家に引っ越してきた夫婦。
夫はカメラマン。妻は元モデル。幼いふたりの子供。
夫が仕事に入れ込みすぎ、妻は自尊心高すぎで、壊れかけてる家族。
その修復の目的で引っ越したのです。
ところが、その家が、恐るべき家だった…
引っ越してきた家族は、家が変だということに気づきます。
家の内部で大きさを測るのと、家の外で大きさを測るのとで、サイズがちがう。
なんと、内部のほうが外部より大きい。そして、謎の廊下の出現。
その廊下は、広大な闇の迷宮の入口。
家族は、探検家を呼び、この迷宮の内部の撮影を始めますが…。
というのが、ストーリー。
でも、書き方が素直じゃないですw
まず、老人が死ぬ。
その部屋から、若者が、紙束を発見。
それは、ある映画フィルムについて書かれた論文。
そのフィルムというのが、不思議な家に住んだ家族の残したものなのです。
家族→老人→若者、の三段階。
基本的に、老人の書いた論文がメイン。その論文を若者が読んでいく。
膨大な引用があり(大半がニセモノ)、たいへん読みにくい。さらに、若者も独自の書き込みをする。
ただ、それはあくまで目くらまし雰囲気作り。
そっちに気をとられすぎると、わけわかんなくなっちゃうんで、まずはストーリーを追うのがいいと思います。
ストーリーのあらましがわかってくると、次の展開が知りたくて、どんどん面白く読めます。
ボルヘスやらナボコフやらピンチョンやらデリダやらのことは忘れていいんです。知らなくていいんです(笑)
素直に、論文の中からホラーストーリーを発掘していく。
すると、解読でストーリーのあらが隠され、ストーリーの面白さで注釈解釈の浅さが見えなくストーリー自体の面白さと、暗号を解読するような面白さがいっしょに味わえます。
論文の形式で書かれているのは、作者が、大学などで死ぬほど論文を読まされた恨みによると思われますw
すぐれているといわれるアメリカの大学ですが、学生さんたち、なんか知的馬車馬のようになってて、気の毒になっちゃいました(泪橋
現代文学・思想の難解さは、それ自体がパロディみたいなんで、エンタメとして使える。
うまくいくと学者もだませる。
*1
これは意識無意識によく使われてる手法(?)で、『紙葉』もそんな作品のひとつ。
日本にも、すでに1960年代、荒巻義雄という作家が、金字塔を打ち立ててます。
ニーチェとハイデガーの思想に基づき、虚無の海の流出を防ぐべく、高次元ダムを築く土木技術者の物語「大いなる正午」を書いていますv
短篇ですが、『紙葉』を読んでると、すごく思い出しました。
この作品(現在入手困難)のことは、また後日。。
紙葉家、ハリウッド映画化の話もたくさん来てるらしい。
また、ネット上で、作品内に登場するフィルムの贋作を作ってる人がいるかも(探したけど、私の検索能力では発見できず)。
膨大な注釈は、主に、家族の問題や、アメリカの抱えてる闇を、家の中に出現した闇の迷路と結び合わせたりほどいたりすることに、費やされているようです。象徴とか寓意とか。
あまりまじめに付き合って読まなかったんで、よくわかりましぇん。作者の人、ゴメンナサイ。ご苦労さまでした。
でも、ホラーをよく読みこんでる人は、こんなこと余計なお世話で、よくわかってることか思ったり(漠
『紙葉の家』
ホラーの傑作。印刷技術の粋を凝らした奇書。
ていねいに読み込むと、今のアメリカの闇と光が見えてくるはず。
翻訳者と印刷の方は、神業。現場では死傷者が出たにちがいありませぬ。ベタなタイポグラフィーをよくぞここまで律儀に。迷路が狭くなると幅が狭くなり、横穴に入ると活字は横向き…と、めっちゃそのままです。作者は楽しいでしょうが、印刷はたいへんでは…(w
原著は見てないんですが、日本版のほうがいい本になってるかも。
私がまだ気づいてない本の仕掛けがあると推定されます。
この本の謎を解明するサイトがあるといいなぁ。
追記。
『紙葉の家』を読む前に、夢枕漠の傑作『上弦の月を喰べる獅子』を読むとよいかも。
らせん。オウムガイ。フィボナッチ数列。迷宮。
目から鱗・・・
『ダ・ヴィンチ・コード』を思い出しました。
あれってミステリーとしては全然、大したことないのに
ちょっとこむずかしくて教養の匂いがするあたりにやられちゃう。
overQさんのこの記事を読んで、「難解=傑作」ではないという事に
気がつきました。
むしろ、難解の迷宮に入り込んでしまうと抜け出せなくなってしまう。
そんな気がしました。
見当違いの事をいっていたらごめんなさい(^^;
私もつい最近、『薔薇の名前』という本で苦労したものですから・・・
でも『紙葉の家』は、読まないまでもぱらぱらと見てみたいような気がします。
これ、おもしろかったですよねー!
たしかに詳しく詳しく読み込んでいくとかえって
頭がこんがらがっちゃうかんじで、単純にホラーや
都市伝説の気分で読んだ方がすらっといくかも。
でももう一度、深く読み込んで今度は
家族の病理などについて考えていくと
またまた違うおもしろさがありそうな。
という訳でこの本はわたしにとっては再読したい本でした。
おもしろそーーー!!
overQさん、こんにちは。
わーいっ、私の拙いブログでビビビと来たなんて!
うれしいです〜ありがとうございまっす!!
あぁ、それにしてもとっても変でおもしろそうですね。
なるほど、これはホラーなんですね。
なんだか色々読みどころがたくさんありそう。
翻訳者と解説のびみょうな温度差も気になります(笑)
あわわ、本当にクリスマスにほしくなっちゃいましたよ〜(笑)早く読んでみたい〜!!
Posted by: あさこ : December 13, 2004 3:31 PM>LINさん。
「紙葉の家」も「薔薇の名前」も、なんというか…解読系ですね。
作者があらかじめ、知的パズルを仕掛けてて、それを読み解くのが、読書の醍醐味になってる。
一方、作者はただ、自分が書こうと思ったもの、胸の中のかたまりのようなものを、丁寧に表現していっただけ。でも、作品自体は、何とも言いようのない謎がある。
…そんな作品もあります。
いろんな人がいろんな解釈をこころみ、そのどれもが当たっているけど、謎そのものを言い尽くすことはできない…。
文学の傑作は、どちらかといえば、後者のようなものかもいしれません。
なぜなら、人生が、まさにそういう謎だから。誰が仕掛けたわけでもないが、奥行きがあって、謎めいている。
「紙葉の家」は、文学作品として人類の歴史に残る…というようなものでは、ぜんぜんないでしょう(笑)
でも、作り物として、いろいろ工夫があって、楽しませてくれますヽ(´ー`)ノ
まじめに読んじゃうと、たぶん、とんでもない迷路にはまり込んでしまいますが、斜め読みすると、おもろいです。
タイポグラフィーというんでしょうか、活字遊びがすごくて、読まずにパラパラめくっても、けっこう楽しめます。
しかし、この難しい印刷のために、値段がお高いです(泣
>かっこーさん。
一回読んでおけば、免疫ができるので(笑)、
二回目からは、どんな深読み・付加読み・負荷読み・不可読みもOKですよね。
この作品、異常なほど家族の問題が出てきます。
いちばん気になるのは、やっぱりトルーアントの母親。
自分の子供を自分の所有物にしようとする母。それに対して、子供は母親殺しを願っている。
しかし、結局、いちばん「闇」にとらえられるのは、「紙葉の家」からいちばん遠いはずの脚注者トルーアント。
この作品に出てくるすべての男性がそうですが、なにか子供っぽい。
お母さんから離脱できない。
じつは、作者自体もそうじゃないかと思えるふしがあり、どんなに知的に武装しようと、なんだか子供っぽいです(笑)
>あさこさん。
面白い本、ご紹介いただき、ありがとうございます!
「紙葉の家」は、現代文学の傑作みたいに書評されてるんですが、そう読んじゃうと面白くないと思います(笑)
でも、ホラーとして読むと、これがほんとに面白い!
いったん、ホラーとして楽しんでから(怖がってから)、細部を読んでいくと、味わい深いのではと思います。
また、他のホラー作品も、いろんな寓意や象徴、時代背景があるんでは、と読書の幅が広がるかも。
物体としての本としても、印刷技術がすごくて、なかなかの値打ち物。
なんたって、4600円もしますからw
もし絶版になれば、プレミアがつく可能性も大ヽ(´ー`)ノ
はじめまして。『紙葉の家』に関する記事を見ていて辿り着きました。
訳者の嶋田氏が割と冷めた姿勢だというのには驚きました。
しかし、例の家にしても、『紙葉の家』という本自体も、「そういうものなんだよね」と割り切ってしまうことが可能なので、
その後でハマるか否かはもう好み次第の本なのではないかと思います。
ちなみに私はハマった挙句『紙葉の家』サイトを作っています。
謎解き的なことはあまりしていませんが、穿ったり、捻ったり、継ぎ足したりして遊んでいます(笑)
よろしければ、ご覧ください。
こんばんは、こちらこそはじめまして!
もうだいぶ前に書いた記事ですが、読み返してみると、記憶してたよりも、ずっと辛口でした(;・∀・)
でも、今感じてる印象は、もっと好感度の高い感じで、時間があれば読み直してみたいところ。
再読、再々読…じっくり読み解いていかないと、読んだうちに入らない作品かも…私は読者とはとうてい呼べないような気が今はします。
お作りのサイト、すばらしいですね☆
いろんな愛好者がよってたかって、自分なりの探検していくのにふさわしい本にちがいないです!