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鬼のカタリ・前篇

written by overQ
May 16, 2007

葵祭の鬼―六条御息所

節分に壬生狂言を見て以来、
鬼さんによく会う気がします。
鬼の姿は、赤いざんばら髪の童子。

やすらい祭ではデンデンと、
太鼓を叩いて回転する鬼を見た。
千本えんま堂ではピョンピョンビョンと、
跳ねる鬼を見た。
刀鍛治を助けに山からやって来る、
童子姿の稲荷様も鬼のようだった。

昨日は葵祭。
平日だったんで見に行けなかったけど( ;∀;)
そいえば、葵祭にも鬼がいます。

源氏物語の六条御息所。
素直にデレれない、ツンツンの女。
その生霊は、能「葵上」で、般若の面

光源氏の愛人・六条御息所は、葵祭で
ツンデレな正妻・葵の上とのクルマ争いに敗北。
その屈辱をバネに生霊となって、
葵の上にとり憑きます(;・∀・)

葵の上のアオイは、葵祭のアオイ。

能「葵上」では、葵の上は舞台に置かれた、
一枚の小袖のみであらわされます。
病の床に伏せっているのです。
秘すれば花なシンプルな表現。

そして舞台にあらわれるのは、六条の御息所(生霊)。
鬼が主人公。
そもそも、おもだった演者は、
六条御息所、
彼女を呼び出す巫女、
そして、お祓いする比叡山横川の法師。
生霊・巫女・術僧と、
三者とも鬼の匂いがする人物なのです。

鬼のカタリ

syuten.jpg

酒呑童子
菅原道真
道成寺
五条の弁慶。

石川五右衛門
曽我五郎
蘇我入鹿

鬼一法眼
蘆屋道満
忠臣蔵。
四谷怪談。

狂言や能、浄瑠璃や歌舞伎をはじめ、
日本の芸能や語りが、好んで題材とするのは、鬼。
鬼そのもの、あるいは鬼じみたもの、
鬼の象徴やかかわりあるもの。

…いろいろあれど、つまるところ、
鬼ばかり出てくる、と言っていい。
芸能の民は意図して「鬼」をフィーチャーしてきた。
そのため史実を変えることだって平気の兵座。

御霊信仰。
平安期から続く、怨霊への畏怖の念。
これを流布させたのも、「芸能」と思います。

舞と踊り、カタリの文芸。
町衆を熱狂させた大道芸人たち…。
聖・山伏・踊り念仏、遊女たち…。
文字の外側、カタりカタられるもの…。
道を遊行し辻々で芸をなした人々…。

曽我五郎のゴローは、御霊に通じています。
オニの、ニオイの、するもの。
彼らはあらゆるカタリのコードの中に、
鬼のウィルスを仕込んだ。

鬼とは文字に書き取られないコトバの、
見えない活動なのかもしれない。

長大な源氏物語から、能を作るのに、
あえて選んだ主人公が、六条御息所。
どうしても鬼に固執する。

舞が荒神を鎮めるものだから、
とも言えるのですが、鬼そのものを
嬉々(鬼気)として演じるのは、なぜだろう。

「葵上」の作者は、近江猿楽の犬王と言われています。
犬王が将軍義満にたまわった名は、道阿弥。
…また、犬に道。


山で育つ童子

kintaro.jpg

まさかりかついだ、金太郎
赤く、ザンバラ髪で描かれる、山の童子。

赤、ザンバラ、山、童子。
でも、それって、めちゃめちゃあからさまに、
ではないのか。

ところが、成長した金太郎は、
源頼光に仕える四天王のひとり、坂田金時。
酒呑童子という鬼を退治する。

鬼自身なのか。鬼を退治する側なのか。
いったい、どっち?

raiko.jpg

頼光ライコウと四天王は、
カタリの世界でも特に有名な、
鬼退治のスーパーヒーローたち。
金時は、もっぱらカタリによって広まった人物像らしくて、
実在するのかどうかも、よくわからないとか。
日本中のあちこちに、伝説の地を持ちます。

金時を刀鍛治とするカタリもある(金山彦…金太郎を育てた山姥はイザナミ=ウズメ?)。
山から来るザンバラ髪の、
マサカリ担いだ赤肌の童子

能「小鍛治」の童子姿の相槌稲荷のことを思い出させる。
無理難題な刀の製作を言い付かった鍛治師を、
山から来訪した童子=稲荷が助ける話。

あ。その上、金太郎さん、何の
偶然か、坂田という、S+Kな姓。

思えば、牛若丸も山で育つ。
彼が弁慶と戦う五条大橋。
秀吉が移動させる以前は、猿楽やくぐつのメッカ。
カタリの聖地。

大橋そのものが、芸能民の「勧進」
つまり芸を見せて資金を集めること(「公共工事」の祖)、
でできたかとも思います。
弁慶が活躍する歌舞伎は、もちろん「勧進帳」。
弁慶・牛若は、どうしても
五条(今の松原通り)で戦わなければならないのです。

別冊太陽の美麗なムック「カタリの世界」を読んでいると、
やっぱり「金太郎=鬼?」なことが書いてありました。
さらに、頼光と血縁と言われる藤原保昌も、
山に捨てられた子だったと
…曽我物語にあるらしい。

また、保昌は牛若丸のように、笛を吹く童子

さらに弟は盗賊で、和泉式部の再婚した夫
(和泉式部は、カタリのとくに大切な女性キャラ。
カタリの中では、アメノウズメの転生で、遊女の始祖)。
また、狂言「花盗人」、祇園祭の「花盗人山」
(または「保昌山」、鬼を追う北面武士に追われ逃げる保昌)と、
どこまでもカタリの世界につながります。

芸能のヒーローとしての頼光は、ヨリミツじゃなくて、
ライコウと読ませるのだけれど。
これは「雷光」とも読める音で、
鬼と金属につながっていく
…とも別冊太陽にありました。
そもそも、マサカリもつ金太郎は、「金の太郎」。
雷光はまた雷公にも通じて、御霊の天神様=菅公を思う。

カタリの世界―昔話と伝奇伝承 (別冊太陽―日本のこころ)カタリの世界―昔話と伝奇伝承 (別冊太陽―日本のこころ)
西川 照子
¥ 2,730 / 平凡社
( 2004-05 )
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鬼と鬼退治のウロボロス

四天王の匹頭、渡辺綱
一条戻り橋で、鬼の腕を切り落とすのが、綱。
綱の子孫は一乗寺にいらっしゃって、
むかしは渡辺城という砦(やましろ)もあったらしく、
渡辺姓は今もこのあたりに多いです。

その一乗寺から、比叡山のふもとを北へ、
私の住んでるアパートの部屋を抜け、
歩いていくとほどなく、
京都のホビット庄、八瀬に着く。
もと鬼だったという伝説を持つ八瀬童子の地。

そしてこの地にある御蔭神社は、
冬の間、神さまがこもる山。
そこで新生した神(ミアレ…山で育つ童子)を
下鴨神社にお運びする
…それが葵祭のはじまり。

グルグル回る、鬼と鬼退治。
敵なのか味方なのか、他者なのか自己なのか。
内なのか外なのか、災いなのか幸いなのか。
追っているのか、追われているのか、この鬼ごっこ。
鬼は外、福は内?
このウロボロスに対して、
そんな単純な二項対立は可能だろうか?

古代、先住民は来訪したものを神とし、
名(氏や姓)をもらって臣下となった。
ちょうど、キビダンゴをもらった犬・猿・雉が、
桃太郎にまつろうように。

ミコト(御言)をもってスメル(統べる)こと。
スメラミコトは巡幸し、土地や土地の神々に、
事細かに名前を与えていく。
禍福をその区別なくばらまきながら…。
考えてみれば、平安貴族だって、もとは
天子様に氏姓をいただいた、ネイティヴ・ジャパニーズの
族長らのスエ。

鬼である当人が、いつの間にか名前のあるヒーローとなり、
鬼退治をおこなうという奇妙な話も、じつはこの例を
繰り返そうとしたものかもしれません。
支配と従属は、実際には単純な上下関係ではありえず、
きわめて複雑精妙な政治的
バランスをもった、メビウスの輪だから。
表をたどるうち裏側に出ることもしばしばなのです。

壬生狂言では節分に来訪した鬼が、
後家さんにまんまとしてやられる。
えんま堂狂言では、演者たちが最後に、
仮面なし(素顔)の鬼のかっこうで現われて、
ピョンピョン跳ねたあと、源為朝に金剛杖で切られて終わる。
そして、歌舞伎「勧進帳」では、その金剛杖で
山伏姿の弁慶が、主君の義経を打つクライマックス。
グルグル、グルグル。

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芸能の民は、自分たちの
出自が「鬼」であると自覚してた。
その上で、からかわれたり、切られたり。
…鬼となり、鬼の退治手となって、
グルグル演じてみせる。

鬼は、演劇の空間で、鬼を倒すヒーローに反転し、
それはまた、その逆をも暗示できた。
やんわりとも鋭利とも取れる、
抵抗のような服従のような活動。

近世初めくらいまでは、暗黙の了解
…であったかしれない。
秀吉にも家康にも、その時代、
同じヴァイブレーションを感じる。

頼光とその四天王。
藤原道長につかえるもの。
ややこしい時代の京。

陰陽師・安倍晴明も同級生(留年?)。
一条戻り橋の橋下に、晴明は式神を隠し持ち、
使い魔として使役した…とカタられる。
一方、四天王は戻り橋で鬼の腕を切った、と。

道長の権力は、鬼の使役と深く関係がある。
あれほどの栄華をもたらす鬼の力、
コントロールをまちがえば危険なものでもあったはず。
史実とカタリの間には、鬼たちと時の権力との、
微妙な駆け引きが隠されているのです。

いや。
道長と、頼光や鬼の話だったか。
義満・義教と、世阿弥・犬王の話ではなかったか。
もしかすると、信長と幸若舞?
その次にときめく権力といえば、
サルと呼ばれたあの男。
町人たちを招待し、あろうことか、自身でもって自作自演、
太閤能を舞って見せた。

どれがカタリで、どれが史実?
グルグルしてきました。。

追いかけてるのか、追われているのか。
ウロボロスの鬼ごっこ。

いざ、飛び六方にて、次回へ続く。



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