雷は、鉄の剣に弱い…昔からそう言われるらしい。
その由来をたどって、今回の「夜歩く14」。

この絵は、渡辺綱が一条戻り橋で羅生門の鬼の腕を切り落とした場面を、
歌川国芳が浮世絵に描いたもの。
この斬り方のポーズが、すごくヘンだと思うんです。
後ろから来た鬼を肩越しに、当てずっぽうに構えた剣で、背中で切っている。
じつは大江山絵詞という絵巻物でも、酒呑童子と戦う時、
頼光や保昌、綱ら四天王たちも、太刀を抜いて、肩に担ぐように構えます。
背後から迫る何者かを斬るように。
鬼を切るときの、伝統的なポーズらしい。
よく知らないですが、能や歌舞伎でも、鬼を切るとき、この構えがきっと踏襲されてるんじゃないでしょうか。
(千本えんま堂狂言でも、この構えを見ました。…ところが、それは逆に、鬼が切られる前に抵抗するポーズだった!)
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これは「後ろから来る敵=見えない敵=隠=鬼」に対処する際、
必然的な構えで、後ろ髪つかまれたもんなら、当然そうなる姿勢。
剣法なんかでも謂れがありそうに思いますが、ほんとのところは、
実践的というより、マジカルなものにちがいない。
元ネタはわかります。
古事記、日本書紀。
黄泉に逝った妹神イザナミを訪ね、逃げ帰る兄神イザナキノミコトの姿。
(イザナミは)八柱の雷神に、千五百の黄泉軍を副へて追はしめき。
ここに御佩 かせる十拳剣 を抜きて、後手 に振きつつ逃げ来るを、なほ追ひて、…―「古事記」(岩波文庫版)
妹神イザナミは、自身の腐乱した体から生じた、八柱の雷神(8は無数を意味します)を、兄神イザナキへの追っ手とする。
逃げるイザナキは、背後から迫る雷神どもを、後手にした剣で撃とうとするのです。
*1
この十拳剣(トツカノツルギ)は、由来がある。
◆十束剣 - Wikipedia
そもそもイザナミは、火の神カグツチを生んで、オマンコが焼けて死に、黄泉に逝った。
嘆き悲しんだイザナキは、わが子カグツチを斬る。(まるで、イサクをささげるアブラハム。)
その剣が十拳の剣。
そして、斬られたカグツチの体から流れた血で、八柱の神が生まれる。
ここに伊邪那岐命、御佩せる十拳剣を抜きて、その子迦具土 神の頸 を斬りたまひき。
ここにその御刀の前に著 ける血、湯津石村 に走り就きて、成れる神の名は、石拆 神。次に根拆 神。次に石筒之男 神。
次に御刀の本に著ける血も亦、湯津石村に走り就きて、成れる神の名は、甕速日 神。次に樋速日 神。次に建御雷之男 神。亦の名は建布都 神。亦の名は豐布都 神。
次に御刀の手上に集まれる血、手俣 より漏 き出でて、成れる神の名は、闇淤加美 神。闇御津羽 神。
それが、建御雷を含む、雷・石・鉄・水の神々。
刀剣を作成する鍛治(=火事)の作業
…鉄を掘り出し、溶かし流し、火花を散らして打ち、
ふつふつと輝かせ、清水に浸して黒々とした刀にする。
その過程が神格化されたもの、といわれます。
剣、英雄、母、水。
前回、英雄の神話のことを書いたとき、出てきた要素が、ここでも見られます。
誰が誰を何で斬るのか、
…主語・述語・目的語、
あるいは善玉悪玉が入れ替わっているけれど、
同じ神話群の中にあるようです。
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もうちょっとていねいに見ておくと。
カグツチと十拳剣のエピソードの後に、イザナキの黄泉訪問が続きます。
腐乱した姿を見られたイザナミは、
「私に恥をかかせたねヽ(`Д´)ノ」
と怒り、黄泉醜女 に、イザナキを追わせる。
イザナキは、頭に冠ってた黒蔓を投げ、それがブドウに変化して、醜女がそれを食べてる間に逃げる。
イザナキは、髪に挿していた湯津津間櫛(ゆつつまくし)を投げ、それがタケノコに変化して、醜女がそれを食べてる間に逃げる。
→「醜女」のシコの字が、「酒に鬼」という、酒呑童子を髣髴させる漢字であること。
→また、相撲(何度も書いたように、相撲取り=雷神)では、「シコを踏む(蹴る)」「シコ名」ということ。相撲=雷神の必殺技「蹴り」は、鍛治のタタラ踏みと関わるか。なぜなら、「蹴り上げる」のではなく、「蹴りおろす(蹴り裂く、蹴倒す)」から。
→大国主神の別名は、葦原醜男(あしはらしこを)。大国主は、スサノオの娘を嫁取りする時、黄泉へ向かう。スサノオは母イザナキを慕って、妣が国・黄泉に逝った。つまり、黄泉を訪問する理由はいつも、水の女に逢うこと。(応用は、竜宮と乙姫)
→黄泉での大国主の嫁取りの様子は、全国に分布する民話「鬼の子小綱」にそっくり。小綱、役小角、渡辺綱、横綱。鬼の角。
→万葉集では、「鬼」をシコとかモノと読ませる。たとえば、二巻117。
大夫哉 片戀将為跡 嘆友 鬼乃益卜雄 尚戀二家里
ますらをや片恋せむと嘆けどもシコのますらをなほ恋ひにけり
次に、イザナミは、自分の腐乱体から生まれた八柱の雷神と、千五百の黄泉軍に追わせる。
イザナキは、十拳剣を後ろ手にかまえて、逃げる。
追いかけてくる八雷神と、千五百の黄泉の軍勢。
…百鬼夜行のはじまり、といえそう。
雷神=鬼は、高木ブーのカミナリさまや、風神雷神図によって、すっかり刷り込まれていますが、
すでに記紀の時点で、このありさま。
「オニ」という音がないのが、興味深いところ。
*2

そして、黄泉比良坂で、桃を三個投げると、追っ手は逃げ帰っていく。
イザナキは桃を讃え、私を助けたように、この世のすべての人を助けてあげて下さい、と言います。「
汝 、吾を助けしが如く、葦原中国 にあらゆる現 しき青人草 の、苦しき瀬に落ちて患 ひ惚 む時、助くべし。」
かくして、子宝に恵まれずにいた芝刈りのじいさん、洗濯のばあさんのもとへ、桃太郎はどんぶらこと流れ着くのです。
ルーク・スカイウォーカーが辺境の星タトゥーインに生れ落ちるように。
剣、英雄、母、水という、鍛治師がワールドワイドに伝えるカタリ。
神話はすこしずつ変換され、さまざまなバリエーションを生み、
それらはウロボロス竜(メビウス環、タケイカヅチ冠)のような形をしたガロアの群を形成しています。
鬼や雷も、ここに出没するアイテムのようです。
(もうひとつの要となるアイテムは、竜。これは、いずれまた。)
それにしても、何かとてつもないことを明らかにしつつある気がしないでもない、今日この頃。
…いいのかブログで、こんな文体で、高木ブーで(;・∀・)
LET IT BOO
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( 2000-01-21 )
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