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兄者と妹者 前篇

written by overQ
May 26, 2007

兄と妹―ある愛の物語

夢野久作 (ちくま日本文学全集)夢野久作 (ちくま日本文学全集)
夢野 久作
¥ 1,020 / 筑摩書房
( 1991-12 )


by AMAZ君(改)

野久作「瓶詰の地獄」。兄者と妹者の物語。
じつは、この作品には、元ネタになる説話があります。今昔物語集、第二十六巻「土佐国妹兄、知らぬ島にゆき住めること 第十」。

(瓶詰のネタバレがあるので、もしかネタバレが嫌な人は、先に瓶詰を読んでみてみてね。短いので、すぐです。というか、もう題名でバレてる気もするが(;・∀・)
青空文庫・夢野久作「瓶詰地獄」

今は昔。
土佐の国、幡多の郡に、農夫がいました。
苗代ができ、田植えをしようと、息子と娘を連れて、舟で買出しに出かけました。
雇い人に食わせる食料、鍬や鎌や斧といった道具類を買い込んで、船に積み込みました。
あとは田植え女を雇うだけ。
十四、五の息子と、十二、三の娘を、舟の見張りに残し、農夫は田植え女を探しに行きました。

ところが、二人の子供が眠っている間に、潮が満ちてきて、舟を沖に運んでしまいました。
風も吹き、潮にも乗って、舟はどんどん遠くへ流されていきます。

やがて舟は、ある島に着きました。まるでひと気のない無人島です。
兄妹はしばらく泣いていましたが、やがて妹が、
「兄じゃ、泣いていてもしかたありません。
食べ物があるので、それを食べていきましょう。
食べ物が尽きたら、鍬で耕して苗を植え、斧で林を切り開きましょう」

こうして二人の兄妹は、島で暮らすようになり、やがて年頃を迎えると夫婦になりました。
年月が流れ、子供たちも結婚して、さらに子供が生まれ、田をさらに広げて、島は兄妹の子孫で栄えています。
土佐の国の南にある、妹兄島(いもせじま)というのが、その島です。

と妹の結婚。
でも、兄と妹のペアは、卑弥呼とその男兄弟をはじめ(必ずしも「夫婦」じゃないものの)、神話や説話にたくさん出てきます。

今昔物語集 本朝部〈下〉 (岩波文庫)今昔物語集 本朝部〈下〉 (岩波文庫)

¥ 1,155 / 岩波書店
( 2001-09 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

神の妻、タマヨリヒメ

kamofami.gif
例えば、上賀茂・下鴨神社の神さま、玉依姫(タマヨリヒメ=タマが依りつく姫様)。彼女には、「玉依彦」という兄者がいます。このお兄ちゃんは、なぜか神ではなくて、ニンゲンなんだそうです。兄妹の父は、賀茂建角身命。下鴨神社(賀茂御祖神社=カモのご先祖さま神社)の祭神。

玉依姫は、川からドンブラコと流れてきた、丹塗矢に触れて、妊娠します。
そのお子さんが、賀茂別雷命(カモワケイカヅチ=賀茂の若様の雷の神)。
上賀茂神社(賀茂別雷神社)の祭神です。

山城国風土記逸文にあるお話(記紀ではまたちがった話になっています。タマヨリヒメは一般名で、いくつかの別なヒメ神さまをさしているらしい。→柳田「玉依姫考」)。
「では、ワンパク孫の別雷命よ、お前の父は誰なのか」
と、この若様に盃をもたせた、おじいちゃんの建角身命。
すると、若様は、盃とともに天に昇ってしまいます。
丹塗矢をつかわした、別雷命の父は、天の雷だったのです。

GoogleMap 「葵祭への道」

ここで、興味深いのは、兄者のタマヨリ彦。
タマヨリ姫は神の嫁で、神の子を宿します。
つまり玉依姫はその名のとおり、神の御魂が依りつく巫女。
兄者タマヨリ彦は、神ではなく人なのが、興味深い。
ちょうど卑弥呼を補佐した男兄弟のよう。

弥呼は独身でしたが(年已長大 無夫壻)、タマヨリヒメも丹塗矢に触れて、処女懐胎する。
誰が相手かわからない。真の夫=神は姿を隠している。
神に嫁いだ妹に対して、兄者は現世での名目上の夫のような存在…いわば、神に寝取られる夫( ;∀;)

柳田国男全集〈11〉民謡覚書・妹の力・伝説柳田国男全集〈11〉民謡覚書・妹の力・伝説
柳田 国男
¥ 8,190 / 筑摩書房
( 1998-05 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

妹を神に寝取られる

依姫と玉依彦の関係は、柳田国男「玉依彦の問題」に出てきます。
でも、「処女懐胎」「神に寝取られる夫」といえば、神の子イエスを産む聖母マリアと、その大工の夫ヨセフを思わずにおれない。
兄と妹ではないけれど、兄と妹のように愛し合った(泣笑)。
学問的なレベルで証明するのは至難だけど、たぶんつながってるんでしょうねぇ。
「神の妻である巫女の妹+その兄者」という形。
キリスト教って、実在したはずのイエスという男のこと以上に、古い民間信仰の名残のほうがずっと濃厚な不思議。

さて、神の妻である巫女の妹と、その兄者。

人口がすごく少ない時代の名残りかもしれません。
共同体の中では、若者はみんな兄妹みたいな血縁者たち。
血は外から入れねばならない。
歌垣や市、S+Kの交歓・交換の場で、見知らぬどうしが、たがいの神となって出会う。
よそ者との、一夜かぎりの神聖な出来事。
生まれた子は、神の子。誰の子かはわからない、外からやって来た異人の…いや、遠い天からの授かり物。
男兄弟は、妹たちが産んだ「神の子」の、現世での父となって、村社会をいとなんでいく。
嫁だか婿だかを交換していく制度が作れないくらい、まだもっと人口が少ない条件のもとでは、そんな具合になるんじゃないでしょうか。
(あるいは交換しても、「同一人物」とみなし続けるような場合。ドラえもんで声優が変わっても、同一人物であるようにw)

…かなり大胆ムボーな説ですが、これまで積み重ねてきた憶測からすると、そういうことになりそうです。
もっと後の時代だと「どこの馬の骨」となるところ。
それを、逆に神聖視して、貴重なカミの仕業と見る。
ムラがその内部だけでは、まるで維持できないような状態。
いろんなものを外の世界…自然や動物や異人からもらって生きていた時代。

ここで、万葉集の巻頭歌、雄略天皇が名も知らぬ「菜を摘む少女」をナンパする、あの不思議な歌を思ってみる。
「もらう」立場じゃなくて、カミの立場で「あげる」ほう。
神さまは見知らぬ土地を巡幸し、サチの種をまいてゆく。それがより大きな、ゆるやかな家族を形成してゆく。クニのもとになるもの。
制度が整ってくると、もう神自身が巡幸するよりも、釆女(ウネメ)という形で、「カミの嫁」は隔地から集められるのですが。

kamofami2.gif

さて、生まれた神の孫は、天に帰ればふたたび雷神ともなり、また世代をもたらしたものとしては御先祖になる。
こうして、賀茂の神さまサイクル、
「じっちゃん(御祖)―妹(巫女斎王)―ワンパク孫(別雷)―妹…」
が完成し、無限に反復されます。
これがミアレ=葵祭。
子(別雷命)が、精霊(丹塗矢=姿なき雷神)の媒介によって、父(御祖=建角身命)となる、三位一体の秘儀。
こんなにキレイにキリスト教と合致していいのか。。

…にしても、兄者、影うすし(涙)。
いや、大丈夫、私の理論(妄想とも言う)の中でなら、彼は「よその村」にとっては、種(=丹塗矢)をもたらす、姿なき雷神。
つまり、レヴィ=ストロースのいう「欠損(=影薄さ、姿なき)によって、かえって体系を活性化させるもの」(生のものと火を通したもの)。
影薄い兄者は精霊であり、別な共同体にとっての姿なき雷神、丹塗矢(=種)のみを放つもの。
歌垣において、「どこの馬の骨」として、よその村の娘に、種をまくもの。
「翁―妹―孫」の縦糸に対して、横糸となって、サイクルを回すものなのです。
(なんか人類の謎の4.8%(当社比)くらいを解いてしまった気がする…w
この横糸たる精霊。影薄い兄者、姿なき雷神(来神)を、明示的かつ単独であらわしたシステムが天皇制。
しかし、このシステムも「空虚な中心」と呼ばれて、実質的な権力者(爺=若さま)にはまた別の生き物ということ。)


後篇へ続きます。



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