
先日ベルギーで行われたオークションに、これまで見つかっていなかったカフカの手稿が、出品された模様です。
この手稿は、フランツ・カフカの妹がもともと所持していましたが、カフカの死後、最後の恋人だった女性ドーラ・ディマントに譲渡されました。しかし、彼女がその後、ナチスによって収容所に送られ、消息を絶ったため、この原稿は行方不明になっていました。
どのようないきさつによってかわかりませんが、今回、それが、完全な形で発見され、オークションに出品されました。
手稿には、40あまりの未発表短編小説と、さまざまな未定稿、そしてあの未完の長編「城」の完結部分が含まれる、とカタログには記載されています。
出品者、落札者、落札価格ともに不明ですが、オークションに参加していた日本人関係者の証言によると、黒い帽子をかぶった双子のような小太りの紳士二人組によって、「相当な高額」で落札されたとのこと。青白い顔で、腹が突き出しており、小文字のdをふたつ並べたような二人組だったそうです。
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「城」は、主人公の測量技師が、城のある町にやって来ますが、けっして「城」そのものには到達できない、という話。城は、塔のように町の中心にそびえ立っているのですが、技師はさまざまな邪魔や事情から、その周りをうろつくことしかできません。
オークションカタログの説明によりますと、完結部分では、技師が城への興味を失い、城からも追放されて町から出ようとしますが、今度は出ることができない、という風に展開していくらしいです。
クラインの壷のように、内部へ向かう運動が、いつの間にか外部へ出る運動に変換しています。
あるいは、外側にいたはずが、いつの間にか内側に繰り込まれており、技師の、特に意味があるとは思えない日常の断片的行動も、城にとっては重要な要素となっている可能性が示唆されます。
技師と助手、技師と女たちとの関係も、逆転や再逆転が生じます。やがて「中心」へと、吸い込まれるように到達した技師は、そこが塔の天辺ではないことを知ります。城はもう天に向かって垂直に伸びるのではなく、水平にどこまでも広がって、世界を一様に覆いつくしていること、したがってあらゆる地点が、城の「中心」であることを発見して、終わる…ということです。
うーん。読んでみたいなぁ。落札した「黒い帽子の双子の紳士」、どこかで公開してくれないのかなぁ。
なお、このオークションは、4月1日に行われ、「マルコ・ポーロがチンギス・ハーンからもらった、砂漠の砂を金に変えるガチョウ」や「エーゲ海の海中探査で発見された、人類最初のサッカーグラウンドの使用権」(変な髪形の金髪の若いイギリス人により落札)などとともに、出品されたと伝えられています。
カタログに記載されていたごく短い小説断片のひとつを翻訳してみました。池内紀さんの文体を真似てみましたが、うまくいったかどうか。
真理水の中で何かつかんだ。
よくわからない。
しかし、よく見ようとして、水から
取り出すと別なものにかわってしまう。
で、しょうがなく、元に戻せば
水の中では確かにこいつだ。こういうものについて、昔の
人は何といっていたか。
名づけてはならない。
名づけようもないから、かりの
名をつけるが、そのせいで
言葉というもののある限り
いたるところに現れるようになった。参考にはさせてもらう。
しかし、これではどうしようもない。
水の中でそれをつかんだままいるしかない。
手も離せない。
水からあがることもできない。
さて、どうしたものか。