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カフカの終わらない小説

written by overQ
October 10, 2004

プラハ、1922年まだまだ続く、カフカ話。
もはや、カフ厨と化した感のある、このブログでございます( ;´Д`)

さて、カフカは、
失踪者(アメリカ)
審判

の三つの長編小説を書きました。
書きましたが、どれも未完
なぜ、完結しなかったのか。

ボルヘスは、カフカの小説の原理は、ゼノンのパラドックスと同じだ、と喝破しました。

ゼノンのパラドックス――アキレウスと亀
あるところにアキレウスと亀がいて、二人は徒競走をすることとなった。しかしアキレウスの方が足が速いのは明らかなので亀がハンデをもらって、いくらか進んだ地点(地点Aとする)からスタートすることとなった。
スタート後、アキレウスが地点 A に達した時には亀はアキレウスがそこに達するまでの時間分先に進んでいる(地点 B)。アキレウスが今度は地点 B に達したときには亀はまたその時間分先へ進む(地点 C)。同様にアキレウスが地点 C の時には亀はさらにその先にいることになる。この考えはいくらでも続けることができ、結果、いつまでたってもアキレウスは亀に追いつけないことになる。
    −Wikipedia「ゼノンのパラドックス」

直線が究極の迷路である」とも語ったボルヘス。迷路とは、カフカの作品を念頭においてのこと。

最初の長編「失踪者」。
女中に誘惑され、妊娠させたため、故郷にいられなくなった青年が、新天地アメリカにおもむく。
しかし、進めば進むほど、アメリカは拡大していく。小説は、「終わり」を見つけることが出来ない。

カフカの小説作法は、
「トンネルの中を先も見えないまま、突き進んで行く」
「書きながら、小説に追いつく」
というものでした。
できれば一気書き、悪くても数日で書きあげること。直線=迷路。
短篇ならば、それでうまくいくこともあるでしょう。「変身」はそのようにして書かれた。
しかし、長編はそうはいかない。同じ方法でこころみた「失踪者」は、文字通り「失踪」をとげる。
あるいは、なかば確信犯だったかも。カフカの無意識は、「きっと完結しない」と知っていたにちがいない。
終わらない闇に突入すること、それが長編の書き方。

で。
カー様は考えた。
じゃあ、こうすればいい、まず最初と最後を書く。あとは、あいだを埋めていけばいい、と。
審判」はそのように書かれました。
実際、最初の章と最後の章は、同じ文体で書かれています。
同じ時期にいっきょに書いたからです。
主人公Kが逮捕される最初の章。そして、Kが処刑される最後の章。
よっしゃあ。あとは、あいだを埋めるだけ。

…そううまくはいかない。
うまくいくわけないじゃないか(笑)
ゼノンの笑い声が聞こえそうです。
書き始めると、「あいだ」はどんどん増殖をとげる。
30歳の誕生日に逮捕され、31歳の誕生日前日に処刑される…たった一年のはず。
しかし、どうしても、「あいだ」プロセスが埋まらない。埋めても埋めても、すきまが広がっていく…。

でも、それが裁判というもの。カフカは「審判」を、おそらくディケンズの「荒涼館」からヒントを得て書いています。
「荒涼館」は、英国裁判史上もっとも長く審理のつづいた裁判を主題としています。
裁判当事者たちはとうに死に絶え、子孫たちが裁判をになっているのですが、もともとどんな裁判だったかさえ、よくわからなくなっています。
最後は、大金持ちたちが、裁判費用に全財産を使い果たし、裁判を維持できなくなって終わります。
金をめぐる裁判だったのに、裁判自体がその金を消費してしまった。そして、裁判そのものの決着はつかない、つける必要さえなくなってしまう…すんごい、小説です。
裁判とは、続けられる限りは続くものなんです(笑)

カー様のことに戻ります。
カフカには、「万里の長城」という短篇があります。
世界遺産、中国のあの万里の長城を建設する人々の話。
万里の長城もまた、完成しませんでした
カフカは、万里の長城の建設計画を、「工区分割方式」と呼んでいます。
先端から工事を始めて、終わりまで作りきる、というのではなく、適当な部分部分を、気まぐれに作っていき、最終的につながれば完成、という方法。
池内紀さんも何度も指摘していますが、これがカフカの長編の創作方法です。
工区分割方式
で。
結局、完成しない。あいだは…埋まらない(涙

もう、ここまで来ると、わざとやってるとしか思えない。
最後の長編「」。
カー様は、さらに作戦を練り上げました。
城を、中心にすえる。主人公が、その中心へ向かって行く運動を、小説にすればいい。
そうすれば、円はだんだんすぼまっていくわけで、必ずや、「終わり」に到達するであろう。
エレアのゼノンは、笑ったでしょう。
まんまと、ゼノンの罠にはまる、カー様ヽ(´ー`)ノ

主人公Kは迷走します。
行けども行けども、たどり着かない。円の中心に向かう運動は、らせんを描くけれど、そのらせんは無限に渦巻いていく。アキレウスは亀に追いつかない。
さらには、中心がどこか、それが本当に「目標」なのかさえ、わからなくなっていく…。
細部が細部を呼び出し、さらにその細部が細部を呼び出す、というフラクタル状態
「城」を書いていた頃、カフカはもう自分の体調の悪化に運命を感じ始めていました。
「城」もまた、終わらない小説…そのことを、さとって書いていたように思えます。
そして、それが、自分の小説のもっとも核心的・革新的な性質であることさえ、さとって。いや、小説ではなく、それが現実のもっとも核心=革新だと、確信して。



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