兄者と妹者 後篇
written by overQ
May 26, 2007
田植えをする乙女
妹のバカ力」の記事では、怪力女たちの系譜をたどりました。
富士山から琵琶湖までの地域に出現し、道場法師という怪力僧の血を引くという女たち。
そのひとりは、名だたる相撲取り・光遠の、その妹。
つまり、兄者と妹者。
妹は天下に名を知られた相撲取りの兄に、2倍まさる力持ち。
丹塗矢ならぬ、矢の束を30本つかんで、床板に押しつけ、バリバリ折ってしまう怪力。
神が依りついている。
そう、このお話は、「神の妻である妹+その兄者」の類型。
別な怪力女、大井子。
彼女は寡女、つまり独身の女。
神と結婚したがゆえに、現世では独身である女。
大井子のエピソードは、ふたつ。
・古今無双の(はずの)相撲取り氏長の特訓のため、握り飯を握る。
・田に水を引く引かないで村人と争い、巨石を投げる。
握り飯と水田。
これはじつは、田植えの行事と関係があるらしい。
説話の時期はちょうど今頃。梅雨前の田植えの季節。
無双の相撲取り・氏長は、七月の京の相撲節会に出かける途上で、大井子に特訓を受けているのです。

田植え posted by
overQ2.0
田植えは、女の仕事でした。
早乙女と呼ばれる処女が、田植えをした。そうでなければならなかった。
今でも儀礼的に残っている地方はあるんじゃないでしょうか(葵祭の斎王代も、間接的な名残り)。
田植えは、稲の苗に、神を依りつかせる神事。神の依りついた「神の妻」にしか、出来ない仕事だった。
私の憶測の筋道では、田植えの時点では、すでに「処女」は神の子をはらんでいます。
「前篇」で登場した、今昔の兄妹の話も、田植えにまつわるものだったことに注意。
「田植え女を雇おうとする」「鎌など鉄器を用意する」というのがポイント。
また田植えの際、お昼ご飯を出すのも、乙女らの役目。
彼女たちはオナリと呼ばれた。
カミのミタマをこめて、むすんだのがオニギリ。
柳田国男「玉依彦の問題」に引用されている民謡では、
今日のおなりの姫をやとふには、
兵庫の町の中の町
(かけ)おなりの姫様をやとひ取るにはな、
あまたのよせいで駕籠で迎へたりな(さげ)おなりどが十二の釜をとぎ上げて
(五月女)さんばい様の飯を炊く
オナリは、神の依りましとなって、神のミコト(御言=御子)をはらみ、「うなる」ことから来ている…と柳田は言います。
沖縄にはもっとはっきりと、ヲナリと呼ばれる神の依りしろとなる乙女たちがいる(伊波普猷「をなり神」)。
また沖縄にも前回記事の今昔「妹背島」説話とそっくりな話があることも紹介しています。
島々では、兄者の船を守る妹(の髪の毛、陰毛)という伝説があるようです。
柳田はさらに、朝廷に捧げる女たち「釆女(ウネメ)」も、オナリと関わりがある、とも。
大井子が握り飯をにぎり、水田の水引きに躍起なのは、彼女がオナリだから。
田植えの斎王さま。
怪力女は、神のよりつく妹たちなのです。
どこの誰だか、道場法師

怪力女のご先祖とされる道場法師とは、何者?
道場法師は、雷さまの子供。
日本霊異記・上巻「雷(いかづち)のむかしびを得て、生ましめし子の強力ありし縁 第三」。
敏達天皇の御世。
尾張の国阿育知(あゆち=愛知)郡の片輪の里に、ひとりの農夫がいました。
小雨の降る日、田に水を引こうと、木の下で金の杖を突き立てました。
すると雷が落ちて、小さな子の姿で立っています。
農夫が金の杖で突こうとすると、雷さまは、
「いたいし、やめてよ。なんでも望みを叶えてあげるからさ」
「何をしてくれる?」
「子供を授けてあげるよ。だからボクのために、楠で船を作って、その中に水を入れ、竹の葉を浮かべて下さい」
言われたとおりすると、雷は煙とともに天に昇っていきました。
その後、子供が生まれた。頭には蛇が2匹巻きついていたのです。
じつはこの「頭に蛇2匹」は、賀茂の若神さま・別雷命(ワケイカヅチノミコト)が生まれてくるさまと、まったく同じです(柳田「雷神信仰の変遷」)。
道場法師=別雷命。
やがて、雷さまのくれた子は少年となり、都に出て、力比べをしました。
都で一番という力持ちと、巨石の投げ比べ。
もちろん少年が勝ち、彼が巨石投げに立ったところには、
足跡が深々と掘り込まれていたといいます。その後、少年は元興寺の童子となり、
鐘撞堂の鬼を退治し、その髪を引っこ抜きます。
その肉つきの髪は、寺の宝として伝えられています。
さらに、元興寺が朝廷と田の水争いをしたとき、
怪力で巨石を投げて、寺の田に水を引きました。
別雷命たち賀茂の神さまの伝承は、記紀と山城風土記では、ひどくちがっている。
正直なところ、記紀にはちゃんと取り上げてもらえなかった。
でも、賀茂の神さまのカタリは、田植えと深く結びついているので、なくなりようもない。
仏教の下に身を隠し、神の名じゃなく「道場法師」という名前で、生き延びてきたようです。
朝廷と寺が水争いして、朝廷を打ち負かすというのが、なかなか勇ましい。
(鉄器の伝来をめぐって、中臣に負けたんじゃないかなぁ、賀茂さんの神話。中臣鎌足のカマは、鎌=釜のカマ。でも、ほんとは鉄器のカマは、賀茂のカモかも。弥生、あるいは縄文末からの、小競合いなのかもしれません。
鎌足の話はまたいずれ。鍛治師さんたちは、熱い鎌足マニアなんです。)
どこの誰だか、ダイダラボッチ
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by AMAZ君(改)
霊異記は、
第一話が「雄略天皇の御世、雷の子、少子部栖軽(ちいさこべすがる)をとらえる話」。
第二話が、「狐が産んだ子供の話」。
三話目が、さっきの「道場法師の話」。
一話目と三話目はつながってるようなもの。
また、二話目のキツネの子は、「妹のバカ力」で出てきた、怪力女・美濃のキツネを思い出させます。
事実、「美濃のキツネ vs 小さい女」の力比べ話は、霊異記・下巻に出てくる。
その舞台は愛知の片輪の里。
(ちなみに、四話目は、聖徳太子の話。)
霊異記が、どうしても「道場法師」にまつわるエピソードを書いておきたかったのが、よくわかります。
怪力女たちは、雷神の子・道場法師(別雷命)の子孫であり、またその妻でもあるはずです。
田植えの時期、その怪力が現われるのは、雷神を活性化して、雨を降らせるため。
朝廷が怪力女を実際に中央に召し上げていたのは、釆女のようなものとしてですが、
地元に田んぼ(膂力婦女田)を与えているのは、膂力婦女子が田んぼの巫女だから、というわけです。
…すべての謎は解けましたヽ(´ー`)ノ
さらに、もうひとつ。
道場法師が巨石を投げようとして踏ん張った足跡が、深々と残っていること。
かつて、滋賀の石山寺にも、そんな伝承を持つ足跡石があったそうです。
剛力の足跡。
これはダイダラボッチ(=大道法師)の伝説と同じ。
ダイダラボッチは、まあいえば、富士山を築いた怪力男で、そのために土を掘った跡に水がたまったのが琵琶湖。
琵琶湖のそばの石山寺に「踏ん張った足跡」が残されていたのは、そういうわけです。
誰がニッポンを作ったのか。
富士山から琵琶湖にかけてのカタリなのです。