今回のたらいまわし。書いてるうち、ある系譜のようなものに気づきました。
「世界の終わり、時の果て」を描いた作家の系譜。
…とっても長くなってしまいました。。
最初はH.G.ウェルズ。「タイムマシン」の終わりのほう。
空はもう青くはありませんでした。北東部は墨のような黒で、その黒さの中に、まばゆく動かずに青白い星が輝いていました。頭上は深いインディアンレッドで星はなく、南東部はだんだん明るくなって、まばゆい深紅となり、そこで地平線に分断される形で、太陽の巨大な輪郭がじっとしていました。赤く、不動です。あたりの岩は、きつい赤褐色で、最初目に入る唯一の生命の痕跡は、その岩の南東面に突き出すあらゆる点を覆っている、密生した緑の植生でした。(山形浩生・訳)
色の記述がえんえんと続くんです。終末の光景が見えていたよう。こうしたビジョンは何に由来するのでしょう?
ウェルズ自身は晩年、人類の未来を深く悲観していたそうです。核戦争を予言し、世界国家の建設を提唱したウェルズ。しかし、たいへん絶望的な気持ちを抱いていたとも言います。
作家として成功し、英国の名士として人生を渡った結果、ウェルズが手に入れた結論は、人類の未来を切り開くはずの科学・技術が、逆に人類に災厄をもたらすというパラドクスでした。
暗いです。彼の作品って、ハッピーエンドじゃないのが多い。自分や英国の運命を予感していたのでしょうか。
ウェルズ→ホジスンの系譜は、オラフ・ステープルドンというイギリスのSF作家に引き継がれます。
人類20億年の歴史(!)を描く、「最後にして最初の人類」(1930年)は昨年邦訳が出ました。
あほらしいくらいの長大な時間スケール。ホジスン「ナイトランド」の百万年なんて、まだまだ小さい。われわれが価値や意味と呼ぶものは、もはや顕微鏡レベルの些事に。
(光瀬龍「百億の昼と千億の夜」も、たぶんステープルドン経由で、ホジスンの孫だと思われます。)
ウェルズ→ホジスン→ステープルドン。
十九世紀末から二十世紀前半の英国。この時期、世界の中心は、大英帝国からアメリカにシフトしていきました。もう、世界の富はだんだんと、英国に流れ込まなくなっていった。
でも、古いシステムを守ろうとして、ふたつの戦争が起こり、旧来の勢力が金の流れを不当にゆがめたので、恐慌もありました。
植民地主義で儲かる時代は終わりつつあり、石油・内燃機関・電気による重工業時代が来ていたのに、英国はあいかわらず蒸気機関の時代の夢を見ていて、アジアの覇権をめぐって戦争をしていた。そして、衰退していく帝国。
「貧困の予感」にさいなまれます。ゆっくりと、しかし何をやろうがもう後戻りできない形で、時代は進行していく。あくまで「予感」なのが、かえってたちが悪い。不安が不安を呼ぶ。
この時代この英国の気分が、「世界の終末、時の果て」のビジョンを生んだのではないでしょうか。
まあね、冷静に眺めると、大英帝国が衰退するだけのことで、世界が滅んでるわけでも、地球がふたつに裂けてるわけでもないんです。合衆国はむしろ繁栄していくのです。
ホジスンもステープルドンも、めちゃめちゃ誇張したビジョンを抱いています。滅びるのは人類じゃなく大英帝国の伝統だし、「次に来るもの」は蜘蛛の姿の怪物ではなくアメリカとソ連でした(笑) 永井豪がPTAから突き上げられつつ、デビルマンのあの壮絶な終わりを描いたのと似てる、壮大系の妄想。
でも、この系譜は強力で、ボルヘスさえ明らかにこの末流に属しています(彼の少年時代の愛読書はウェルズ。ステープルドンにも熱狂)。
「指輪物語」もこの系譜に無縁でない、すぐ後の時代の英国の産物。ビジュアルな世界の終わりが現われています。
指輪(=富)を手に入れる話じゃなくて、逆に捨てに行くお話なのが、ポイント。おかげで、逆にちょっと希望や光が見えます。英国も自分の時代は終わったと観念し、新しい未来を模索し始めた。
ファンタジーとSFの起源は、19世紀末から20世紀前半の英国にある。英国の衰退にある。(ダンセイニ、モリス、マッケン、ルイスなど、もっと丁寧にたどれば、この系譜の星座が見えそうです。)
でも、その中心は、すぐにアメリカに移っていきます。
アメリカのSFは、根っこのところがもっと陽気ですヽ(´ー`)ノ
世界の覇者になっていく国の自信と満足が現われてて、「希望」がそこここに透けて見える。科学は希望。科学は未来。科学は正義。科学は勝つ。やがてアポロは月に到達する。
高度成長期の日本は、少年たちの間でSFが大ブームでしたが、このとき輸入されたのは、ハインライン、アシモフといったアメリカ系が中心。ららら科学の子というわけで、どんな難しい状況でも、かならず希望の光がどこかにさしていました。
特にクラークは、英国人でステープルドンの影響が顕著なのに、アメリカを舞台とする作品を書くことで、未来のテイストが全然ちがうのが面白いです。
ウェルズやホジスン、ステープルドンでは、未来は「退化」するのですが、クラークではちゃんと「進化」します。国勢のちがいがかなり露骨に現われてて、なんだか物悲しいほど。
LINさんのよると、石田衣良「ブルータワー」が、ホジスン「ナイトランド」と似てるらしい。影響を受けたのか、たまたま似たような世界が見えたのか。
しかし、現在の日本で、この系譜が現われるのは、もっともなことのように思えます。日本も国勢が衰えてますから(トホホ
現在は、世界の中心が、アメリカから中国へシフトし始めた時代…なんでしょうかね。
日本はいまだアメリカ頼みで、古いシステムにとらわれており、未来が見えない…というか、未来は暗いという予感が蔓延しています。世界の富は、従来の流れから変化しつつあり、日本は急速に貧困化しそうな予感も。生活保護100万世帯越えらしいですし(怖
特効薬はなく、現実から目をそむけるのですが、するとビジョンの形でそれは戻ってくる。ものすごく誇張され、現実とはかけ離れた形に偽装され、「世界の終わり、時の果て」が見えてくる。
[付録―大ザッパな近現代史]
以下は、近現代史についての、自分用のメモ。正しいかどうかといえば、まちがいだらけです(笑)
このところ、文化としてのモダニズムを調べてるうち、現代史の外枠みたいなことが気になって、つらつら思いついたこと。
大航海時代から、世界の中心はヨーロッパへ。
まず、スペイン・ポルトガルの時代。海を経由して、地理的にアジアに近かった二国。あとオランダ。やがてできるインド会社が、会社や株式など、現在の資本主義の起源。
次に、蒸気機関が発明され、交通・運搬が飛躍的に向上。さらに、蒸気機関を動力にした機械、そして工場が作られます。英国の時代。
その次は、石油。エンジンは、蒸気機関とは比べ物にならない動力源。そのパワーで、電気が実用可能に。重工業時代。世界の覇権は、英国から、アメリカ・ソ連にシフト。
・スペイン・ポルトガル→英国→アメリカ・ソ連→中国・インド(?)
・人力と風力(笑)→石炭・蒸気→石油・エンジン・電気→核融合・超伝導(?)
・交易→植民地主義→工業→情報(これはたぶんちがう?)
という流れ。
前半は、とにかくアジアの富がヨーロッパに流入。
まずその富を独占した王族による絶対主義。
富はさらに増え続け、「持つと持たざる」ではなく、「持つ」がやがて一般市民にも広がる。それとともに民主主義も広がる傾向。当事者たちが内側から眺めると「革命」みたいな熱い話だけど、富が増加し続けたことの現われ。
シフトの時期には、古い勢力が旧来のシステムにしがみつこうとして、戦争が起き、富の流れが本来あるべき形になれないので、恐慌が発生。
資本主義は拡大を続けないと維持できないシステム。これを可能にしていたのは、資本主義の仕組みが原因ではなく、石炭・石油がじゃんじゃん出たから。資本主義の力の由来は、その中身ではなく、外にあった。
化石燃料のおかげ。恐竜さんたちの時代の恩恵か。あの時代のほうが、地球上の生物の総重量は今よりずっと大きかったかも。だから、石油を燃やし続ければ、理論上は、恐竜時代と同じくらいまでは生物は増えることができるはず(眉唾
しかし。温暖化。石油はもう燃やし続けることができなくなるかもしれない。
中国の発展を見越して、石油メジャーはどんどん新油田を開発してますが。イラク戦争もこの一環。「旧来システムにしがみつく古い勢力」というわけ。
今回のシフトで問題なのは、石油に代わる新エネルギーがまだ見つかってないこと。核融合も超伝導も、実用化には至ってない。燃料電池、太陽光発電、メタンハイドレートなど、石油代替物はあるのですが、どれも決め手に欠ける。
もし、本当に石油をこれ以上使えないとか、石油や代替物が枯渇するとかすれば、人類の「モダンタイムズ」は終わるのでは。進歩や進化、拡大も成長もなくなって、文明は衰退。歴史も発展ではなく、覇者が空間的に入れ替わる昔の中国のように。本気の暗黒時代がゆっくりとやって来る可能性が高い。モダンのあとは、ポストモダンのようなかわいらしいものではなくて、減っていく富を取り合う世界。人々は食べていくのがやっと。「持つものと持たないもの」がはっきり分離、北斗の拳的状況に。
あるいは、みずからの意志で、「指輪」(=富)を捨てにいく人の中には、生き残りの可能性が開けるのか、ケンシロウ?
…妄想を書いてしまいました。ナイトランド症候群と診断。