今夜の三十三夜は、「死者の町」。
とてもシンプルな作品だと思っています。ほかの作品の原型のような。
…あと二夜だ。
死者の町上流の村で何かあったのだ。
死んだ子供が何人も流されてきた。
おかげで下流には
ちょっとした死者の町ができた。死者には衣食住の欲求がなかった。
昼間は夢見るような目で空を眺め
夜になるとたがいの数を数えあった。
月のない日は闇の中
世界のあるべき姿について夢見た。生きたまま流されてくる子もあった。
彼らは死者に育てられ
物心がつくと上流を目指し旅立った。
血の色をした《流れ》は激しく
上流までたどり着けるものは稀だった。
力尽きれば死者として
また死者の町に戻ってくる。
もうニ度と冒険することもない
とわに安寧なる死者の国の
正統な住人として。上流の村で何があったのか。
死者たちは記憶をたどるが
その行くつく先は
千地に乱れている。あるものは戦争があったといい
あるものは疫病がはやったという。
乱心した王の仕業とも
東の異教徒の侵入だとも
昔から続く風習に過ぎぬとも
不吉な予言の成就とも
世の末とも新生の始まりとも
さまざまに説かれては
忘れられ繰り返された。下流では時が停止していたので
記憶を因果の律で並べることができず
永遠の子供の遊びのように
いつまでも飽きることを知らず
散乱し続けるのだった。
あるものはここを地獄と呼び
あるものは天国と呼ぶが
死者の多元世界では
矛盾が併呑されてしまう。実のところ
神の視点から見れば
上流に町は存在せず
ただ流れに逆らってまで
それを目指す愚かな死者がいるだけだ。
自らの死をわきまえぬ
それら登坂者の絶望的な試行を
かの人は永劫に祝福する。