AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: 九十九夜 第88夜 「田村幸子の逆襲(ダバダ〜篇)」

九十九夜 第88夜 「田村幸子の逆襲(ダバダ〜篇)」

written by overQ
July 15, 2005

いつものこの、九十九夜の前説に意味のないことばかり書いているので、今夜は反省して、役に立つことを書こうと思うのです。

あー。うー。
役に立つこと…ねえ。

21日から、吉野家の豚丼は、250円です。とか。27日よる8時まで。
いや、それは、でも、ちょっと。なんだ。

これは、どうでしょうか、京都ネタ。
祇園祭は宵々山です。前々夜。イブのイブ。
鉾をしっかりと見たいときは、よいよいよい山くらいの昼間に、バイクとか自転車で通りを回ると、ばっちり見れます。
…それって、もう手遅れですね。はははは…(口をすぼめて)ほほほほ。

というわけで、今夜もお役に立てなかった前説(;・∀・)
第88夜は、「田村幸子の逆襲」。あの田村幸子です。そして、ダバダ〜篇。

愛

田村幸子の逆襲(ダバダ〜篇)

田村幸子がいなくなって
もう三週間になる。
気づいたのは三日前のこと。
考えてみるともう三週間
田村を見かけていない。
どうやら十日ほど前にも一度
そういえばこのところ
田村を見ていないなと
思いはよぎったのだけど
すぐさま忘れていた。

田村幸子とは、いつからか
ぼくの部屋に住みつくものである。

それ以上でもそれ以下でもない。
まったくの他人であって
恋人でも知人でも
親戚でも友人でも
上司でも奴隷でもなく
田村幸子である。
気づけばそこにいた。
しかし別段気づく必要が
あるわけではない。
そのあるなしに関わりなく
ぼくの人生は
およそとどこおりなく
過ぎ行くはずだ。

それがどうだ。
今朝テレビを見ていると
CMに田村が出ている。


よりによって商品広告に
田村を起用するとは。
おかげでさっき
見たところなのに
もう何のCMだったか
思い出せない。
何か頭の片隅に
地味な気配だけが残っている。
まさしく田村だ。
よく考えてみると
このCM、すでに
何度も何度も見ている。
何度見ても全然
記憶に残ってないのだ。
何はともあれ
田村効果。交淡如水。

おそるべきことだ。
危機感がまったくないが
おそるべきことだ。
そのはずだ。
散歩の道々
考えてみた。
そういえば最近いろいろと
忘れっぽくなってやしないか。
前の日曜日。
たしか映画を見に行った。
しかし何の映画だったか。
忘れている。
昨日の晩御飯。
何を食べたっけか。
思い出せない。
先週読んだ本。
なんだったか、誰の本か。
小説だったかエッセイか。
何もおぼえていない。
いったい何のために
読んでるものやら。
いつも通る駅前の道に
先日できたコンビニ。
それが建つ前って、あの場所
何があったんだっけ。

何か灰色の
薄ぼんやりした気配だけが
霞のように存在感なく
脳裏に漂っている。
消した後の消しゴムの
カスのようなもの。
無意識にさっと
どけてしまう。

あるいは。
すべてことごとく。
田村の仕業ではないのか。

まさか。
そんなこと。
あるまい。
が。
いやしかし。
ひょっとすると。

田村のあの
どこまでも地味で目立たない
灰色の非存在感効果で
いろんなものがその存在を
抹消されているのではないか。
われわれの記憶は奪われ
世界は縮小しているのでは。

前の日曜日。
見た映画に
田村は主演していなかったか。

昨日の晩御飯。
ぼくはついに田村を殺した。
その非存在感の軽さに耐えられず。
そして散らばった肉塊を
100グラム98円の中国産豚肉と間違えて
喰ってしまったかもしれない。

先週読んだのは
田村幸子日記ではなかったか。
ノートのマス目を無視して
ミリペンで連綿と
書き綴られたミクロの文字。
田村文字。
宇宙のあらゆる出来事を
田村なりに書き尽くす。
世界は日記に封じ込められる。

コンビニが建つ前。
駅前のあの場所には
田村幸子が350人ほど
林立していたのではなかったか…

こうして
田村幸子は田村幸子なりに
世界を侵略しつつあるのだ。
われわれの陣地は
急速に奪われ
田村化している。
しかしそのことにどうしても
気づくことができない。
たとい気づいても
次の瞬間にはもう忘れている。
危機感は盛り上がらない。
靴の紐がほどけただけでも
田村の侵略よりは
切迫した感じがする。
メモっておいても
あとで読み返せば
もう何のことだったやら
思い出せない。
思い出せても
メモの次の行が目に入れば
たちまち忘却のかなた。

恐るべし
田村幸子。
かつ、まるきり
恐るるにたらないままな
田村幸子。
恐るべし。

何が望みだ?
いや、特に
知りたいわけではないが。
ああ、知るべきなのに。
でも全然知りたくない。
田村幸子、恐るべし。

どうすれば
田村に対抗できるか。
人類はついに
田村幸子によって
征服されるのか。
その自覚もないままに。
そこはかとなく。

歩きながら
こう考えた。
ダバダ〜。
恋だ。
田村幸子に恋すればいい。
そうすれば
田村のことを
ことあるごとに思い出し
視界の隅に田村が入っただけで
胸がときめき
世界に田村しか見えなくなる。
そばにいないと不安で
どこに行ったのか
気になって町じゅうをきょろきょろ。
田村田村田村。
視線はさまよう。
幸子幸子幸子。
これだ。

恋の力で、
田村幸子を、
可視化する。

そんな馬鹿げたアイデアで
頭をいっぱいにし
サチコ、サッチィ、さちりん☆と
呼びかける練習などに
なかばヤケクソな憂き身をやつしつつ
家に戻ってみると
いないいないと思っていた田村がいた。

というか
田村はどうも
ずっといたようなのである。
こっちが気づかなかっただけのこと。
いつもの片隅で
田村は小さな鏡を覗き込み
写した像の目がこちらを見ていた。

なんだ、そうなのか。
いたんだ、田村。
なぜ急に気づいたんだろう。
ひょっとして…恋。
いけない、いけない。
ああ、でも、ちょっと
ほっとしている自分がいて。
胸の底ほのかに
暖かみが宿るような。
はうう。何かそら
恐ろしいような気持ちもする。
ああ、灰色の気分に
うっすら桃色のもやがかかっている。

以来もう田村のCMも見ない。
幻だったのだろうか。
いや正直に告白すれば
いちばん好きだったアイドルのCMで
ふと田村のこと感じたりする。
(嘘だ嘘だ嘘だ)

それとときどき
駅前の道を歩いていると
空き地に350人ほどの田村幸子が
びっしりと立ち尽くしている幻に襲われ
激しく首を振る。
混んでいるエスカレータで
ふり向いた顔がすべて田村。
パソコンの壁紙が
いつの間にか田村。
転んで膝にぱっくりと
開いた傷口が田村。

どの道やっぱり世界は
田村に侵略されているらしい。
まあそれもいいのかもしれない。
いやよくない。
いや。
でも。まあ。

なあサチコ。
鏡を覗きこむ背中に
心の中で呼びかけてみる。
するとめずらしく
振り返る田村。
目と目が合った。
その瞬間
世界は消える。
幸子とぼくと
ふたりきり。
「ふたりッきり」

すべては薄ぼんやりした
桜色の(いや灰色の、灰色のはずだ)
忘却で埋め尽くされた。
世界は
もう
ない。
世界は田村に征服された。
もう
田村しか
見えない。
ほのあたたかく春の気配がする。
彼女は膨らんできたお腹を
静かにさすっている。
「おぼえてないなんて
いわせないから」
そして今夜の田村日記には
ぼくの名前をしたためるのだ。
あの細密な文字でびっしりと
宇宙の全事象は書き取られ
奪われる。
そして、
残るのは、
愛。
「愛だけ」



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コメント

こんにちは。たまたまこちらのブログを発見してしまいました。
私の名前はまさに田村幸子です。ほんとです。
田村幸子で検索したら見つけました。(暇人・・・。)
しかし、面白いですねー。こういう感覚のお話大好きです。読み終わった後、
ふふふって気持ちになりますね。(どんな気持ちだ?)
しかも自分の名前がいっぱい出てくるから
ちょっとドキッともなります。
ちなみに、前回の「田村幸子」も読ませて頂いたのですが、そちらも素敵です。
あと、これまた偶然、今日、私、いたわさ食べました。
タムラはかまぼことわさびが好きなんでしょ?
今日いたわさ食べて、「いたわさってなんで
いたわさっていうんだろう?主役はかまぼこなのに。。
わさびを取ったら板じゃん。」
って友達に訴えてたのに
あまり相手にされませんでした。
そんなわけで、次回の田村幸子シリーズ密かに
期待してますよ。

Posted by: たむらさちこ : September 1, 2005 2:15 AM

おおう! 本物の(!)田村幸子さんから、コメントが。
アリガト!(´▽`)ございます。

自分の名前とか、知ってる人の名前、ときたま検索しちゃいますよね(笑)
少しくらい変わった名前でも、意外と同姓同名の方がおられたりして、不思議な気持ちになったりします。

>いたわさ

いいですねぇ、いたわさ。
かまぼこ部分がすんでも、板とワサビがまだあれば、しゅうしゅう吸って、味わえそうな気がします。
今度、試してみたいです。

次回もよろしくお願いします。(…続く)

Posted by: Site icon overQ : September 2, 2005 11:08 PM
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