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猿田彦幻視行・悟 「ハイウェイ61の猿田彦」

written by overQ
November 2, 2006

猿田彦神をめぐるシリーズ。
たら本の二回もふくめて、今回で5回目(あと3回?)。

サルタヒコ。
歌舞音曲の生まれ出る現場に立ち会う神。お下劣なセックスの神でもある。

だんだんこのカミサマの実在を信じるようになってきましたヽ(´ー`)ノ
音楽の魂が震える場所には、きっとこの神がいるように思えてきたから。

たとえば、こんな道に、彼は列をなしている。

ハイウェイ61の伝説

不況になると綿花畑のオーナーたちは
小作農から畑を取り上げた。
働く場所を失った黒人は家族ともども
ハイウェイ61に列をなして野宿した。
143家族のテントが、ハイウェイの
路上に点々と続く…まるで道祖神のように。

何を道しるべするというのだろう?

どんな未来へもつながらぬ、この道のみちびきの神。
帰るべき家路を持たぬ、この道の守護の神。


おお、ハイウェイ61。誰の奏でるギターの音色か。
爪弾くのではない、まるで大地のドラムのようだ。
野太い指で弦から音を叩き出す。労働のあえぎを。
鉄の爪をこすりたて女たちの叫びを。
弦をたわめて歪んだ音で、この世界のひずみを。
女たち男たちは腰を回し
土曜の夜の狂乱と日曜の朝の信仰で
歪んだ世界の告発をわめきたてる。

暗きものは夜、冷たきは大地。
天と地のあいだに生まれし子らの歌。

彼らは地と天を行き来した。
ブルースとゴスペル。
この世界を創りしものを讃え
この世界を創りしものを呪った。
女を愛したその指で神を誉め
男を吸ったその口で御名を称えた。
いのりはのろい、のろいはいのり。

(…続く)

Highway 61 Revisited

ブルースの発生の瞬間。

綿花畑のプランテーションで、激しい労働に従事する黒人たちの間から、生まれてきた音楽。
仕事の後の土曜の夜、セックスへの期待を胸に男たちは酒場に向かう。夜も更けるころには、高笑いは怒号に、熱狂は喧嘩に変わり、しばしば殺人も起きたという。日曜の朝には、同じ喉が、神を讃える歌を歌う。
彼女ら彼ら黒人は、不況になれば家族ごと、路上に放り出される小作農。

ふたつの世界大戦。アメリカが自動車や鉄鋼で世界の覇者となっていく時代、
ハイウェイ61を北上して、黒人たちはデルタの農園から、シカゴやデトロイトの工場へ流れて行く。
この移動が、ブルースやジャズ、そしてロックといった、20世紀の音楽を生み出していく。
それは自動車を上回る世界商品にのし上がる。
故郷も未来の希望もないものたちがつどった道から、生まれてきた声と音。

ハイウェイ61。この路上に、サルタヒコがいなかったはずはない。

Blind Willy Johnson / Dark Was The Night

ハイウェイ61には、伝説がある。

親父が女を殴り
女は腹いせに七歳の継子に
苛性ソーダを投げつけた。
それが失明の理由で
以来民衆の阿片におすがりして生きてきた。
街角に立って誰彼に伝道もした。
朝から辻に突っ立てば
夜にはパン一斤分の金がもらえる。
どのみち胸の痛みのせいで
空腹も気にならない。
オ・マイ・スイート・ロード。

Robert Johnson / The Complete Recordings

ハイウェイ61には伝説がある。

49号線と交わる場所。
深夜の常闇に伏し拝み、男は悪魔に魂を売った。
朝にはこの世界の誰も及ばぬ
ギターの腕前を手に入れた。
男は自分が堕落したと感じた。
女に買わせた一張羅を着込み
男はそう歌った。
彼はシカゴがカリフォルニアにあると考えていた。
その眼前には海が広がるのだと。
海を見たことのなかったこの男の
世界は太初(はじめ)から歪んでいた。
地と天がメビウスの輪のごとくむすぼれていた。

Son House / The Legendary Delta Blues Session

ハイウェイ61には伝説がある。

男はトラクターの運転手をしていた。
その前はブルースマンだった。
その前には人を殺し
監獄農場で無償労働していた。
国会図書館に「採集」されるため
男とギターは音源を提供した。
受け取った報酬は冷えたコーラ一瓶。
男が死んだ時、86歳だったのか
94歳あるいは102歳であったのか
当人にもわからぬこと。

マーティン・ルーサー・キング自伝

ハイウェイ61には伝説がある。

男はひとつの夢を見たという。
東洋には人を果実にして
生み落とす木があると言うが
男の住む国には死体を縄で吊るし
果実にした木があった。
ために男は夢を見た。
どこへもつながらず
帰るべき家路もない道で立ち上がり
ここにわれわれの家を作ろうと呼びかけた。
痛みと苦しみと耐え忍ぶことを歌にするのではなく
自由と喜びと勝利することを歌にしよう
…そうできるのだ、と。
男が殺されたモーテルもまた
ハイウェイ61のかたわらにある。

ハイウェイ61には伝説がある。

ブラインド・ウィリー・ジョンソン *1
ロバート・ジョンソン
サン・ハウス
そして、キング牧師
ベッツィ・スミスが自動車事故で死亡し、プレスリーがトラックを運転し、腰を振ってサルタヒコ神を讃えた道。

ハイウェイ61。ブルース・ハイウェイとよばれた、この道。

ロバート・ジョンソンがクロスロード(十字路、四辻)で出会った悪魔は、まちがいなく、道股の神、猿田彦。

サン・ハウスは、ブルースはただ一種類のブルースがあるだけだ、と言いました。
男と女のことだけだ、と。
男が女を裏切るか、女が男を裏切る…それを歌うのがブルースだ、と。

疑わしい=歌交わし、から始めたサルタヒコの話
ブルースの魂が震える瞬間にも、まちがいなく、うたがわしく、この神様がいた。

ブラインド・ウィリー・ジョンソンの歌は、今、ボイジャーに乗って、宇宙の無限に続く道を、あてどなくさまよっている。

MARTIN SCORSESE PRESENTS:THE BLUES A MUSICAL JOURNEYMARTIN SCORSESE PRESENTS:THE BLUES A MUSICAL JOURNEY

¥ 27,930 / 日活
( )


by AMAZ君(改)


*1 : ブラインド・ウィリー・ジョンスンのYouTube映像は、もちろんホンモノじゃないです。ヴェンダース監督「ソウル・オブ・マン」の1シーン。BWJは、広告用に撮った写真が一枚きり残ってるだけの人。


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