私は、汎京都主義者。
世界はすべて京都だと信じています。
京都から向こうは断崖絶壁となっており、
桂川が奈落へと落ちているのです(;・∀・)
東京もロンドンもニューデリーもシドニーも、
世界はすべて、じつは京都にあって、
ただ人々はそこが京都でないと錯覚しているだけなのです。
イスタンブールのカフェでシナモンの香りをかいだら、
それは裏で八ツ橋を作っているから。
ブロンクスの路地裏で石畳をみつけたら、
きっと清水坂に通じていることでしょう。
そんな汎京都主義の立場から、
今回はケルトが京都であることを証明してみましょう。

以前、四季さんが、「ケルト神話と中世騎士物語」(田中仁彦・中公新書)という本を紹介しておられました。
◆Ciel Bleu : 「ケルト神話と中世騎士物語」田中仁彦
文字を持たなかったケルト。
その神話・伝承は、キリスト教の僧たちの手で書きとめられています。
キリスト教とケルトの古い神話的思考にはある親和性があって、迫害されるよりむしろ、かなり積極的に書き残されていったらしい。
ケルトは大昔は、インドの西からヨーロッパまで広く住んでたんだとか。
ゲルマンに押され、だんだん西へ西へ。
やがて大陸のケルトは、ローマに征服されます。
カエサルのガリア戦記の世界。
ブリテン島のケルトは、アングロ・サクソンの侵入を受け、
その長い長い戦いの過程で、アーサー王伝説が生まれる。
ケルトは、ウェールズやコーンウォール、アイルランド、また海を渡ってブルターニュに。
ややこしいケルトの歴史ですが、ごく大雑把にたどると、そんな感じでしょうか。
面白いのは、ストーン・ヘンジなどの巨石文化は、ケルトとは関係ないこと。
ケルト以前の先住者の残したものなのです。
19世紀くらいまではケルトが作ったと思われることが多かったらしいけど、じつはそうじゃなかった。
(写真は、Poulnabrone dolmen in County Clare, Ireland)
巨石を運び、立てることのできる、謎の先住民がいた。
(野見宿禰や道場法師のご先祖でしょうか。)
ケルトの神話では、「トゥアッハ・デ・ダナ Tuatha D醇P Danann (=母神ダナの息子)」として出てきます。
先々住民を滅ぼした先住民で、次に島にやって来た「ミレシアの息子たち(=ケルト)」に負けて、地下世界へ…と読めるらしい。
スサノオノミコトが、根の国へ逝くように。
先住者は目に見えない存在となって、地下や海の向こうに「他界」を形成するようになる。
このケルトの他界観念を追ったのが、上の新書です。
折口信夫「妣が国へ・常世へ」にそっくりのテーマ。
ケルトの他界もまた「妣(はは)が国」。つまり女人国です。
古い大地母神の信仰が息づいており、マリア信仰なんかとも根っこでつながる、というわけです。
*1
◆青空文庫・図書カード:妣が国へ・常世へ
十年前、熊野に旅して、光り充つ真昼の海に突き出た大王个崎の尽端に立つた時、遥かな波路の果に、わが魂のふるさとのある様な気がしてならなかつた。此をはかない詩人気どりの感傷と卑下する気には、今以てなれない。此は是、曾(かつ)ては祖々の胸を煽り立てた懐郷心(のすたるぢい)の、間歇遺伝(あたゐずむ)として、現れたものではなからうか。
すさのをのみことが、青山を枯山(カラヤマ)なす迄慕ひ歎き、いなひのみことが、波の穂を踏んで渡られた「妣(ハヽ)が国」は、われ/\の祖たちの恋慕した魂のふる郷であつたのであらう。いざなみのみこと・たまよりひめの還りいます国なるからの名と言ふのは、世々の語部の解釈で、誠は、かの本つ国に関する万人共通の憧れ心をこめた語なのであつた。

(この絵は、テニスンの詩「Idylls of the King」に、George Wooliscroft Rhead, & Louis Rheadがつけたイラストの一枚。
「湖中の淑女が、実母の腕よりうばいし子、ランスロット」
◆Illustrations by George Wooliscroft Rhead, & Louis Rhead, from Tennyson, Alfred. Idylls of the King: Vivien, Elaine, Enid, Guinevere. New York: R. H. Russell, 1898.)
スサノオやヤマトタケルなど、記紀の英雄の物語は、ケルトの英雄たちと似ています。
物語の構造が同じなのですが、何より、ヒーローのどこかさみしげな横顔がよく似てると思う。
おおむね、こんなストーリーを持つ。
少年は母から生まれた。父は知らない。
生まれたとき、特別なしるしがあった。
子ども時代は不遇で、その「力」はなかなか目覚めない。
剣にまつわる事件をきっかけに、覚醒する。
あまりに強すぎるがゆえに、
敵に対しては武勲を立てるが、
仲間に対しては恐怖をもたらす存在。
彼を守護する母性的な水の神の存在があり、
ために英雄は少年の於母影を払拭し得ない。
諸権力に利用され、安住の地を持たず、
旅を棲みかとして、荒れ狂う力の果て、
やがて世界のすべてが彼に敵対する。
「妣が国」だけが彼に残される。
死には、水と火の結婚のイメージがともなう。
すなわち、母が剣をいだく。。
今も少年マンガなどで繰り返されるモチーフ。最近だと、アニメ化された「精霊の守り人」が、この素晴らしいヴァリエーション。
義経=牛若丸(御曹子、と昔の人は呼んだ)の物語は、京で始まるアーサー王伝説といえるかしれない。
東の端と西の端の、奇妙な一致。
精霊の守り人 (新潮文庫)
上橋 菜穂子
¥ 580 / 新潮社
( 2007-03 )
通常24時間以内に発送
by AMAZ君(改)

ところで、謎の先住民が残した巨石の遺物ドルメンを、ケルトは「他界」への入口と考えた。
シイ(Sidhe)と呼ばれます。
「彼女 she」と同じ発音だけど、つづりを見ると、海(sea)とも近いのかもしれません。
もとはアルファベットで表記できない音のはず。
sidhe-she-sea と無意識三段活用します。
◆S醇^dhe - Wikipedia, the free encyclopedia
石神(メンヒル・ドルメン)や塚(妖精の丘)であり、それを守る精霊とも魔女とも。
現世と他界のサカイで、墓所で、再生の入口(ダンテ「神曲」の煉獄のモデル)。
近寄ると死を招くとも言われる一方で、石に触れると子を授かるともいわれる、生と死のサカイ。
先住者の魔法とケルトの現実のサカイ。
アーサー王伝説の中で、大切な出会いと別れのサカイでもある。
つまり、シイはケルトのサイの神。
日本のサイの神やお地蔵さんの伝承と、まったく同じもの。
音までもが、いつものS+K(Y)パターンに、ばっちり当てはまります。
◆Statue menhir - Wikipedia, the free encyclopedia

鬼を追うシリーズなんで、鬼の話を書かねば。
頼光ひきいる四天王の匹頭、渡辺綱。
綱は一条戻橋で鬼と遭遇、名刀「髭切丸」にて鬼の片腕を切り落とす。
「平家物語」(剣の巻)や謡曲「羅生門」などで、つとに有名な戻橋のエピソード。
このあと、綱が、安倍晴明の判じるところにしたがって、忌みこもっていると、
伯母に化けた鬼が腕を取り返しに来る。
切り取った腕を、伯母さんが取り返しに来る話。
これはまるで、京のベオウルフではないか。
*2
◆Beowulf - Wikipedia, the free encyclopedia
ベオウルフは、ケルトじゃなくて、ゲルマンの最古の叙事詩。
豪傑その名も「狼の兵衛」(ベオウルフ)は、電幕王(デンマーク王)が屋敷に、鬼出没の噂を聞きつけ、さっそく馳せ参じ候。…というお話。
件の鬼館で一夜を過し、怪物「紅蓮殿下」(グランデル)の腕をもぎ取る。
翌晩、紅蓮殿下の母堂、我が子の片腕を取り戻さんと、出来。電幕王の寵臣を連れ去る。
狼の兵衛、鬼母を追て、山中の沼へ。
かくして、水底の妣が国にて、みごと紅蓮母子を退治す。

名刀フルンチング(Hrunting、「振珍丸」と訳しておく)も登場します。
妣が国では役に勃たず、べつな剣が現われますが。
剣は水と関わるシロモノ。
ヤマタノオロチの尾から草薙の剣が出るのも。
*3
(絵は、振珍丸じゃなくて、エクスカリバー。手を上げてるのはタクシーをとめてるんじゃなく、円卓の騎士ベディヴィエール卿(Bedivere、四天王でいえば綱の存在)が剣を投げ込んでる。)
◆Lady of the Lake - Wikipedia, the free encyclopedia
さらに今昔物語集にも似た話が。
巻27の21話「猟師の母鬼となりて子を食はんと擬する語」
今は昔。片腕、妣、鬼。
猟師の兄弟が山で「待」という猟をしていた。
木の上に隠れ登って、下を通る鹿を射るというもの。
鹿はなかなか来ず、夜がふけてくる。
と、兄の髷を背後からつかむ手がある。
「これは鬼が俺を喰おうと引っ張るのだ」と気づき、
弟を呼んで、背後の闇を、
「雁胯」なる二股の矢で射抜いてもらう。
手ごたえがあり、髷をつかんだ腕だけを残して、
鬼らしきものは去っていた。
家に戻ると、年老いた母が苦しんでいる。
思えば、切り取った腕は母の腕のようだ。
あやしく思って、戸を引き開けると、母はガバと起き上がり、
「お前らじゃったかッ!」
兄弟は片腕を投げ入れ、戸を閉めて逃げた、と。
さらにもう一発。民話「犬はしご」(柳田国男「狼と鍛冶屋の姥」『桃太郎の誕生』所収)
男が狼の群れに襲われ、木によじ登る。
すると、狼たちは次々とたがいの上に乗っかって、犬はしごを作り、木の上の男に迫ってきます。
しかし、もう一息で届くというところで、一匹分足りない。
そこで、狼は鍛冶屋の婆さんを呼びにやる。
すると釜をかぶった猫がやって来て、犬はしごの上に飛び乗る。
こやつが首領かと男が切りつけると、狼たちは退散します。
そして近村の鍛冶屋を訪ねてみると、
老婆が片腕を切られ、死んでいた、と。
柳田国男全集〈6〉秋風帖・女性と民間伝承・桃太郎の誕生
柳田 国男
¥ 7,560 / 筑摩書房
( 1998-10 )
通常24時間以内に発送
by AMAZ君(改)
母のキャラがだんだん邪悪になって、伯母さんとか山姥や老婆に変えられつつも、
「英雄と剣」「片腕と母」の形式は踏襲されています。
さらにいえば、坂田金時(金太郎)は山姥に育てられる鬼退治の英雄(鬼)であり、
鬼の総本山、酒呑童子の大江山には、鬼の虎じまパンツを洗濯する老婆が住んでいます。
頼光、および綱や金時ら四天王は、京のベオウルフだったようです。
ヤマトタケルと草薙の剣。
ベオウルフとフルンチング。
渡辺綱と髭切丸。
アーサー王とエクスカリバー。
英雄と剣の組み合わせには、妣が国、水の女の影がつねに寄り添うようです。
少年の於母影をのこし、現世の存在にはなりきれないヒーローたちは、この世界と根の国のあわいにある、いわば生きたサイの神、荒ぶるシイの神なのかもしれません。
民話「こぶとり爺さん」のもとになるお話は、宇治拾遺物語の三話目にあります。
ところが、これとそっくり同じなのが、ブルターニュのケルトに伝わる、妖精コレドの話。
コレド(Korred)は、メンヒル・ドルメンといった巨石遺跡の地下世界に住む、小金持ちの小人たち。
夜、輪になって、踊る。
でも、人間がこの「森の木陰でどんじゃらほい」に出会うと、
輪に引き込まれて、死ぬまで踊り続けねばならない。
ただ、コレドたちが感心するくらいダンスが上手いと、あるいは願いを叶えてくれるかもしれません。
ケルト妖精物語〈2〉
ジョーゼフ ジェイコブズ
¥ 1,890 / 原書房
( 1999-10 )
通常24時間以内に発送
by AMAZ君(改)
このコレドたちのダンスにまつわる民話があって、それが「こぶとり爺さん」とほぼまったく同じです。
長くなるので詳細は省きますが、興味ある方は、宇治拾遺と「ケルト妖精物語2」の「ノックグラフトンの伝説」を読み比べてみて下さい。
めちゃめちゃ似てます。
あまりに似すぎてて、もっと後の時代、大航海時代以降に伝播した可能性も思わせるほど。

ブリテン島と日本列島。
大陸と海で隔てられた、東西の両端。
(上の写真は、Tomb 7 at Carrowmore。Photographer: Jon Sullivan)
ストーンヘンジなどを造った謎の先住民は、ちょうど日本では縄文に当たるでしょうか。
また、鉄と農耕をもたらしたケルトは、弥生人。
大陸を支配する帝国ローマは、中国文明。
ケルト諸部族を支配していくアングロ・サクソンは、大和朝廷。
キリスト教は、ケルトやゲルマンの民間信仰と習合しつつ根付いていきますが、
仏教が日本で、古代からの信仰と習合し、聖や修験、浄土教をはぐくむのと、とてもよく似ています。
なぜか妙に似てる東と西。
神話伝承の類似は、どうやら金属の民が伝承していたもののようです。
剣にまつわる形で残されるのはそのせいらしい。
金属を生み出す技術は、独占のため秘密裏に伝承される。
その際、いっしょに神話や習俗が、技術・婚姻・衣食住などとともども伝わったと。
秘密伝承なので、保存状態が良いってことらしい。
性格的に、端っこに追いやられるタイプなんでしょうか。
メンヒルやドルメンなど巨石の下に、シイの神の根の国が広がっており、
それは京都のそここにあるお地蔵さんの、足下に広がるサイの神の妣が国と直結しているようです。
overQさん、こんにちは!
記事内で紹介して下さってありがとうございます。
いつもながら見事な展開…
同じ本を読んでも、気づくことはこれほどまでに違うのかと
いまさらながらに思い知らされてしまって
私の方は相当情けない感じなんですが…(汗)
でも色んなことがどんどん繋がっていくのは楽しいですね!
今回驚いたのはベオウルフ… そうだったんですか!
いや、確かにそう言われてみればそうなんですけど
言われるまで全然気づかないのが私という人間らしく。(おぃ)
そして一番興味を引かれたのは、剣と水のお話でした。
これはまだまだ他にもありそうですね。
水が異界に通じるだけに、興味津々です。
(神話好きというより、実態は異界好きだったのかも)
今後はその辺りにもっと注意して読もうと思います♪
ベオウルフ型の神話というのが、たぶんあるんだと思います。
剣の出生にまつわる神話で、水の女神と、童子の英雄の秘められた近親婚の物語。
剣とか、金属加工をしてた人々の伝承なんでしょうね。
ケルトもゲルマンも、ローマに金属製品(とゴージャス聖書)を売りつけて、潤ってたみたいですから。
実際の金属を加工する工程とも、象徴的にシンクロする部分があって、
それで、「母―片腕―剣―英雄」という一連の組み合わせが、
損なわれることなく保存され伝承したのでは、と思っています。
中国やインド、中東なんかでも、同じ説話があるにちがいないと予想。
マヤとかインカとか南米にあると、でも、話はややこしくなります。
あの人たちは、金属を知らないですから。
でも、ケツアルコアトルは蛇で水神雷神なんで、かなりやばい感じです(笑)
私は、神話の底に、婚姻制度を見出そうという立場に、いつの間にか立っています。
自分でも気づかなかったのですが、これはありそうでなかったもの。
婚姻制度というと、ふつうは嫁入り婿入りで、外からメンバを導入しつつ、
内部としてのイエを維持するものなんですが、
私はもっと素朴に、「精子だけ交換」する瞬間的乱婚制(歌垣)を、プロトタイプとして想定。
これは、かなりヘンな見方です(;・∀・)
剣をめぐる「英雄と水の女」の神話祖形も、大元は、婚姻制度をめぐる現実と幻のあわいを感じています☆
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