子供の頃、アラビア系の人の名前といえば、ハッサンでした。
マンガでもドラマでも、ターバンをまいた男の名前はかならずハッサン。アラビアンナイトあたりが起源なんでしょうか。
最近は、あまりハッサンという名を耳にしなくなった気がします。
そのせいか、ハッサンという音に、懐かしさを感じます。ポプラ社の世界名作童話や江戸川乱歩やルパンの世界に、きっと見え隠れするハッサン。
今宵の六十六夜は、「ハッサン」。藤子不二雄のようにもなりましたけど。
ハッサン1.デアイ
どの塾に通っても
なんにん家庭教師を雇っても
いっこうに成績が上がらない。
業を煮やした親はついに
鞭打ち人をつけると言い出した。やって来たのは
ハッサンという外国人。
皮のパンツをはいているほかは
丸裸の大男。
筋肉と脂肪が
競い合うように
からだの各部に盛り上がり
いつも大汗をかいて
てらてら光っている。
むろん日本語は解さない。
ひょっとすると
どんな言葉も
解さないのかもしれない。
目が合うと、ウーと
地響きのような唸りを上げる。
鞭 は黒皮の長鞭。
それ自体が一匹の
生き物のようにしなる。
端のところを右手に
くるくると巻きつけてある。
ハッサンが軽く腕を振るだけで
鞭は凶暴にたけり狂い
大地をしたたかに打つのだ。このように
恐ろしいハッサンだが
じつはグレープ味の子供歯磨きが好物。
これを知った僕は
近所のスーパーを回って
子供歯磨きを買い占め
ハッサンに餌付けして
たちまち手なずけてしまった。
親はさらに新たな手を考え
挑戦してくるにちがいない。
ベッドに寝転がり
行く末をあれこれ考えていると
隣ではハッサンが
喉を鳴らして
チューブを吸っていた。
(つづく)
2.タタカイ(前回のあらすじ)
親の陰謀で
鞭打ち人ハッサンをつけられた僕。
しかし、ハッサンの好物練り歯磨きで
たちまち手なずけてしまうのだった…。僕は勉強が苦手なだけではない。
運動だっててんでダメだし
絵を描くとか笛を吹くとか
後片付けとか
人の言うことを聞くとか
そういうこと一切
自分には向いてないと思う。
そういうわけで
整理整頓も大の苦手。
もうかれこれ二年と八ヶ月の間
部屋の掃除をしていない。
出した場所に返された物はなく
どこから来たのか
さっぱりわからない物が満ち溢れ
それらが足の踏み場となっている。
ハッサンも踏むので
汗や脂でてらてらしている。
とにかくちらかり放題なのだ。それがいけなかった。
まずハッサンが気づいた。
ベッドの下に何かいる。
ピコピコピコと音がする。
覗き込んでみると
宇宙人が基地を作っていた。
ここを拠点に
地球征服に乗り出す魂胆らしい。
親が送り込んできた
新たな試練にちがいない。ベッドの下は狭いので
ハッサンの鞭も役に立たない。
こころみに鞭打たせてみたところ
ベッドの足を何度か叩いたあと
先を宇宙人につかまれてしまった。
怒ったハッサンが
鞭を取り返そうと
ベッドの下を覗き込んだとたん
待ち構えていたように
レーザー光線が発射され
ハッサンは眉毛を焼かれてしまった。
部屋にこげ臭いにおいが立ちこめる。やむをえまい。
姉の部屋に行って
掃除機を借りてきた。
掃除をするのは億劫だが
この際だからしょうがない。
ベッドの下を吸い込んだ。
ダイソン式の超強力な掃除機だ。
宇宙人の基地はみるみる崩壊。
本当に久しぶりの掃除だった。
こうして世界の平和は守られ
宇宙人たちは基地もろとも
ゴミと化し
水曜の朝には
回収されていったのである。ひょっとして
掃除をさせようという
親の目論見に
まんまとはまってしまったか。僕は掃除疲れをいやそうと
ハッサンとしりとりをして遊んだ。
(つづく)
3.ワカレ(前回までのあらすじ)
親の陰謀で
ベッドの下に
宇宙人の基地を仕掛けられた僕。
掃除機で吸い取って
世界の平和を守った…。グダボノロロロ。
ビダイン、スイバ、エッサリヨ。
バズリリー、バズリリー。ハッサンのしゃべる言葉。
はじめは外国語だと思っていた。
しかしどうもちがうらしい。
最近になってわかったのだが
これは呪文である。
アブラカタブラ。考えてみれば
ハッサンの姿だって
大魔王のそれではないか。
実際ハッサンが来てからというもの
庭に巨大な豆の木が生えたり
怪鳥がやって来て妹をさらっていったり
近所の池に海賊船が出現
学校に集中砲火を浴びせたりした。
すべてハッサンの仕業だったのだ。そう気づいてから僕は
ハッサンの壺を探すようになった。
ハッサンの壺。
壺の中にハッサンの故郷の王国があり
ハッサンはその王子なのだ。
父王と母后が
彼の帰りを待ちわびている。
ハッサンはけっして
その日暮らしの裸の大男ではないのである。近所の古着屋の店先
ハギレのコーナーで
僕らは魔法の絨毯を見つけだし
それからというもの
世界を股にかけ
壺の探索に明け暮れた。
呪文しかしゃべれないハッサンに代わって
僕は八ヶ国語を身につけた。
あやしげな商人に
ニセの壺を売りつけられぬよう
万巻の書を読破して
物の価値を見究める眼を育てた。イラン高原東部でおこなわれた
古代遺跡の発掘。
その学術調査団に加わった僕は
ついにハッサンの壺を発見する。
そして
ハッサンとの
別れの時。思えばすべて
親の目論見どおり。
僕はハッサンと出会うことで
勉強嫌いを克服し
部屋の掃除もできる人間となった。
今では考古学者として
少しは名も知られるようになっている。人は壺の中に生まれ
壺に守られて育ち
やがて壺の外に出る。
そして時が来れば
また壺の中へと戻っていくのだ。
ハッサンは最後の呪文で
世界を裏がえし
僕は僕の壺の中で
はじめて親と和解する。
ありがとう、ハッサン。
そして、さよなら。
(おしまい)
今日のお話は、読んでてなんか、うきうきする様な楽しいお話でした〜!やはりアラビアンナイトの魔法ですか?
読んでる間なぜか「シェーラザード」の第3楽章「若い王子と王女」のテーマが頭ん中をぐるぐる回りました。(笑)
ベットの下の宇宙基地を掃除機で吸い込んだのは、面白すぎます〜。
ハッサンというのは、魔王の名前らしいんです(笑)
先日なくなった評論家の種村季弘さんが、どこかでそのことを詳細に書いていらっしゃいました。
日本の天狗なんかも、その眷属で、それらのつながりは文献や遺跡を通じて、実証できるらしいんですw
宇宙基地を掃除機で吸い込んだ話は、実話です(断言
しかし、ふつうのUFO目撃談ですらうさんくさいというのに、ベッドの下のUFOを掃除機で吸い込んだという話など、いったい誰が信じるでしょう。
というわけで、フィクションの形で、そっとお伝え。
ワルツさんのお宅でも、たんすの裏や、電燈のシェードなどに出没しているかもしれません。。(獏
>宇宙基地を掃除機で吸い込んだ話は、実話です(断言
わ〜〜〜ん、overQさんの事が益々好きになってしまいますよ〜〜〜!!
Posted by: