折口信夫に「ごろつきの話」という文章があります。
(→青空文庫・図書カード:ごろつきの話)
ゴロツキ=無頼漢の、転がる石のようなロードの生活が、じつは文学芸能の発生に深く関わっている、というお話。
無頼漢 などゝいへば、社会の瘤のやうなものとしか考へて居られぬ。だが、嘗て、日本では此無頼漢が、社会の大なる要素をなした時代がある。のみならず、芸術の上の運動には、殊に大きな力を致したと見られるのである。ごろつきの意味に就ては、二様に考へられてゐる。雷がごろ/\鳴るやうに威嚇して歩くからだともいふが、事実はさうでなく、石塊がごろ/\してゐるやうな生活をしてゐる者、といふ意味だと思ふ。徳川時代には、無宿者・無職者・無職渡世などいふ言葉で表されてゐるが、最早其頃になつては、大体表面から消えてしまうたと言へるのである。折口信夫「ごろつきの話」
古代研究〈2〉祝詞の発生 (中公クラシックス)
折口 信夫
¥ 1,680 / 中央公論新社
( 2003-01 )
通常2~5週間以内に発送
by AMAZ君(改)
宿無し、職無し、未来無し。
石塊がごろごろしてゐるような生活。
彼ら彼女らのあてどない身上・心情が、情熱と涙のよりどころ。
歌となり踊りとなる、神のヨリシロ。
ふと、ディランのライク・ア・ローリング・ストーンを思う。
How does it feel
How does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?どう感じる?
わが身ひとつであるということを。
故郷の方角は見失われ、
見渡す限りの見知らぬ異郷。
まるで転がる石のよう。Bob Dylan "Like A Rolling Stone"
「猿田彦幻視行」「賊猿幻行」「夜歩く」とつづいてきたこの旅。
寅さんの後ろ姿を追う旅であり、十字路にさまよう歌舞音曲の霊にめぐりあう旅。
不思議にもまた、元の場所に帰ってきたらしい。
ハイウェイ61、再訪。
Highway 61 Revisited
Bob Dylan
¥ 1,126 / Columbia
( 2004-06-01 )
通常24時間以内に発送
by AMAZ君(改)
ハイウェイ61は、別名ブルース・ロード。
ロバート・ジョンソンが悪魔に魂を売り、
ベッシー・スミスが恋人と乗った車で事故死し、
プレスリーがトラックを転がし、
また、マーチン・ルーサー・キングが暗殺されたモーテルも、この道にある。
ミシシッピ・デルタから北上して、シカゴやデトロイトなど都市へつながる道。
デルタの綿花畑で働いていた黒人が、鉄鋼や自動車産業の労働力として、北へと流れた道。
不況時には、綿花畑を追われ、何百人もが列をなして野宿したこともある。
伝説のブルース・ギタリスト、ロバート・ジョンソン。
ハイウェイ61の十字路で悪魔に魂を売り、ギターのテクニックを手に入れた、という伝説。
I went down to the crossroads,
fell down on my knee.
Down to the crossroads,
fell down on my knee.
Ask the Lord up above for mercy,
take me if you please.辻へと赴き、ひざまずく。
はるけき神に慈悲を乞う。
インシャラー。すべては思し召しのまま。
The Complete Recordings
Artist:Robert Johnson
Label:Columbia
ReleaseDate:1999/02/05
Price:¥ 1,344
十字路に出現するという、神とも悪魔ともつかぬ存在。
これはブードゥーの神、ロアのこと。
デルタには陰日向、いつもブードゥーがあった。
マディ・ウォーターズはフーチークーチーマンというブードゥー由来の歌をうたい、ジミ・ヘンドリクスはブードゥー・チャイルド。
ジョンソンが路傍で小耳にはさんだ、この小さな神の噂が、彼の運命をみちびいていく。
ロアは、歌舞音曲の神。ブードゥーの後ろ戸(Backdoor)の神。
儀式の最初に出現し、他のもろもろの神々をパイロットするミサキ神(サルタヒコやヤタガラス、ワケイカヅチ神のように)。
十字路の「あはひ」に出現すると言われる。
ロバート・ジョンソンは、レコードの黎明期に現われ、かろうじて録音を残した。
それはやがて、ディラン、クラプトン、ストーンズら、ロックの神々を先導(煽動)することになる、ミサキ神。
ロック…転がる岩の音楽。
ジョンソンは、ロックという巨大な祭の先駆けをするロア神。
録音という音楽最大の技術革新の「あはひ」にあらわれ、消えゆく音と永遠に繰り返す音の仲立ちをする。
ロアは、日本の道祖神、サイの神ととてもよく似た神さま。
サイの神もまた、遊行する歌舞音曲の民「ほかひゞと」「うかれ人」によって信仰された。
のちには、仏教と習合して、お地蔵さんとなる、路傍の神。
山伏はそれに役の行者を仮託した金剛明王を見る。役の行者は、この世とあの世のあらゆる道を、インターネットのように自在につなぐ通力の仙。
道のチマタ、サカイに、石の姿で立てられる、サイの神。
道祖祭、左義長、とんど…ワラ人形の姿で焼かれ、燃え上がるあの神もまた、サイの神。
ロア神降り立つジミヘンのように、やがて祭の終わりには焼かれ、天に帰される。
(サイの神に憑かれたジミヘン。アメリカ国歌に、ベトナムでのナパーム爆撃音を重ねるように、エレキを演奏したもの、とも言われます。左利きの神さまの、その静謐な横顔。)
さらにもうひとつ、怪しい事柄を付け加えておくと。
前回の記事で書いた、柳田国男の生まれた家。兵庫県の「辻川」という場所にあった。
「辻」は十字路を意味する。
播磨を東西に貫く道と、生野銀山へ北上する道の交差点。
その西隣には、ちょうど「辻」の字のシンニョウのように、ミシシッピならぬ市川が流れる。
あるいは柳田もまた、かの神に魅入られた人ではなかったか、とふと。
そうでなければ、どうしてエリート官僚が40過ぎてから道をはずれ、存在しない学問の創始者となる?
誰もが目前に見ておきながら気づかずにいた日常の美しさ・さみしさを、「日本」として再発見し、膨大な名著を残しまくった、途方なき巨人。
魂を売り渡すか、かの神に憑かれるのでなければ、なしえない偉業=異形に思える。
彼のテクストこそ、導きのロアであり、サイの神なのかもしれない。ダイダラボッチの足跡のように。
(柳田國男はロバート・ジョンソンと同時代人w)
Rock, rock and roll
Plymouth rock, roll over揺らせ、たま振り、プリマスの
石神を。転がせ。裏返せ(占帰せ)。Brian Wilson "Roll Plymouth Rock"
柳田と並んで、もう独りのサイの神は、折口信夫。
道祖神は、モドキあう対であらされるもの。
信夫は、「国文学の起源」について、いくつもいくつも草稿を書き、そのどれも完成には至らなかった。
まるで、ビーチボーイズ(ブライアン・ウィルソン)の幻の作品「スマイル」のように。
SMiLE
Artist:Brian Wilson
Label:Nonesuch
ReleaseDate:2004/09/28
Price:¥ 2,399
ブライアンは、ビートルズからのプレッシャーを絶えず感じつつ、新しい音楽の可能性を追求する。
「スマイル」の録音を続けたが、やがて「サージェント・ペパーズ」の出現に打ちのめされる。
「スマイル」は完成せず、お蔵入りとなった。
折口は、柳田の開いた民俗学に進むべき道を見出し、自己の民俗学を模索する。
文学芸能の発生にさまざまにアプローチし続け、やがて渾身の思いで書いた論文を、柳田自身に却下される。
折口は、未定稿の束を本にします。
SMiLE。国文学の発生。
それらは、今も読者を当惑させる。ブライアン自身、信夫自身がそうであったにちがいなく。
ブライアンの音楽と、折口の論文。その共通点。
それはどの断片も他のどの断片ともリンクしあい、
どこから語りだせばよいか、どこへとつなげるべきか、どう終わるのか
…編集してもしても、サイの河原に積む石のように、いつまでも際限がないこと。
あれとそれがここかしこで連絡しあい、新しい小曲が無数に生まれ、新しい解釈がいくつも生じる。
それらがさらにフィードバックして、また全体の構想(抗争)は絶えず更新されていく。。
いつまでたっても、ブライアン・ウィルソンは「スマイル」を完成させるにいたらず、
折口信夫は「国文学の発生」を何度も何度も書き直す。
◆青空文庫・図書カード:国文学の発生(第一稿)
◆青空文庫・図書カード:国文学の発生(第三稿)
古代研究〈3〉国文学の発生 (中公クラシックス)
折口 信夫
¥ 1,470 / 中央公論新社
( 2003-07 )
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by AMAZ君(改)
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(…長くなったので、ここでちょっと休憩。後半に続きます。)