猫猫がいなくなった。
生まれてすぐを友人から
もらい受けたかわいいやつだ。
小さなくず毛玉みたいな
赤ん坊の頃の写真は
今も机の上に飾ってある。
二年半、名前もつけないまま
飼われ、二週間前の夕暮れ時
どこかでそれらしい泣き声がしたあと
失踪してそれっきり。
何の音沙汰も無い。ひょっこり帰ってくるのではないか。
そんな夢をすでに五六回も見ている。
名前が無いので「ネコ、
ネコ」と呼んでいた。
自分の名前はネコだと
思っていたに違いない。エサ皿が乾いている。
表に出しておくと小鳥が来た。
猫は死んで鳥になったか。家の中にいてもいつの間にか
目がネコを探している。
いないと気づくと胸がハッとなる。
街を歩いていても
始終路地ばかり覗き込んでいる。
似た猫は何匹も見かけたが
追うとすぐなぜか
あいつではないとわかるのだ。
どこが違うともいえないが
確かに何かが違う。夜中、激しく泣きあう猫がいる。
まるで違う声なのに
どこかあの猫のことを感じさせる。
起きて探しに行こうか布団の中で
思案しているうち眠りに落ちる。猫は家を出て
家の中にいたときとは
まるで違う自分を発見した。
私の知っている猫とは
すっかり違った生き方で
彼は彼なりに生き抜いているにちがいない。
私が知っていたのは昼間の顔で
猫にはそれとは別の夜の顔があったのだ。
もうずいぶん前から、私が
きづかなかっただけで。さて、ある日、帰宅して
明かりをつけると
部屋はがらんとしているのに
なぜだか猫の気配がする。
閉じられた窓はのっぺりと
夜の闇黒を映していた。
そのとき、夜が
夜そのものが
あの猫だと気づく。
この部屋以外、世界の
すべての部分がいまや
あの猫なのだ。
部屋は猫に包囲され
押しつぶされていく。
灯りを消した途端
夜は一気に浸入して
部屋を満たした。
星空のきらめきのような
幾千万の猫の鳴き声がさざめき
私は溶け合うように猫と再会する。
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