AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: 夜歩く3「相撲の節会」

夜歩く3「相撲の節会」

written by overQ
June 9, 2007

五の鬼「相撲取り、雷神の子ら」

さらに、あははの辻にて。
今回、この逢う魔が地、人と鬼のサカイで、
難に遭遇するのは、相撲取り。

平安京の七月は、相撲の節会の季節。
田植え(狩猟民にとっては「新緑」)の時期、
雨を呼ぶ儀式であり、
相撲取りたちは地を蹴り鳴らす、
雷神の子ら。

このことはすでに、
「怪力女たちの系譜」をたどる中で、
触れてきました。
AZ::Blog : 妹のバカ力
AZ::Blog : 兄者と妹者 前篇
AZ::Blog : 兄者と妹者 後篇

しかし光遠や氏長といった、
伝説の横綱(最手=ホテ)たちは、
説話のカタリの中では、
けっして勝者ではありませんでした。
むしろ、神がかりな力をもつ女たちの、
「すごさ」を測る単位に使われていた(笑)
(20世紀末、小錦が重さの単位であったようにw)

今回、ご紹介するカタリでも、
また負けちゃうんです、伝説のお相撲さん。
ただ、今回は、相手は怪力女ではないのです。
学生さんです。

お話を見て行きましょう。

七月。
全国から相撲取りが集まる季節。
相撲節会の開催を待って、
力士たちは、
朱雀門あたりで涼みがてら、
あたりを遊歩していた。

kaminari.jpg

南へくだって行こうとすると、
大学寮の東門で涼んでいる学生たちが、
相撲取りたちの前に立ちはだかる。
学生の中には、
えらいさんの子息も多い。
力ずくで通るわけにもいかず、
にらみ合いが続く。

やがて学生のうちでも、
とりわけ小さい、
しかし身なりのいい奴がまかり出て、
「相撲かなんだか知らないけど、
あんたらうるさいだよ」
相撲取りのリーダー、
無双の力士・成村は、
この学生をじっとにらみつけてから、
「さあ、もう帰るぞ」
とその場を去った。

さて成村は力士たちを集め、
「今日のところは引き下がったが、
明日はやっちまうよ」と。
「あの小さい学生がむかつくねえ。
お前、あいつを蹴り倒しておやり」
と、血の気の多い気鋭の力士に告げておく。

そして翌日。
力士たちも総出なら、
学生たちも仲間をかき集めてきた。
決闘である。
学生たちは、
「鳴り制せい!(しずかにしろ)」コール。
その先頭には、例の小さな学生。

成村は昨日の力士に目配せして、
「きゃつを蹴り倒せ!」のサイン。
力士は学生の群れに突進し、
小さな学生の前で足を振り上げる。
しかし、学生は巧みにかいくぐり、
逆に力士の足を取ったかと思うと、
まるで軽い杖でも持つかのように振り回し、
ほかの力士たちのほうへ投げてよこした。
力士は体が砕けて、
起き上がることもできない。

学生は今度は、
成村をめがけて走ってくる。
恐れをなした成村、
一目散に逃走する。
朱雀門の脇で追いつかれ、
つかまえられそうになったのを、
なんとか式部省の
土塀に飛びついて逃れる。
しかし、片方の靴の踵を、
学生につかまれる。
成村がなんとか引っこ抜くと、
踵は足の皮ごと、刀で切ったように、
持っていかれていた。
とめどなく流れる血を見ながら、
「なんて恐ろしいやつだ!
こんな化物が世の中にいるんだ!」
と成村は感嘆する。

成村は、自分の所属する方の監督に、
「あの学生はとんでもない相撲取りです。
私とて、二度と取り組みたくはないほどです」
監督は、道にすぐれているものは、
身分のいかんに関わらず、召し上げると、
この小さな学生を探しまわったが、
なぜか見つけることができなかった、と。
―宇治拾遺物語 「成村、強力の学士にあふ事」

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六の鬼「鳴るカミナリ神なり」



また、いつもの場所。
前回の「神泉苑の北門」から、50メートルくらい西。
神泉苑の西隣が、大学寮です。

相撲取りと謎の学生の決闘の話。
このフシギな話を解く鍵は、カミナリにある。

すでに述べたように、相撲取りは雷神の子ら(霊異記巻1―3話)。
彼らに依りついた雷神は、田植えと新緑のあと、雨を呼ぶ。
神泉苑は雨乞いの場でもある(今昔・巻14―41話)。

雨とともにカミナリもやって来ます。
このエピソードでは、ナリがいくつか出てくる。
相撲取りの成村(ナリムラ)の、ナリ。
学生たちが相撲取りに呼びかける、「ナリを制せ(=静かにしろ)」。

説話は神話から神の名を取り除いたもの。
カミがなくなれば、残るは、ナリ。
カミが依りつく巫女はオナリと呼ばれ、
田植えの斎、昼のにぎり飯を握る存在だった。

相撲節会は、雨を呼ぶとともに、
やってきた雷神を送り返す(「ナリを制す」)儀式のはず。

七の鬼「小さき子」



小さい学生。何者か。

日本霊異記は、カミナリをつかまえる話から始まります。
雄略天皇の御世。
少子部(ちいさこべ)の栖軽(すがる)が、
カミナリをつかまえ、
帝のもとに連れてくる。
ピカリと光る雷に帝は恐怖なされ、
雷を元の場所に返し、まつる。

栖軽は死後、勅命により七日七夜安置され、
その忠を讃えて、
「雷をとらえた栖軽の墓」が建てられる。
栖軽を憎む雷は、墓に落雷し、
墓碑を蹴り飛ばす(「鳴り落ち、踊ゑ践みき」)。

ふたたび捕えられた雷は、
七日七夜、地上にとどまった。
もう一度、墓の碑文の柱を建て直し、
「生きても死にても雷を捕えし栖軽の墓」
と。


このあと、霊異記は、
第二話、キツネの妻が子を産む話、
第三話、雷の子、道場法師の話、
と続きます。

みっつの雷神ものがたり。
(狐の子と雷の子は、似たもの同士。)

第一話で、雷を捕えるスガルは、「少子部」。
第三話で、雷(イカヅチ)は、「小さ子」。

チイサコ。
怪力女の系譜を見たときも、光遠の娘は小さかった。
愛知の怪力女合戦でも、
盗賊女「美濃の狐」をぶっ飛ばすのは、
片輪に住む「小子」。

雷神の子は、小さい。
「小さい学生」も、雷の子の系譜にあるのです。
強いはずです。
いつも相撲取りは、雷の子に負ける役目。
そうやって、雷を天に返すんだと思います。

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八の鬼「ライジーン・キック!」



ナリムラが、気鋭の力士に仕込むワザは、「蹴倒し」。
スガルの墓に落ちるカミナリの様子は、「踊ゑ践み」(蹴り倒す)。

相撲の始まりは、日本書紀・垂仁天皇7年7月7日。
野見宿禰(のみのすくね) vs 当麻蹴速(たぎまのけはや)(當麻蹶速)。
名前からして、「蹴速」。ロナウジーニョみたいに速そうです。
各(おのおの)足を擧(あ)げて、相蹶(あいふ)む。
則(すなわ)ち、当麻蹴速が脇骨(かたはらほね)を蹶(ふ)み折(さ)く。
亦(ま)た、其(そ)の腰を蹈(ふ)み折(さ)きて殺(ころ)しつ。


野見宿禰に蹴り殺されてますが、蹴速( ;∀;)
それはともかく、相撲の必殺技は、蹴りだったわけです。
それは雷神に由来するワザのはず。
蹴鞠と同様、ケリは神のワザ。(あるいは球=タマ、カミを蹴るワザ)
今の大相撲では、「蹴り」は禁止されていますが、
「シコを踏む」という形で、大地をびしばし蹴っています。
修験から歌舞伎の六法、ライダーキックへと、つながっていく流れでしょうか。

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ナリ(=鳴り物)が「世界の終わり」を呼び寄せ、
天と地という反対物が一致してしまう。
シャリヴァリ(革命の鳴り物)で見た現象です。
日蝕の時に大騒ぎする(天の岩戸)など。
これを元に戻す作業が、ケリなのかもしれません。
ケリをつけるわけですね(;・∀・)v

ほんとは、そんな区別もなくて、
「鬼=鬼退治」と同じく、ウロボロスの原理が働く。
ナリもケリ(踏み鳴らし)も同じ意味でもあり、
反対の意味にも使われる。フリとシズメ。
霊異記でも、
雷を捕えるスガル=捕えられた雷
なことになっており、落ちるのと昇るのは、同じようなもの。
どっちにしても、雷は一時的な現象であり、
サカイの時はいずれは過ぎていく。
天と地が一致する永遠の一瞬、両義的時空のはず。

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※書き漏らしたこと。

なんで、大学寮の学生なのかといえば、
やっぱり菅原道真=文章博士=天神様つながり?
大学寮の学生も、相撲取りと同じで、
全国津々浦々から集まってきた若者であり、
力ではなく知恵自慢で、神の依りつく子たち。
似たもの同士だったのか。

アオイからカミナリにいたる信仰は、
もともとは京の北のあたりをテリトリーにしてた
先住者のものだったのでは、というのが私の憶測。
大内裏の西の通りを北上すれば、北野天満宮。
大内裏の東の通りを北上すれば、上賀茂神社。
上賀茂は別雷命、天満宮は菅公。
ともにカミナリさま。北には雷神。
地理的気象的にも、実際、
カミナリが落ちやすいサンダーボルトな土地。
紫野というのも、雷光にちなんだ名前かもしれません。
ここに大内裏を作ったのは、
まちがってたと思います。
今さらとっくの昔に手遅れだが。

京の天神は、わら天神があり、
あと五条天神と北白川天神。
五条と北白川は、スクナビコナを祭る。薬の神さま。
わら天神も私の理論上ではそうであるべきなのだがな(笑)
でも、コノハナサクヤヒメらしい。なぜだ。
北白川の天神さんでも、ワラがお守り。
チイサコと少彦名命と別雷命と。
小さな力持ちの雷神たち。
石器時代までさかのぼれば、
同じ神さまだったか。

ナリのつく人、在原業平。
女から女へ、影薄く、わたる。
この「巡幸」が、
姿なきカミ(丹塗矢)による撒種。
永遠の少年であり、いきなりの翁。
光源氏もこのタイプ。
女なら小野小町、和泉式部。



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コメント

おおっ!
そういえば、俵屋宗達「風神雷神図屏風」などでも、
風神はダスダス歩きをしているだけですが、
雷神は明らかにキッーーック!を繰り出していますね。
しかも雷神は手にダンベルを持っているあたり、
なかなかにキケンな匂いがします。

Posted by: Site icon 菊花 : June 9, 2007 10:41 PM

俵屋宗達、風神雷神図で、相撲を想定してたんでしょうか
…これはすごく気になってるところです。

カミナリと相撲の結びつきは、
この記事でおおむね明らかにできたと思うんですが、
近世の宗達がそれを知っていたら、興味深いです。

宗達は、出自がよくわかんない人。
田楽をやるような連中とつながってたら、
田植えの儀礼を知ってたはず。

相撲は、早乙女=田植えの処女とまぐわう権利をめぐって、
争うものだったんじゃないかと思うんです。
どちらが神の子かを競った。
勝ったほうは雷神。
早苗(稲)=早乙女に、種付け(雨を降らす)して、
これが秋に収穫される。
女の子に、サナエという名をつけるのは、
この風習の名残りだと思います。

風神雷神図のポーズは、研究してる人たちがいるはずなので、
また何かわかったら、記事に書いてみたいと思います。
相撲との関連に気づいてる人がいたら、すごいです☆

Posted by: Site icon overQ : June 10, 2007 10:07 PM
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