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三十三夜 第23夜 「弟者」

written by overQ
May 30, 2004

今夜は「弟者」。
昨夜の「兄者」と兄弟作です。
…といいつつも、どちらも、自分としては失敗作なり(〃⌒ー⌒)

ユダとキリストを双子として設定し、ミステリー風に話を展開する、というつもりだったんですが。
裏切り、金銭授受、正反対の双子、殺しと追放…。
でも、うまくいかず。さすが兄弟…犯人はオマエだ、すべてスリットお見通しだ。

なお、付録として、いいわけミステリー覚書を付けました…自分用。犯人は私ですた。

さすがだな、漏れたち
弟者

私は嘘つきなのか。
神の声が聞こえた。
それにしたがって生きてきた。
神の言葉を人にも告げた。
そうするよう言われたからだ。

幻聴なのか。
そうかもしれない。
そうでないかもしれない。
私は声にしたがった。
覚悟はもとよりできている。

石つぶてを浴び
恐怖を感じることもある。
熱狂する信者が
暴徒と同じ目をしているのも
私には恐ろしい。
結末が見えない。



兄と名乗る男の登場。
知らない。
母は何も告げなかった。
母は処女で私を宿した。
兄はいないはず、というと
双子の兄弟という。

瓜二つだというものもあれば
まるで別人というものもある。
真実はいつも分裂する。
私は選び
そして虚言のそしりを受ける。
神が告げなかったことだ。

男は疑いの目で私の影を追った。
私が信じれば彼は疑う。
私自身が分裂したのではないか。
似ていない、それは
正反対だからだ、鏡の像が。

神の言葉を告げながら
それが意味するところがわからない。
人はさまざまに受け取る。
語る私自身がその意味をのちに知る。
預言とはこのようなものなのか。

そうであるなら私は
ただ媒体として聞こえたことを
口にすればよいだけのはず。
それがなぜこれほど悩み多いか。
私は嘘をついているのではないか。

神の声など聞こえていない
とすればどうか。
私は自分の意図を
自分でもそれと気づかず
告げているだけのこと。
人がそれを曲解する。
そんなつもりではないという代わり
私は真意を神にゆだねてしまう。

兄を名乗る男は
私の秘密を知っているという。
神の声など聞こえてないと知りながら
私を神の子だとふれてまわる。
男のせいで民衆の熱狂は高まった。
結末を求め始めた。

嘘だと知りながら
それを説いてまわる男。
意図は何だ。
その逆に私は
真実だと思い込んで
嘘をついているだけ。
鏡に映ったわが姿。
正反対の双子。

彼には見えているが
私にはわからない。
結末は彼が用意する。
私はそれを演じる。
恨みと羨み二匹の蛇が
互いの尻尾をくわえ込む。

ところがある夜
男が私の名を名乗りはじめる。
私は彼の影を追う。
立場は入れ替わり
逆上した私は
彼を「私」として告発する。

神を騙るものだ。
これ以上の罪びとはない。
私の聞いた声
私のかたった言葉。
それが彼の物になり
彼の口からかたられた途端
すべて嘘になる。

月が再び満ちるまでの間
やっと飢えが癒せるほどの金で
私は彼を売った。
男は神を騙りつつ
死出におもむく。

これは夢であろうか。
処刑を受け幻覚の中
あらぬ現実を夢見ている。
嘘つきは誰なのか。
真実とは何なのか。

見よ、時が止まり天が割れ
処刑される男の元へ
神の手が差し伸べられる。
あれは私の運命だ。
人々には見えていない。

あるものは笑い
あるものは泣く。
多くは疑い続ける。
私は取り残された。
進むべき道はない。

真実は分裂をやめた。
真の姿が現れたのではない。
消えてしまったのだ。
声は聞こえない。語る言葉もない。
悩みも恨みももう私を捉えない。

私は来た道を引き返した。
一度通ったはずの場所が
戻りゆく眼からはまるでちがって見えた。
終点には母の思い出の代わりに
鏡が置かれていた。
そこには誰も映っていない。

[ミステリー覚書]
兄者・弟者を書いて気づいたことを少し。

まず、ミステリーでよくある、探偵が最後にみんなの前で謎解きするというやつ。
しかし、あんなふうに筋道だって説明されるより、探偵がひらめいた一瞬のほうが興味深いのではないか。
些細なことをきっかけに、それまで心に引っかかっていたことが、すべてあるべき場所に配置され、謎が一瞬にして氷解する。その走馬灯のような構造化の瞬間。

次に、双子や多重人格のトリック。
最初の推理小説といわれる「月長石」以来、使い古されたものです。
でも、犯人と探偵が双子的・多重人格的に一致する、というような形で、多くのディテクティブ・ストーリーの、隠された主題になっています。
正義と悪が、黒と白が、神と悪魔が、交錯・一致・反転する。その一瞬としての、謎解き。

そして、ミステリーで解かれる謎は、かならずしも殺人の犯人である必要はない、ということ。
人生の謎、といえば、大げさですが、何か心に引っかかるものは、日常あります。
たとえば、仲が悪いわけでもないのに、何となく異和感のある家族。うちの家族、何か変だな、と感じることもあるけど、ふだんは忘れて生活している。ところが、じつは、両親は外国から拉致されてきたのだった、とわかる瞬間。
謎の解明は、これまで気にかかっていたことにちゃんとした説明を与えてくれますが、一方では受け容れがたいほどの重すぎる事実だったりする。だからこそ、隠されていたわけです。
現実だと思っていたものが幻であり、本当の現実は、なにか茫洋とした、気味の悪いものだとわかる瞬間。
足もとの大地が割れ、奈落の深遠が口を開く。
何世代にもわたる歴史の負債や、人間そのものの謎につながった闇。

そんな一瞬を、できるだけシンプルに捉えたかったのですが、うまくいきませんでした。考えて作ろうとすると、なかなかうまくいかないってことですかね。
またいずれ、まったく別な形で実現するかもしれない…と、いいほうに考えることにして。



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