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夜歩く14 「必殺!隠の剣、背中斬」

written by overQ
July 24, 2007

雷は、鉄の剣に弱い…昔からそう言われるらしい。
その由来をたどって、今回の「夜歩く14」。

五十の鬼「鬼の斬り方」

higekiri.jpg

この絵は、渡辺綱が一条戻り橋で羅生門の鬼の腕を切り落とした場面を、
歌川国芳が浮世絵に描いたもの。
この斬り方のポーズが、すごくヘンだと思うんです。

後ろから来た鬼を肩越しに、当てずっぽうに構えた剣で、背中で切っている。

じつは大江山絵詞という絵巻物でも、酒呑童子と戦う時、
頼光や保昌、綱ら四天王たちも、太刀を抜いて、肩に担ぐように構えます。
背後から迫る何者かを斬るように。

鬼を切るときの、伝統的なポーズらしい。

よく知らないですが、能や歌舞伎でも、鬼を切るとき、この構えがきっと踏襲されてるんじゃないでしょうか。
(千本えんま堂狂言でも、この構えを見ました。…ところが、それは逆に、鬼が切られる前に抵抗するポーズだった!)

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これは「後ろから来る敵=見えない敵=隠=鬼」に対処する際、
必然的な構えで、後ろ髪つかまれたもんなら、当然そうなる姿勢。
剣法なんかでも謂れがありそうに思いますが、ほんとのところは、
実践的というより、マジカルなものにちがいない。

元ネタはわかります。

五十一の鬼「後ろ手の構え」

古事記、日本書紀。
黄泉に逝った妹神イザナミを訪ね、逃げ帰る兄神イザナキノミコトの姿。

(イザナミは)八柱の雷神に、千五百の黄泉軍を副へて追はしめき。
ここに御佩みはかせる十拳剣とつかのつるぎを抜きて、後手しりへでに振きつつ逃げ来るを、なほ追ひて、…
―「古事記」(岩波文庫版)

妹神イザナミは、自身の腐乱した体から生じた、八柱の雷神(8は無数を意味します)を、兄神イザナキへの追っ手とする。
逃げるイザナキは、背後から迫る雷神どもを、後手にした剣で撃とうとするのです。 *1

この十拳剣(トツカノツルギ)は、由来がある。
十束剣 - Wikipedia


五十二の鬼「十拳の剣」

そもそもイザナミは、火の神カグツチを生んで、オマンコが焼けて死に、黄泉に逝った。
嘆き悲しんだイザナキは、わが子カグツチを斬る。(まるで、イサクをささげるアブラハム。)
その剣が十拳の剣。
そして、斬られたカグツチの体から流れた血で、八柱の神が生まれる。

ここに伊邪那岐命、御佩せる十拳剣を抜きて、その子迦具土かぐつち神のくびを斬りたまひき。
ここにその御刀の前にける血、湯津石村ゆついはむらに走り就きて、成れる神の名は、石拆いはさく神。次に根拆ねさく神。次に石筒之男いはつつのを神。
次に御刀の本に著ける血も亦、湯津石村に走り就きて、成れる神の名は、甕速日みかはやひ神。次に樋速日ひはやひ神。次に建御雷之男たけみかづち神。亦の名は建布都たけふつ神。亦の名は豐布都とよふつ神。
次に御刀の手上に集まれる血、手俣てまたよりき出でて、成れる神の名は、闇淤加美くらおかみ神。闇御津羽くらみつは神。

それが、建御雷を含む、雷・石・鉄・水の神々。
刀剣を作成する鍛治(=火事)の作業
…鉄を掘り出し、溶かし流し、火花を散らして打ち、
ふつふつと輝かせ、清水に浸して黒々とした刀にする。
その過程が神格化されたもの、といわれます。

剣、英雄、母、水。
前回、英雄の神話のことを書いたとき、出てきた要素が、ここでも見られます。
誰が誰を何で斬るのか、
…主語・述語・目的語、
あるいは善玉悪玉が入れ替わっているけれど、
同じ神話群の中にあるようです。

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五十三の鬼「シコ」

もうちょっとていねいに見ておくと。
カグツチと十拳剣のエピソードの後に、イザナキの黄泉訪問が続きます。

腐乱した姿を見られたイザナミは、
「私に恥をかかせたねヽ(`Д´)ノ」
と怒り、黄泉醜女よもつしこめに、イザナキを追わせる。
イザナキは、頭に冠ってた黒蔓を投げ、それがブドウに変化して、醜女がそれを食べてる間に逃げる。
イザナキは、髪に挿していた湯津津間櫛(ゆつつまくし)を投げ、それがタケノコに変化して、醜女がそれを食べてる間に逃げる。

→「醜女」のシコの字が、「酒に鬼」という、酒呑童子を髣髴させる漢字であること。

→また、相撲(何度も書いたように、相撲取り=雷神)では、「シコを踏む(蹴る)」「シコ名」ということ。相撲=雷神の必殺技「蹴り」は、鍛治のタタラ踏みと関わるか。なぜなら、「蹴り上げる」のではなく、「蹴りおろす(蹴り裂く、蹴倒す)」から。

→大国主神の別名は、葦原醜男(あしはらしこを)。大国主は、スサノオの娘を嫁取りする時、黄泉へ向かう。スサノオは母イザナキを慕って、妣が国・黄泉に逝った。つまり、黄泉を訪問する理由はいつも、水の女に逢うこと。(応用は、竜宮と乙姫)

→黄泉での大国主の嫁取りの様子は、全国に分布する民話「鬼の子小綱」にそっくり。小、役小、渡辺、横。鬼の

→万葉集では、「鬼」をシコとかモノと読ませる。たとえば、二巻117。

大夫哉 片戀将為跡 嘆友 乃益卜雄 尚戀二家里
ますらをや片恋せむと嘆けどもシコのますらをなほ恋ひにけり

・鬼=シコ…117、727、3062、3270
・鬼=モノ…547、664、1350、1407、2578、2694、2717、2765、2780、2947、2989、3250 (全例、「〜しものを」の、悔やみのモノ。とりわけ、「恋しきものを」。すでに六条御息所、そして御霊(モノノケ)につながっている。。)
・餓鬼…608、3840


五十四の鬼「雷神の百鬼夜行」

次に、イザナミは、自分の腐乱体から生まれた八柱の雷神と、千五百の黄泉軍に追わせる。
イザナキは、十拳剣を後ろ手にかまえて、逃げる。

追いかけてくる八雷神と、千五百の黄泉の軍勢。
百鬼夜行のはじまり、といえそう。

雷神=鬼は、高木ブーのカミナリさまや、風神雷神図によって、すっかり刷り込まれていますが、
すでに記紀の時点で、このありさま。
「オニ」という音がないのが、興味深いところ。 *2

Raizin1.jpg

そして、黄泉比良坂で、桃を三個投げると、追っ手は逃げ帰っていく。
イザナキは桃を讃え、私を助けたように、この世のすべての人を助けてあげて下さい、と言います。

なれ、吾を助けしが如く、葦原中国あしはらのなかつくににあらゆるうつしき青人草あをひとくさの、苦しき瀬に落ちてうれなやむ時、助くべし。


【閑話休題】
太子の感動的なミコト。なんかキリストっぽい。
聖徳太子の後ろ盾だった秦氏は、山城国、つまりのちの京都の大豪族。
百済からの渡来人で、ネストリウス派キリスト教と関わりがあるんじゃないかと、昔からささやかれてる、トンデモ。
太秦が秦氏だけど、唐のネストリウス派寺院は、大秦寺という。ローマ=大秦なんだが、なんか怪しげ。
以下を参照のこと。
『角川学芸WEBマガジン・うつほ舟―能芸と世阿弥』梅原猛「第一回 大荒大明神になった秦河勝」
古事記の中でも、とりわけ感動的なカタリ。
聖徳太子の御言葉(ミコト)、口調(カタリ)が残響してるんじゃないだろうか?

かくして、子宝に恵まれずにいた芝刈りのじいさん、洗濯のばあさんのもとへ、桃太郎はどんぶらこと流れ着くのです。
ルーク・スカイウォーカーが辺境の星タトゥーインに生れ落ちるように。

剣、英雄、母、水という、鍛治師がワールドワイドに伝えるカタリ。
神話はすこしずつ変換され、さまざまなバリエーションを生み、
それらはウロボロス竜(メビウス環、タケイカヅチ冠)のような形をしたガロアの群を形成しています。
鬼や雷も、ここに出没するアイテムのようです。
(もうひとつの要となるアイテムは、竜。これは、いずれまた。)

それにしても、何かとてつもないことを明らかにしつつある気がしないでもない、今日この頃。
…いいのかブログで、こんな文体で、高木ブーで(;・∀・)

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*1 : 後ろ手というと、腰から回す姿勢もありえますが、たぶんそれでは剣が振れんw
股の間から、というのも不可能ではないですが、「尻屁出」って感じで( ;´Д`)
しかし、昔話「鬼の子小綱」では、追ってくる鬼に対して、お尻を杓子で叩くシーンがクライマックスなのだが…。
*2 : つまり、自己の神話のカタリでは、オニとは呼ばないで、オニとは、他者が名づけたアダ名?


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