AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: カエルは何匹?―芭蕉のグロテスク・リアリズム

カエルは何匹?―芭蕉のグロテスク・リアリズム

written by overQ
August 23, 2004


枯枝に からすとまりけり 秋の暮     芭蕉

大江健三郎さんが、パリで公開討論をした際のこと。
フランスの詩人がこの俳句に言及して、「この十数羽のカラスに、日本人の心はよく表現されている」と述べたんだそうです。

烏たちカラス十数羽
大江さんは、この俳句のカラスは、当然一羽だし、一羽でなければならないと思っていたので、クレームをつけました。
ところが、同席していた日本の古典研究者が、こう言いました。
…この俳句に合わせて、芭蕉自身が描いた絵が最近見つかって、そこにはカラスが二十数羽、えがかれている、と。

_| ̄|○がくぜんとする大江氏は、さらに妄想を膨らませます。
では、ひょっとすると、

古池や かわずとびこむ 水の音
のカエルも、一匹じゃないのか。
何十匹も繁殖したカエルが、どやどやと池に飛び込む様子を描いたものなのか。ボチャボチャボチャ。


この話、大江さんは、ある講演(「日本の知識人」)の冒頭で、話の枕として軽く紹介してます。
丸谷才一「輝く日の宮」にも、おなじ話が登場人物の会話として出てきます。最近では、わりと通説になってきてるのかもしれません。

日本語では単数複数があまり区別されないんで、起こる問題。
単数だと思い込んでいたものを複数化すると、まったく違った世界が開けてきます。
芭蕉のわび・さび・かろみは、一般に流布しているイメージとは違い、もっとグロテスクなものなのかも。

無残やな かぶとの下の きりぎりす
一匹じゃないんです。五十匹くらいいたら、どうでしょう。無残は、べつな意味で響いてきますw
かぶとを持ち上げると、そこにはウジャウジャと…((;゚Д゚)イヤー

きりぎりす、芭蕉は好きみたいで、ほかの句もあります。

白髪抜く 枕の下に きりぎりす
きりぎりす、五十匹。
たいへん、いやなイメージが妄想されてきました。
白髪を抜きながら、枕の上で頭をゴロゴロ動かしたので、つぶれたものも多数いるかもしれません。
お食事時に読まれた方、申し訳ございません。
きりぎりすは、いたるところに出没します。
床に来て鼾に入るやきりぎりす
きりぎりす忘れ音に啼くこたつかな
猪の床にも入るやきりぎりす
コタツにきりぎりす! きもい…
きりぎりすといっても、コオロギのことかもしれず、あるいはあの茶色い生物のことかも…
ホラーの様相さえ呈してきましたw
さる、ほととぎす、ちょう、はえ、せみ、こうもり、など、旅の途上で出会う、多彩な生き物を詠んだ芭蕉。
生命について、とてもリアルでグロいイメージを抱いていたと、考えてよさそうです。

[参考サイト]
芭蕉俳句全集…芭蕉の全俳句が読めます。たいへん有用で、芭蕉観が変わるほど。カラスの絵もここから拝借いたしました<(_ _)>



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コメント

はじめまして。
サーフィンしていてこちらを見つけ、たいそう気に入り、こっそりと日参している者です。

この話、初めて知りました。
目から鱗!
感動とともに、ある意味鳥肌が……(笑)

当然のことと思っていたものが覆される時、思いもよらぬ世界が開けてくるものですよね。
その快感ったらありません。

また楽しい記事を拝見させて頂けることを期待しつつ、日参させていただきますv
おじゃまいたしました。

Posted by: Site icon akiko : August 23, 2004 9:09 PM

うわあああ
きりぎりすがたくさん! 夢に出てきそうです…
岸田劉生言うところの「デロリの美学」ですね。
奈良時代の仏像なんかも、往時は極彩色だったそうですし。
日本人の美的感覚って、案外どぎついのかも。

Posted by: Mlle.C : August 23, 2004 11:05 PM

おもしろい話ですねー。
大江さんの話も、エントリーのテキストも。
またときどきのぞかせていただきます。

Posted by: 7ntrdbl : August 23, 2004 11:32 PM

akikoさん、Mille.Cさん、7ntrdblさん、こんにちは。

大江さんは冗談とも本気ともつかぬ調子で話されてるんですが、よく考えてみると、この話、ほんとはまじめな検討に値しそうです。
さらに、単数複数の区別がわかりにくいのは、芭蕉に限らず日本語一般の性質なんで、ほかにも検討すべきものがあるかも。
なんだか、案外、恐るべき指摘であるのような気がしてきましたw

Posted by: Site icon overQ : August 24, 2004 11:33 AM

こんにちは。こちらでは、はじめまして。
ものすごく刺激的な面白い記事です!
私も目からウロコ、ぽろり。
偶然、我が家のスイレン鉢に棲む蛙の写真と一緒に
芭蕉の句と、そのイタリア語訳を載せたのですが
翻訳者さん、飛び込む音ではなく、その時の水面の
様子を前面に出すことによって、日本語における単数・複数の曖昧さをかわしていました。。
しかし、そうすると句の意味が違ってきますけどね。

Posted by: Site icon ねる : August 25, 2004 9:31 AM

ねるさん、こんばんは。
蛙のイタリア語訳、イタリア語わからないなりに、ネットで翻訳して、おおよその感じ、探ってみましたw
これは、かなり名訳ですね。
でも、やっぱり、カエル、一匹ですよね。
複数かもしれないと知ると、翻訳者の方、傷つくかもw
何十匹も飛び込むと、水面がどろどろになって、にごるわ、波はおさまらないわ…
すべての責任はノーベル賞作家に。。w

Posted by: Site icon overQ : August 25, 2004 8:34 PM
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