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夜歩く10 「平安京のペット・セメタリー」

written by overQ
June 30, 2007

二十九の鬼「平安京のペット・セマタリー」

百鬼夜行を追う「夜歩く」シリーズ。
いよいよ一条戻橋までやって来ました。

前回は、戻橋の東側に注目。
西側は晴明神社があって有名だけど、
東側にだって、革聖の革堂や、山伏がつどう大峰寺があった。

聖や山伏。
彼らは平安貴族からは、いわば「見えない」存在(陰=鬼)。
彼らの動向を表記する言語が、まだ書き言葉の表現になかった、
つまり「書けない」存在…というべきでしょうか。
さらに聖や山伏、もしかすると山の生活をしてた人が、
仏教のよそおいをかぶったものかもしれないことも。

戻橋の日常

さて戻橋。
戻橋をなぜに戻り橋というのか。
こんな由来がカタられます。

三善清行の子、浄蔵。
熊野で修行中、父の死を知り、帰京する。
ちょうど清行の葬列が戻橋をすぎるところに遭遇。
浄蔵の祈祷によって、清行は息を吹き返し、
それから七日間生きていたと。

なんか、スティーヴン・キングの「ペット・セマタリー」みたいだ。
生き返ってた七日間は、すごいおぞましい大事件になってたかも(;・∀・)
よみがえらせたものの、それは、元の姿とはちがっていた。。

「ペット・セマタリー」では、その地は、先住民ミクマク族の墓所。
死者をよみがえらせる霊的な力がこもった場所なんです。
一条戻橋もそうなんだろうか。
この一帯はひろく、平安京以前から聖なる霊地だったのかもしれないから。

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三十の鬼「赤毛のアンのペット・セマタリー」

検索してるうち気づいたのですが、
ミクマク族の聖地って、プリンス・エドワード島ですね。
あの「赤毛のアン」の島。
「赤毛のアン」って、アンの少女時代が、魔女っ子さんしてて、すごく魅力的です。
高畑・宮崎組の演出でも、アンは、その後のキキに通じている。
かなりヘンな子供でもある。
あのまま、大人にならず成長して、魔女になれば☆

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心友ダイアナがまず死ぬんですよね。
それで、アンはダイアナの遺体を、
ミクマク族の聖地「戻橋」に引きずっていく。
ミクマクの魔術「ミクマクマヤコン」を用いてよみがえらせ、
その後は40センチくらいの姿にして、屋根裏に住まわせて、
式神として使役するんです。

グリーンゲイブルズは、髪の色に合わせて、赤く塗りかえられる。
以来、赤き七破風の家として、
近所から恐れられるようになります。
(Anne of Seven Red Gables)

じつはマリラは、セイラム魔女裁判で偽証をおこない、
難をのがれて来た魔女
(おそらくその罪は、兄との近親相姦でしょう。)
アンには、ミクマク族の巫女の血が流れており、
だからマリラはアンを引き取ったのです。
その霊力を目覚めさせようとたくらんでいるんです。
じつは、ダイアナを殺したのも、マリラ。
アンの隠れた力を引き出すため。

こうして、アンは、大人になることなく、
子供の感性を保ったまま、魔女と化していく。
社会が彼女のためと称して用意する、どんな地位も場所も、
それは強要されたものであると批判、ことごとく拒絶していく。
穢れきった現世を否定し、聖なる神と来世の善にのみ仕える、
魔女魂というものがあるのです。

アンは、森や池や道や橋に、勝手な名前を付けていきますが、
それはミクマク族の精霊の名前であり、
アンの命名によって、太古の神々がよみがえり始める。
かくして、プリンス・エドワード島は、古代のよそおいを取り戻し、
アメリカ大陸各地から密かに戻ってきた先住民や、
社会の中に住みかを見出せなかった人々によって、
アンは女首長としてまつりあげられていきます。
Anna Mae Aquash - Wikipedia, the free encyclopedia

やがて、カナダ・合衆国を相手に独立戦争を挑む、
ミクマク魔女軍団。
果たしてアンたちは、政府軍に勝利することが出来るのか!?
(→「赤毛のアン」最終話「精霊たちの最終戦争」につづく)

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三十一の鬼「〈戻り〉と〈もどき〉」

…と、そんな話は、百鬼夜行とも戻橋とも何の関係もないんです。

前回、picoさんから、
戻橋はどちらから渡るのが正しいでしょう」
という質問をいただきました。
答えはまず、「戻り」という語の意味から。

折口信夫は、日本の文芸・芸能・職能の起源を、
もどき」にあると考えました。
「戻り」と「もどき」は、同語源。
能で、ワキとシテが言葉や仕草を交わすのは、
「もどき」が元にある…と折口は言います。
漫才でいえば、ボケとツッコミ。

いちばん最初は、神と人との対話。
神のコトを繰り返すとき、
寸分たがわぬデジタルコピーするのでなく、
「もどく」。
ちょっと変える、すごく変える。
それが、人の人たる由縁。
人間は、記録を死蔵する博物館でもなく、
データを正しく保存するハードディスクでもない。
意味をたどるもの…それがヒト。

「もどく」のは、
神の言葉に意味を見出す、
その方法。
アマノジャクであり、翁と童子、
シテとワキ、ボケとツッコミでもある。
対話とはそんなものであり、
ああいえばこういうことの繰り返しから、
少しずつ「意味」へと、
らせん状にアプローチ
していく手法。

此形は、あまんじやくが何でも人に反対すると言ふ事に残つてゐる。あまんじやくは即、土地の精霊で、日本紀には、アマ探女サグメとして其話があり、古事記や万葉集にも見える。やはり、何にでも邪魔を入れる、といふ名まへであらう。神々が土地を開拓しようとする時、邪魔をするのは、何時も天ノ探女である。即、土地の精霊なのである。此天ノ探女は、実に日本芸術の発足の源をなしてゐるものである。其為事は、
一 ものまね→芸能(舞踊)
一 人に反対すること→狂言(おどけ)

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三十二の鬼「戻橋の意味」

「もどく」の縁語としての、「戻る」。
それを踏まえたうえで、戻橋のことを思うと。

義経記に戻橋での橋占のことが出てきます。
橋で占いするのは、ごくごく当たり前のことだった。
迷いごとがあれば、橋の上に来てみる。
橋を往来する見知らぬ善男善女の、言の葉に耳を傾け、
そこから我が真意=神意を読み取ろうとした。
川が死者を流す葬送の場でもあることを思えば、
占はずいぶん真剣なものにもなりえたのです。
(つまり答えによっては身投げするというような。)

また、職業的な占い師が橋のたもとにはいて、
神の言葉の採集を手伝いもした。
占師は、あるいはクグツと呼ばれた人形つかいでもありえ、
一説では晴明の式神のなれの果て。
人形にコトを語らせることは、
それ自体、カミコトのまねごと。モドキの所作。

それで、柳田國男はこう、書いています。

漢字の戻の字も同様ですが、日本語の「もどる」という語も、古くは「もとほる」といって、前にも行かず、後ろへも帰らず、ひとつ所に低徊していることであったのです。それが押し返すという意味ばかり強くなって、もとの所までということには頓着せず、どこへ往ってしまうことをさえ戻るというようになりましたが、それはほんの近世の変化で、地名のできた時には、まだそうではなかったように思います。
浄瑠璃で有名な、京の一條戻橋なども、後には浄蔵貴所の父の三善清行が、我が子の法力によって地獄から還って来たからなどと説明しましたが、最初は決してそのような意味ではなく、つまり例の橋占辻占を聴くために、人がしばらく往ったり来たりして、さっさと通ってしまわぬ橋というのでありました。

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柳田と折口も、ちょうどシテとワキ、
ボケとツッコミのように、モドキの関係にある。
このふたつの、折口・柳田組の引用を、コンビとして読むと、
「戻橋」の意味がよくわかるように思いました。

戻橋は、迷い橋。
サカイにとどまり続ける、両義的な場所。
あちらでもなく、こちらでもなく。
あちらでもあり、こちらでもある。
戻橋は、どちらから渡っても、同じこと。
どちらから渡ろうと、どこにも行き着けない。
迷いとためらい、どこにもゆかぬ、あはひにたゆたうゾーン。

いづくにも帰るさまのみ渡ればや
      戻り橋とは人のいふらむ
和泉式部
ついでにいえば、カタリもまた、モドキ。
神のコトを噛み砕く努力の一環。
書かれた言葉は、場合によっては教科書的に、
一定の意味だけを強要して、
「もどき」を許さないのですが、
本当の「本 The Book」は無限のモドキとともにあり、
そうするよりほかない謎の言の葉として存在する。
無数のカタリを誘発する岩の如きもの。


次回は、浄蔵貴所と山伏…かな。
今回がそのつもりだったのだが…(´ヘ`;)



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