AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: アガメムノーン

アガメムノーン

written by overQ
August 6, 2006

四季さんが、アイスキュロス「アガメムノーン」エウリーピデース「タウリケーのイーピゲネイア」といったギリシャ悲劇の記事を書いて孤軍奮闘しておられたので、ちょっと後方支援してみます(* ^ー゚)

アガメムノーン (岩波文庫)アガメムノーン (岩波文庫)
アイスキュロス
¥ 588 / 岩波書店
( 1998-10 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

タウリケーのイーピゲネイア (岩波文庫)タウリケーのイーピゲネイア (岩波文庫)
エウリーピデース
¥ 588 / 岩波書店
( 2004-12 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

これらの作品は、トロイア戦争を(というよりホメロスを)元ネタにしています。
当時は誰もが知っていたエピソード。
世間の風潮として、「知ってるふり」をしなければならないくらい、共同体のキホン認識だったと思います。アニメ界でのガンダムみたいな感じなのかな?(歌舞伎の作られ方とも、とても似ています。)

で、そこに登場するマイナーなキャラ、細かいエピソードを追いかけてみたマニアックな同人誌…というノリなのが、これらの作品なんだと思うんです(;・∀・)

お話は、こんな感じ。
戦争の英雄アガメムノーン。じつは、彼が戦場にいるうちに、妻クリュタイメストラが浮気をしていた。
戦争に勝つため、夫は娘イーピゲネイアを生贄にした。それを妻は恨みに思っての不貞。
で、帰ってきた英雄たる夫を殺す。
妻の不貞の相手も、故あってアガメムノーンに恨みを抱いているもの。因果応報。憎しみの連鎖。
でも、これは三部作で、ほんとの主人公は、このややこしい夫婦の息子オレステース(ハムレットの前世と思う)。
彼が母を滅ぼしうるか、それは罪か正義か…という物語。
ただ、この主人公、「アガメム」では、ほとんど出てきません(笑)

  +

同人誌が、例えば「ワンピース」なら、麦わらのルフィじゃなく、ゾロやサンジといった脇役を、しかも「やおい」な視点から描くように、
ギリシャ悲劇も斜めから、ホメロス(という無名の多数多様な作家の集合的存在)の作品を、脇役の視点から、性を変えた視点から眺めます
そのずらした感じ(異化)が、当時の人には新鮮で、衝撃だったんだと思います。
当時もすでにコスプレがおこなわれていたことを、はらたいらに3000点くらいの確率で私は信じています。(最近、この言い回しを若者たちの間に定着させようと努力しています。伝統芸能としてw)

  +

性を変えた視点で、物語を読み替える」ということからいうと、
特にアイスキュロスには、「女神」の多様な側面を、各キャラに分散させて描こうとしていたように見えます。
女神とは、神話的に信じられた女性の力

もともとは古代からのアルテミス=ビーナス信仰がある土地がら。
大地の女神、農耕の女神の、ボインちゃん(差別語)を崇拝する土壌がある。
ところが、都市文明ができてみると、女性の「力」のダークサイドもいろいろ見えてくる。
ここでいう「女性」とは実在というより神話的・心理的存在ですが、まずすべてのポリスの人々は、女であれ男であれ、実在しないその幻の力にに振り回される。
とりわけ、商業を中心にした社会体系は、その「力」に恩恵をこうむっている。
繁栄を謳歌し、悲劇を見て、「涙で余分なものを出してキレイになる」社会であったギリシャ。

それで、女性の「力」なるものを、いろんなキャラに分散して、分類しながらその力を見究め、制御したかったんじゃないかしら、アイスキュロスという人。
ギリシャも、もうホメロスの時代とはちがって、この頃になると、豊かになりすぎて、そうとう病んでたと思えるふしがある(;・∀・)
なんか、残虐シーンへの嗜好が、そこはかとなくあるし。
病的に刺激的な「劇的効果」もあって、狙いすぎになってる。(カサンドラとか)

  +

アイスキュロスは文明批判・社会批判、「憂国」感情がすごくあるタイプ。

市民たちの声は、怒りをふくんで重く、
民衆の呪いを、王の負い目を、返すべしと求めている。
待っていれば、闇がおおうような変事の
報せを耳にするのではないか、それが心配でならぬ。
これほど人の血が流されて、
神々の目にとまらぬはずがないだろう。
いつの日か、黒い衣の復讐の女神たちが、
正道をわすれて幸福に酔うものを
人生の逆運のしごきにかけて
影うすいものにしてしまう。

亀田選手をめぐる瞬間湯沸かし器的な騒ぎから、イスラエル・ヒズボラまで、
現在「社会的」に起こっていることでさえ、この短い詩文にかすめ取られるものがある。
世の憂いに酔いし詩人。

  +

岩波文庫の新しい訳は、「アガメムノーン」「イーピゲネイア」、ともに読みやすいです。
注が多いので、それが面倒ですが、まあそこそこに注を飛ばしていくと、本は薄いし、わりとすぐ読めます。
古典はゲームで言うと「ボスキャラ」なんで、攻略するにはそれなりに「固い」ですが、まあ「中ボス」くらいです(;・∀・)
二回読むとたぶんすごく面白い。
よろしければ、読んでみて下さいませ。

  +

じつは、トロイア戦争系同人誌には、20世紀になって、最後の大作が登場してしまいます。
言わずと知れたジョイス「ユリシーズ」。

ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
ジェイムズ ジョイス
¥ 1,200 / 集英社
( 2003-09 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

ユリシーズ、つまりオデュッセウスは、「最後の男」。麦わらのルフィ(笑)
女のさまざまな姦計に落ちた先例のあとを受けて(それらは悲劇ばかりではない)、最後に登場する、待機していた男。

女性という神話的「キャラ」のもつ多様性…やさしさと残酷、邪悪と神聖、豊饒と枯渇、許しと嫉妬、抱擁と魔女…といった、ありがちな主題を、ていねいに徹底的に書き込んでいくこと。
この世界に対する批判と肯定、崇拝と侮蔑、軽視と後悔、愛着と離脱を同時に成し遂げること。
ギリシャの作家たちがふと垣間見た何かが、20世紀のダブリンでcelticな異形で、ひとつの生き物になる。

その表現は、めちゃめちゃ下品(当時は発禁)。
およそ人類が生み出した中でいちばんションベンくさい表現がいっぱい出てきて、
パンクやヒップホップも、そのお下劣さにかなわない(;・∀・)
でも、これはちゃんと、ギリシャ悲劇の伝統にのっとっていると思う。
アイスキュロスは、女性の不貞を描くために、こう書いた。

当て合い、こすり合ったその跡は、
黒ずんだすじをきざみ、罪ありと告げている。

セクハラ…(;・∀・)
でも、ジョイスに比べれば、これでも、たいへん上品なんです(´ヘ`;)



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コメント

overQさん、こんにちは。
私の、言ってしまえば「面白いわ〜、楽しいわ〜」の記事に、まさか後方支援をして頂けるとは! ありがとうございます。嬉しいです! しかもoverQさんが書かれた途端、学術的な香りが…♪
と思ったら。

>マイナーなキャラ、細かいエピソードを追いかけてみたマニアックな同人誌…というノリ
…ですか!(爆笑)
いや、でも本当にそうかもしれませんね。今も昔も、やっぱり基本はキャラ萌え?(笑)
同人誌系ではないものの、私の中にも確かにマニアックな部分はあるので、ものすごく納得してしまいました。これはまさに、「原たいらに全部」ですね。(早速使ってみました)

そうそう、「タウリケー」の最後にデウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)が登場するのにも、すごく驚かされたんですけど、当時よくやる演出だったようですね。これは一体どういうことなんでしょう。「病んでいた」の延長でしょうか? ちょっと飛躍しすぎかもしれませんが、大いなる者に決定を委ねてしまうというのが、破滅願望にも繋がっていくような気がしてます。豊かすぎるギリシャが、言ってしまえば、腐る直前の果実のような感じで、例えば元禄文化のイメージと重なるような… こちらは篠沢教授に1000点ってとこですが。(笑)

ギリシャ関係は、「イリアス」「トロイア戦記」と来たので、中ボスをクリアしながら、次は「オデュッセイア」に行って、最終的に「ユリシーズ」に行くつもりにしてるんです。「ユリシーズ」のオススメの訳本はありますか? 集英社ヘリテージシリーズは、入手はしやすいものの、字が相当大きいのでちょっと躊躇ってるんですが… えっ、でもそんなにお下劣なんですか! 知らなかった。だ、大丈夫かしら。不安になってきました(^^;。

Posted by: Site icon 四季 : August 7, 2006 6:16 AM

デウス・エクス・マキナは、いわば紅白における小林幸子(笑)
最初は、広げすぎた物語を、切りのいい時間で閉じるために、無理やり出したんだと思うんです。

ところが、これがたぶん、大ウケした。

舞台の上のほうから、吊りで、ド派手な人形が降りてくる…というような装置じゃないでしょうか。
大人気になっちゃって、どんどんエスカレートしていく。

悲劇の上演は、もともとは生贄を捧げるデュオニソス神の祭。
それがだんだん「理性」による「判決」の場になっていく。
でも、ほんとは「理性」じゃなくて、民衆の欲望が支配する「市場」と同じものなんですね。
民主主義と賢者政治のあいだで、ギリシャはずっと苦しむんです。
アイスキュロスも、「正義」を決めるのが、表向きはゼウス(理性)なのに、ほんとは嫉妬や恨み、復讐の女神じゃないか、と告発する。

でも、お客さんは、結局、デウス・エクス・マキナを見に来るようになってしまう。
…こうして、ギリシャの演劇は衰退していくんです。
紅白や、あるいはハリウッド映画の特撮とかも同じような顛末になりつつあるのかも(;・∀・)

ギリシャ悲劇は、始めからギリシャ神話の脇道・枝道を追求しているんで、
袋小路に行きやすかったんじゃないかと推測します。
どんどんマニアックな方向に行って、
その一方では顧客を維持するため、インパクトばかりのデウス・エクス・マキナ。
…なんか最近の文化一般にも言えるよう傾向。。
やっぱり成熟しすぎた社会なんですね。

  +

ジョイス「ユリシーズ」も、ほんとのところ、そんな末期社会に咲いたアダバナなのかもしません。

訳は、入手しやすく、ちゃんとしたものとなると、ヘリテージ版と、
アクの強い柳瀬訳しかないんですが、
ユリシーズは横顔しか見せない本なので、
周辺から攻めるのもアリだと思います。

テクストそのものを読むより、ジョイスが何をしようとしたか、そのたくらみの「うひひ」を知るほうが面白いと思いますw

実際、テクスト自体を読んでる時より、解説本や、あるいは関係ない本を読んでる時に、ユリシーズが「読める」瞬間が来る(笑)
みなさん、そう感じてるみたいです。

最近面白いなと思ったのは、「ユリシーズの謎を歩く」という本。
ユリシーズゆかりの観光案内といいつつ、本のランドスケープが一望できる良書です。

Posted by: Site icon overQ : August 7, 2006 7:33 PM

うわー、小林幸子!
それは考えてませんでしたが、そう言われてみると、まさにその通り…
小林幸子がウケてるのを見て、次は美川憲一をぶつけてみる、ってそんな感じでしょうか?(笑)

それにしても、ギリシャ悲劇の一見硬そうな雰囲気が、同人誌やら紅白やらですっかり粉砕されましたねー。
読まずに敬遠してる人も多そうですけど、こうやって入りやすくなるといいですね。
読んでみると、あんがい下世話で楽しいですもん。
というか、ギリシャ神話自体、思いっきり下世話ですし…

「ユリシーズ」のこと、色々教えて下さってありがとうございます。本編の訳はやっぱりヘリテージ版なんですね。まずは読める瞬間を待って、回りから固めていこうと思います。

そうそう、ちょっと前から「図説ケルトの歴史」と「ケルズの書」を見てるんですが、図版を眺めてるだけで楽しくて、なかなか本文が読めませんー。(^^ゞ

Posted by: Site icon 四季 : August 10, 2006 7:05 AM

きっとギリシャでも、小林幸子vs美川憲一みたいな、デウス・エクス・マキナの戦いが繰り広げられたんでしょうね。
恐ろしいことになってたと思います。

もう、いったん、そういう流れができてしまうと、エスカレートしていくしかなくて、止めようがないですから。
ハリウッドのSFXもすごく似てて、ストーリーはそれなりに「奥行き」もあるんだけど、そういうことを追求しても、観客は退屈するばかり。
どうしても過激な映像に走りがちです。
観客も作り手も、エスカレーションに気づいてて、でも、止められない(;・∀・)
お笑いも最近、この傾向が強く見られますが。飛び道具ばかりが表に出てしまう。
こうやって、物語の本当の醍醐味は滅んでいくんでしょうね。落語も漫才も衰退したし。

ギリシャでは、神話から劇の時代が来て、このあとはプラトン・アリストテレスのような総合的な哲学科学、
そしてアレキサンダーというアジアな専制的「力」が最後に出現し、あとはローマに吸収されて終わります。
もともと、はるかに高度な文明と歴史、富を持つオリエントの端で、一瞬だけ輝いたギリシャ文明と思います。


図説シリーズは、どの本もとてもよく出来てますね。
絵や写真もこっそり著作権を侵害してて、かなり気合はいってる(笑)

鶴岡真弓さんの文章って、まさにケルズの書で、渦巻いてて、わりと読みにくいw
多様な解釈をゆるしてしまうというか。
いつまで読んでも慣れないですが、愛着は読むほどにわいてきます。

ケルトとゲルマンの区別という、読んでも読んでもわからない難しい問題があるのですが、
私はこの問題についに決着をつけました。
苦節15年(笑)
その話はまた書きますね(しかし、書くのはかなり難しい)。


Posted by: Site icon overQ : August 11, 2006 7:10 PM
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