タマちゃん。
もう、誰もその名を口にすることのない、タマちゃんことニシタマオ氏。
タマちゃんにまつわる一連のエピソードには、なにか寓意めいたものがあり、同時に何の意味もない気がします。
…カフカは寓話と呼ぶしかない話をたくさん書きました。
でも、どれも、寓意がわかりそうでわからない。寓意不明の寓話。
それは、じつはこの世界そのもののあり方も同じ。意味がありそうなんだけど、その意味はよくわからない。勝手な意味を見出して、狂信することもできるのだけど、どこか「そうでない」思いがつきまとう。
世界を普遍的に覆い尽くす「意味」は、どうしても見出せない。
カフカの寓話は、そんな世界の模像かもしれません。
今宵の六十六夜は、ニシタマオ氏のために。
今頃、海を泳いでおられるでしょうか。
恋人できたでしょうか。
サンマの群れに出会って、秋の味覚を堪能されてるでしょうか。
シャチに追いかけられて、ひどい目に遭ってないでしょうか。
まるまると太ったキミは、あまりにうまそうではなかったでしょうか。
世界の終り多摩川の河口で
世界の終りが目撃されたそうだ。
二週間ほど前のこと。
朝夕欠かさず河原を散歩している
西田真央さん(38歳、無職)が
世界の終りを撮影した。
趣味は写真というだけあって
超望遠を使い
世界の終りの不意を突いた撮影。
地方紙の一口メモに掲載されると
意外なほどの反響があり
やがて全国紙やテレビニュースで
取り上げられるようになった。
すると世界の終りは
爆発的なブームとなって
「恐ろしい」「世も末だ」
「よく見るとかわいいかも」
「これなら滅んじゃってオッケイ」
と大人気。
多摩川河川敷は
世界の終りを一目見ようと
集まった善男善女であふれた。アフリカや中東などでは
ときどき目撃されることもあった
世界の終りだが
日本ではここ五十年余り
はっきりとした目撃例はなかった。
なぜ突然、日本に現れたかは
謎である。
世界の終りブームに当て込んで
地元商店街も
世界の終りキャンペーンを繰り広げ
集団自殺ツアーや
サバイバル教室が盛況とのこと。
しかし人々の盛り上がりをよそに
世界の終りはある日
忽然と姿を消した。
血の海と化していた多摩川は
もとの穏やかさを取り戻す。
だが人々は落ち着かぬ気持ちで
執拗に世界の終りの姿を追うのだった。
数日後、多摩川から数キロはなれた支流で
ようやく世界の終りが目撃される。
マスコミが押し寄せ
女たちは金切り声を上げ
子どもたちは恐怖に絶叫する。
町は大パニック。
いよいよ本格的な
世界の終りブームの到来だ。
世界の終りを捕獲して
もとの平和な世界を取り戻すのだ
と主張する謎の団体も現われる。
商店街のにわか景気を死守するべく
捕獲させてはなるまじと
地元有志も立ち上がる。
血みどろの闘争が繰り広げられ
全国を巻き込む大論争に発展。
いよいよ世界の終りブームは
ピークを迎える。
ノストラダムスや核シェルターなど
関連グッズも飛ぶように売れ
研究本「世界の終りの謎」は百万部を突破。
村上春樹の過去作品も
名前が似ていることから再ベストセラーに。
世界の終りの経済効果は
阪神優勝の666倍という経済レポートも。こうして大ブームとなった世界の終り
その後もときどき姿を消しては
ひょっこり別な場所に出現して
そのたびニュースで取り上げられた。
が、ブームも徐々に下火に。
やがてテレビでも
滅多に見かけることがなくなり
世界の終りを話題にしたホームページも
更新はすっかり途絶えがち。
多摩川に子どもたちの
叫びが上がることもなくなった。
世界の終りがいなくなったわけではない。
あいかわらず多摩川は血の色に染まり
空は業火の炎で真っ赤に焼け爛れている。
ただ、もうすっかり
見慣れてしまった風景なので
いまさら誰も関心を示さない。
世界の終りはその後も
日本各地に出没し
親が子どもを殺したり
子どもが親を殺したり
子どもが子どもを殺したり
未納や派兵や詐称や自己責任など
いろんな姿をかいま見せた。
しかしブームは去った。
誰も何の興味も示さない。
世界の終りはこうして
日本の一部となって
すっかりその心に定着してしまった。
今では空気のようにそれを吸い
なにげにそれを吐き出している。