先週、NHK・BS2「懐かしの映画劇場」で四つの作品が放送されました。
・「彼奴を逃すな」
・「非情都市」
・「悪の階段」
・「その場所に女ありて」
何の気なしに録画したのです。「巨人の星」劇場版を録画するついでに(;・∀・)
それでまったく油断してうかうかと見ていたのですが、これがとてつもない傑作ばかり。
四作品とも、監督は鈴木英夫。
映画監督・鈴木英夫のミニ特集となっていたわけです。
鈴木英夫って誰?
1950年代60年代に、主に東宝の中堅どころとして、30数本の映画を撮った人。
これといって有名な大ヒットはない。むしろ、その後、テレビの仕事(「傷だらけの天使」「剣客商売」「智惠子抄」)のほうがよく知られているくらい。
日本映画の研究者やコアなマニアでないと知らない名前のようで、ネット上でも情報はあまり多くないです。「資料」はあるけど、自分の目で見た人の感想は数えるほど。
幻のような映画監督。
■鈴木英夫 スズキヒデオ -- キネマ旬報DB/ Walkerplus.com
■CinemaScape/鈴木英夫
■鈴木英夫--「鈴木英夫」のフィルモグラフィ --
ところが、上記の四作品は、どれも巨匠の風格漂うとさえ言いたい、堂々としたものでした。
この人が名匠として遇されている映画史というのが、十分に想像できる。
戦前の日本映画だと、散逸したフィルムがどこかの蔵から発見されて、幻の名作が復活…なんて話を聞いたりしますが、
1950年代に幻の巨匠が埋もれているとは、いったい?
昼下がりに放送される「懐かしの映画劇場」、まるで白昼夢のような気分に。
ともあれ、BSでミニ特集が組まれるくらいなので、小さな動きではあるけれど、再評価の機運が存在するらしい。
2002年にアテネ・フランセ文化センターで上映会があった模様です。サイトの記事では、
だが鈴木英夫の再評価は当分、未然形にとどまるだろう。彼の映画を見るために、観客もまた“特権的な単なる孤立”に耐えねばならないからである。と絶唱されていて、もはやDVD化など、はるかかなたの夢なのか( ;∀;)
ネタバレにならないよう気をつけながら、ちょっとだけでも作品紹介を…といっても四作品しか見てないわけですが。
「彼奴を逃すな」 1956年 東宝殺人犯の顔を偶然目撃してしまった若夫婦が、警察と犯人の攻防戦に巻き込まれていく様を描く。生まれてくる子供の平和のために、殺人犯らしき男を見たことを警察へは黙っていることにした藤崎。しかし同じ手口で第二の殺人が起き、やむなく警察への協力を申し出るが、犯人のモンタージュ写真とともに、犯人をおびき出すためのおとりとして藤崎の写真も新聞に掲載されてしまい、犯人に命を狙われる恐怖の日々が夫妻を襲う。
〔製作〕宇佐美仁
〔監督・脚本〕鈴木英夫
〔脚本〕村田武雄
〔撮影〕三浦光雄
〔音楽〕芥川也寸志
〔出演〕木村功、津島恵子、志村喬、土屋嘉男、宮口精二 ほか(1956年)〔白黒〕
懐かし映画劇場 3月27日(月) 後1:00〜2:35 〜NHK・BSオンライン
なんか「七人の侍」みたいなキャスティング。
*1
フィルムノワールの傑作…と呼ばれていてもおかしくない作品。
見事な夜のシーンの連続で、木村功・津島惠子の若い夫婦に闇が忍び寄る様子を、巧妙に映像化。
夫が犯人を目撃しているのに、妻は警察に通報することを止める。夫婦の小市民的な生活が脅かされるかもしれないから。
このおびえが効いていて、被害者・加害者がいつ転換するとも知れない、「小市民的平和」の危うさが、闇から忍び寄る犯人に具象化される。闇は遍在しており、誰がどのように悪となるか知れない…。
日本映画が積み重ねたモノクロ技術の高い水準がいかんなく発揮されいます。
■「ヒッチコックを超えた!?鈴木英夫」彼奴を逃すな@映画生活レビュー
「非情都市」 1960年 東宝
新聞社の敏腕記者が、事件の背後にある真相に迫るうち、巨大な権力の壁にぶつかり、その身を崩していく様を描いた異色作。株の買占めによる会社買収などで敵が多いと評判の会社社長・保科が何者かに襲われ、重傷を負った。各マスコミが取材合戦を繰り広げる中、強引な取材でスクープをものにしてきた東都新報記者・三宅は、事件が財界を揺るがす大きなものであることをつかむが、彼の書いた記事は握りつぶされ・・・。〔製作〕市川久夫
〔監督〕鈴木英夫
〔脚本〕井手雅人
〔撮影〕逢沢譲
〔音楽〕池野成
〔出演〕三橋達也、司葉子、平田昭彦、中丸忠雄、佐々木孝丸、東野英治郎 ほか
(1960年)〔白黒〕
懐かし映画劇場 3月28日(火) 後1:00〜2:30 〜NHK・BSオンライン
苦い味わいを持つ社会派ドラマ。
新聞記者・三橋達也の敏腕ぶりも、じつは危ういバランスの上にあり、何かが少し崩れると、なだれのように崩壊してしまう…この主題が、「彼奴を逃すな」の小市民夫婦と共通。
三橋達也の顔、場面を追うにつれ、追い詰められ、居場所が狭くなっていく表情が、これを書きながらすごくフラッシュバックします。
顔を撮るのが巧いんだ…いや、それもあるのだけれど、人がおびえるとき、むしろ表情はない。おびえるシチュエーションに挿入された普段の顔。遍在する闇に始終押さえつけられているものの思い。
巨悪を追及するつもりが、いつの間にやら自分の内部に闇が醸成されていく。。
そして、ついにあやういバランスの上にあるものが、何かの拍子で崩壊する、というのがこの監督の主題といえそうです。
それを踏まえてみると、演出の巧みさもよく見えるのではないかと思いました。
「悪の階段」 1965年 東宝
大会社の金庫に眠る、社員の給料約4千万円を奪う計画をたてた4人の男たち。首謀者の岩尾による計画は見事成功し、大金を目の前にした男たちの欲望が募っていく中、岩尾は恋人のルミ子を使って、密かに次なる計画を実行していく。果たして、最後にこの金を手に入れるのは・・・。完全犯罪の裏で起こるもうひとつの事件を、人間の果てしない欲望と残酷さとともに描いたサスペンス・ドラマ。〔製作〕金子正且
〔監督・脚本〕鈴木英夫
〔原作〕南條範夫
〔撮影〕完倉泰一
〔音楽〕佐藤勝
〔出演〕山崎努、団令子、加東大介、久保明、西村晃 ほか
(1965年)〔白黒〕
懐かし映画劇場 3月29日(水) 後1:00〜2:45 〜NHK・BSオンライン
四作品の中ではこれがいちばん好き。
若い山崎努が、これはもう初めからあからさまにあやうい、綱渡りのような「完全犯罪」をおこなう話。金庫破りそのものじゃなく、そのあとの仲間われの物語なのが、一風変わっています。(仲間といっても4人がバラバラな方向を向く姿)
階段のある小さな家…という小さな場所で、映画的演出の粋を凝らします。日本映画では、寅さんでも小津でも、家族のドラマとしてよくある様式。
でも、この作品では地下室もあって、一階の水平家族性よりも、三つの階の垂直性が際立つ。孤立して建っていて、社会性もない。そのため、むしろ海外のホラーに通じる雰囲気さえただよいます(地下に邪悪なものがいて、子どもは二階の自室に逃げるというパタン)。
地下室と一階と二階は、まったく異質な、それこそ地獄・地上・天国のような別空間。
そして、この三界のどこにも居場所のない女・団令子がとてもよく機能するのです(ネタバレになるのでこれ以上書けないのが残念)。
「その場所に女ありて」 1962年 東宝
司葉子が広告代理店のキャリアウーマンにふんし、製薬会社の新薬発売にむけてのばく大な広告費をめぐってライバル会社としれつな競争をくりひろげ、女ひとり果敢に生きていこうとするさまを描く。西銀広告に勤める矢田律子は、男に振り回される周りの女達を尻目に、手段を選ばず仕事に没頭していた。裏切られても、野望を胸に厳しい日々を勝ち抜こうと常に前を向いて歩くヒロインを演じる司葉子のりんとした美しさが際立つ。〔製作〕金子正且
〔監督・脚本〕鈴木英夫
〔脚本〕升田商二
〔撮影〕逢沢譲
〔音楽〕池野成
〔出演〕司葉子、宝田明、森光子、大塚道子、水野久美、原知佐子、山崎努、浜村純
ほか(1962年)〔カラー〕
懐かし映画劇場 3月30日(木) 後1:00〜2:36 〜NHK・BSオンライン
カラー。司葉子の驚くべき硬質さ。ガラスと鉄でできた都市の硬質さ。
硬さはもろさにも通じていて、またしてもあやうい均衡の上にあるものが、ギリギリの綱渡り。
「悪の階段」のラストからつながるように見てみることもできる。鈴木英夫作品にはそれくらい主題の一貫がある。
タバコを吸い、男言葉でしゃべり、同僚に高利で金を貸し…そんなクールビューティ。
スクエアな画面にスクエアな建物、スクエアなインテリア…とカクカクした格子模様が連発し、人間どもを取り囲んでいます。格子とは、檻の図柄でもあるわけです。
勝利する女性の映画ではなく、誰も勝利し得ない…あやうい綱渡りが持続するだけ。遍在する闇におびやかされ、おびえながら生きる人間。
どの作品にも共通する、ラストの苦く曖昧な後味が、今ひとつヒットを生まなかった理由なのでしょうか。
■「女のハードボイルド映画最高傑作」その場所に女ありて@映画生活
★★★
「日本映画・テレビ監督全集」「日本映画人名事典・監督篇」(ともにキネマ旬報社)などに基づく略歴。(ちなみに、アイウエオ順では、鈴木則文さんの次w)
鈴木英夫
1916年、愛知県生まれ。
日本大学芸術科卒。39年、新興大泉撮影所に入社。脚本志望だったが、給料のもらえる助監督部に。田中重雄に師事。43年東宝撮影所助監督部、翌年大映東京撮影所助監督部(田坂具隆に師事)。
47年「二人で見る星」(脚本鈴木英夫)でデビュー。第2作「蜘蛛の街」。
53年新東宝、54年から80年、東宝と契約。「殺人容疑者」(52)「死の追跡」(53)「彼奴を逃すな」(56)などヒッチコック=リード的な犯罪スリラーで精彩を放つ。「花の慕情」(58)「旅愁の都」(62)はメロドラマ、「やぶにらみニッポン」(62)「三匹の狸」(66)は喜劇。「燈台」(59)は三島由紀夫原作。趣味の野球を生かした「不滅の熱球」(55)
70年代はテレビに主力を注ぐ。「剣客商売」(73)「智惠子抄」(70)「傷だらけの天使」(74)「恐怖劇場アンバランス・吸血鬼の絶叫」(73)「悪魔が来りて笛を吹く」(77)