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たら本39 「夢見る機械たち」

written by overQ
November 11, 2007

たら本39回「夢見る機械たち」たら本。
39回は、「奇妙な世界の片隅で」のkazuouさま主催。お題は、

「夢見る機械たち」


良心回路

このお題で最初に思ったのは、キカイダーでした(;´▽`)
機械だけにキカイダー。おらの脳は、何も考えてない。。

ともあれ、キカイダーといえば、良心回路
不完全な良心回路を持つキカイダー。
プロフェッサー・ギルの笛の音で、良心の葛藤に苦しむ。

端的で、どぎつい、子供にもよくわかる仕掛け。
それに、そこはかとなく、暗い。
単純でありながら、大人になって考え込むことも不可能ではないような、深淵にもつながっていて。
神話的な作用を心にもたらす。
SFらしい、マンガらしい表現。

人造人間キカイダー 第1巻 (1) (サンデー・コミックス)人造人間キカイダー 第1巻 (1) (サンデー・コミックス)
石ノ森 章太郎
¥ 440 / 秋田書店
( 1972-12 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

子供のころ(昭和の時代)に触れたのも大きいようです。
大人になってから初めて読んでも、そんなに「神話的作用」は期待できないのかもしない。
「良心回路」は、作品そのものを超えて、われわれの心の中で育っていったらしい。
「人造人間キカイダー」は、石森作品でも傑作とされるのですが、読者が読み育てていったものでもある。

ずうっと大昔、まだ印刷もなくて、物語が口頭で語られていた頃。
「お話」はその場その場で語られ消えて。ひとりひとりの記憶するものだった。
だから、それぞれの心のうちで育っていったはず。

とりわけ「機械」というものが、そんな神話的な働きを心のうちでする象徴になりやすいように思えます。
かつて星新一(だったと思う)は、タイムマシンのアイデアを発明したウェルズより、二番目にこのアイデアを流用した人のほうが、偉大だと言いました。
その時から、このマシンは共有され、それぞれのうちで無限に展開していく「夢の機械」となったから。


機械の寓意

なぜだか機械は、実体を越えて、寓意をはらみがち。

二つの世界大戦にはさまれた時代、1920年代から30年代のころ、機械の寓意がたくさんあらわれました。

カフカ「流刑地にて」(1914年)には、奇怪な処刑機械が登場。
不可解で、何かの寓意のようでありながら、何の寓意とも知れないマシーン。
時代を思えば、戦争や国家の巨大でとめどない暴力を予感させるものでもある。
カフカは傷害保険の事務処理の仕事をしていて、それがこの作品の発想の元だとも言われています。
機械工が機械に手をはさまれて指をなくす事故がたびたび起こり、役人カフカは機械のちょっとした改造で、事故を減らす提案をしたことがある。
そのエピソード自体、すでにきわめて20世紀的な寓意に見えてしまう。

流刑地にて―カフカ・コレクション (白水uブックス)流刑地にて―カフカ・コレクション (白水uブックス)
フランツ カフカ
¥ 945 / 白水社
( 2006-07 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

機械にはさまれる。
というと、巨大な歯車にはさまれる、チャップリンの「モダンタイムス」(1936年)。
ここで巨大機械は、たんに機械というより、文明や社会、体制の寓意を帯びています。
ふたつの世界大戦のはざま。
資本主義が恐慌の乱高下に揺られ、また社会を機械に見立ててこれを改造するかのような国家形成がある。ソビエトもナチスも20世紀の産物。

モダンタイムス コレクターズ・エディションモダンタイムス コレクターズ・エディション

¥ 4,935 / ジェネオン エンタテインメント
( )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

歯車。
といえば、日本では、芥川龍之介が不安の象徴としたもの。
遺作「歯車」は、昭和2年(1927年)発表。
国家体制のような外側の力というより、状況という漠としたものが内面化されて、なお機械のイメージが登場すること。
最後の章は「飛行機」。20世紀な機械。
飛行機乗りは、高い空に慣れてしまううち、だんだん地上の空気が吸えなくなる…という架空の職業病が出てくる。
鬱が「神経衰弱」と呼ばれてた頃。

芥川龍之介全集〈6〉 (ちくま文庫)芥川龍之介全集〈6〉 (ちくま文庫)
芥川 龍之介
¥ 882 / 筑摩書房
( 1987-03 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

横光利一が、人間どうしの関係性を機械に見立てた代表作「機械」を発表するのは、その三年後の1930年。
外部でも内部でもない、「関係」というものを捉えた点で、今もわかりにくい新しいのですが、それがやっぱり機械で象徴される不思議。


ロボットもまた、この時代に生まれた「寓意としての機械」。
カレル・チャペックの戯曲「R.U.R.」は、1920年です。
そして、あの美しい破壊の女神ロボット・マリアが登場する、フリッツ・ラング監督「メトロポリス」は、1927年公開。
人体を機械と見立てれば、ロボット。
社会を機械と見立てれば、労働者はその歯車。

ロボット (岩波文庫)ロボット (岩波文庫)
千野 栄一
¥ 588 / 岩波書店
( 2003-03-14 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

メトロポリスメトロポリス

¥ 6,300 / 紀伊國屋書店
( )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)

この作品のもつモダンな感覚が、宝塚という、阪急沿線の文化新興地にもたらされ、そこで育った少年が、戦後、鉄腕アトムを生む。
そして手塚治虫の直下型の影響のもと、石森章太郎が登場し、やがてキカイダーとなる。
「モダン」の香りはかなり失せてますがw
マリアじゃなくて、ビジンダー(笑)

メトロポリス (手塚治虫漫画全集 (44))メトロポリス (手塚治虫漫画全集 (44))
手塚 治虫
¥ 541 / 講談社
( 1979-01 )
通常24時間以内に発送

by AMAZ君(改)


20世紀の機械

機械。
部品を組み合わせて、動くもの。
個々の部品が、動力を順次に伝えていき、全体として稼動する。

全体を部分(部品)に分け、その組み合わせと考える。
古典的な科学観。
いろんなものを「機械」とみなす寓意は、とりわけ20世紀に入ると、猛威を振るう。

工場は労働者を部品とした機械。
ここからさらに、社会そのものも機械とみなす発想が出てきて、近代国家の形成に影響する。

ロボットは人体を機械に見立てたもの。
近代医学は、どうしても人間をロボットとみなしている気配をぬぐいきれず、今もパーツ交換=臓器移植という発想に影を落としています。

フロイトはひょっとすると、心を機械だとみなしたかったのかもしれない。
フロイトに反発したユングが「全体性」を強調したがるのは、「部品の組み合わせが全体になる」という発想に逆らってのことなんでしょうか。

20世紀の知が直面した難問は、
「部分をちゃんと組み合わせてもなぜか全体にならない」
「部分のほうがなぜだか全体より大きい」
といった矛盾した事態だったといえるかもしれません。
数学の危機や、相対性理論・量子論には、このパラドクスが顕著に現れた。

これを、
「個人のほうが社会全体より重い」
と言い換えれば、たちまち20世紀的な政治・国家の問題になるし、
「一匹の蝶の羽ばたきが、地球全体の気象を変える」
と言い換えれば、バタフライ効果になる。
また、
「一冊の本の中に宇宙が閉じ込められている」

と言い換えれば、ボルヘスになります。

なんと20世紀的な。
新世紀になっても、「部分>全体」のパラドクスは、宿題として残されているのです。


部分>全体

今回の主催者さま、kazuouさんのあげておられる作品も、
部分のうちに全体が閉じ込められていたり、
瞬間に永遠があったり、
極小の中に無限があったりするものがたくさんあります。

ゼナ・ヘンダースン「なんでも箱」は、手の平のうちに「なんでも箱」を見出す少女。
スティーヴンソン「びんの子鬼」は、ビンの中に「あらゆる望みをかなえる鬼」がいる。
ウェルズ「卵形の水晶球」は、水晶球のうちに、異世界が映るというもの。
乱歩「鏡地獄」は、内面が鏡ばりの球体に閉じこもる、内なる無限のごときお話。

ほかにも、
あらゆる無生物に生命を吹き込む「賦活器」、
誰も近付けない山頂のユートピア、
過去を閉じ込めたガラス、
あらゆる小説を生む機械、
異次元とつながるデスクトップ、
…こうした機械たちは、断片のうちに全体をはらんだり、有限から無限を生み出したりするもの。

同様な発想のものがないかなと考えて、パッと思いついたのは、ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」(1937年)。
実験室に宇宙そのものを作り出す博士の話。

フェッセンデンの宇宙 (全集・シリーズ奇想コレクション)フェッセンデンの宇宙 (全集・シリーズ奇想コレクション)
エドモンド・ハミルトン
¥ 1,995 / 河出書房新社
( 2004-04-15 )
通常3~5週間以内に発送

by AMAZ君(改)

ハインライン「歪んだ家」もこのタイプといえそう。
地震によって四次元構造を持つ家を作ってしまう姉歯な建築家の話。
このアイデアは、ホラー系だとラブクラフトをはじめたくさんあるし(「〜の棲む家」とかね)、最近だともっとド派手な「紙葉の家」も。

紙葉の家紙葉の家
マーク・Z. ダニエレブスキー
¥ 4,830 / ソニーマガジンズ
( 2002-12 )


by AMAZ君(改)

博士や建築家が登場する点では20世紀的。
ただ、受身の労働者や大量生産じゃなく、自分で作り出すエンジニアで、機械が唯一のものというところが、はじめにあげた20世紀機械物とちがってます。
こうした作品は、「機械の寓意」をもてあそぶうち、それこそもっと別な場所に通じてしまったのかもしれません。

というのは、これは「ミクロコスモス・マクロコスモス」とかいった、人類の古い発想と通い合うものだから。
錬金術師は作業場の窯の中に、黄金やホムンクルスを練成し、
鍛冶師は地下の鉱石の中から、天の子である金属を取り出し、
農民は麦や稲のウツホの中に、神を乗り移らせ(ミ・ノリ)、
丸石を見つけては、そのうちに先祖の霊やら太陽の子が宿ると考えた。
また、キリストやブッダの伝承にも、潜んでいる考え方です。
ハカイダーの脳には光明寺博士が宿るのです(それはちょっとちがう)。

夢見る機械をたどるうち、いつもの場所まで来てしまったようです☆



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時刻: November 16, 2007 10:08 PM
コメント

トラックバックありがとうございます。

「キカイダー」から「ミクロコスモス」へ、と思考過程をそのまま形にしたような、ユニークで素敵な記事ですね。それにしても「姉歯な建築家」という表現に笑ってしまいました。
じつは、この「ミクロコスモス・マクロコスモス」も、最初テーマの候補として考えてました。いちおうリストも作ってあります。今度主催をやる機会があったら、使おうかな(笑)。

Posted by: Site icon kazuou : November 11, 2007 6:39 PM

つい、キカイダーを思いついてしまいました(^^ゞ
いろいろ調べてるうちに、記憶がよみがえって、懐かしかったです。

最初はマンガづくしにしようかと。
でも、マンガは、このお題にはちょっとずるい。機械(メカと読む)がメインの作品、いくらでもありますもの。

マンガのもってる直截的な表現。
これがヒトの神話的な無意識を刺激するんじゃないかと思うのですが、
「メカ」はほんとに特別なアイテムになることができるようです。
それは現実に存在している機械とは、何か根本的にちがった「モノ」。
錬金術師たちが、試験管の中の化学変化に、自分の心を投影していたように、
たぶん現代のマンガ読者は、機械のうちに何か特別な思いを投げかけているようです。

…というようなことを書こうかとも思ったんですが、うまくいきませんでしたw

姉歯氏は、つい先日も、裁判のニュースで見かけましたが、あいかわらずヘンなヒトでした。
ソフト帽をかむってました。
ソフト帽をかむってる人を、21世紀になってから、はじめて見ました。
彼を見ると、どうしても「歪んだ家」を連想してしまいますw

Posted by: Site icon overQ : November 12, 2007 7:21 PM

わあー、フェッセンデンの宇宙が出てる!
この表題作を子供の頃に読んだんですけど
あの実験室に作り出された宇宙の場面は
子供心に強烈でしたねえ…
自分がいるこの世界も、博士と同じ次元と思い込んでるけど
実は実験室の中で弄ばれてるんじゃないかって、よく想像してました。

overQさんのエントリを読んでいたら
苦手意識のあるSFでも、「部分>全体」の作品は
実は好きなタイプなんじゃないかという気がしてきました。
そういえば、「白髪小僧」もそのタイプですね。
これはSFではないけれど。
や、その辺りのジャンル分けは無意味なような気もしますが…(汗)
でもこれでちょっとSF作品にとっかかりができたかも?
色々読んでみたいです。

Posted by: Site icon 四季 : November 13, 2007 5:37 PM

★四季さん。

フェッセンデンの宇宙は、一度知ると、深く印象に残りますよね。
ボルヘスのバベルの図書館…あらゆるアルファベットの組み合わせの無限の本が並ぶ
…というアイデアも、一度聞くと、いつまでも忘れられない。
これらがたぶん、人類の神話的な発想の根幹に触れてるせいなんでしょう。
壷中天とか、胡蝶の夢とかも、基本的な構造は同じ。

人類にとってはとても大切なイメージであり、
人生の様々な局面にこれを伴走させて、考えを深めていった。
現代の我々はこれを「機械」のうちに見出す傾向があるようです。
とくに漫画やアニメに出てくるメカやロボットは、錬金術師の黄金と同じ。
実現不能であるがゆえ、心の内容が投影されるのです。
ホムンクルスとアトムとは、ほんとは同じものなんだと思います☆

Posted by: Site icon overQ : November 14, 2007 7:12 PM

>手塚治虫『メトロポリス』
誰かが書くだろうと思って私は挙げなかったのですが、
よかったーoverQさんとダブらなくて。
そういえば私、『メトロポリス』の
アニメ映画を見に行ったんだったわ。
CGを駆使した建物崩壊のシーンに
最近のアニメってすごいのねーと感心したのでした。
あ、そうそう、夢Qの『白髪小僧』に引き続き
『犬神博士』読みました。やっぱりカタリですね★

Posted by: Site icon 菊花 : November 15, 2007 11:11 PM

★菊花さん。

今回のお題、漫画となると、無数にありそうです。
実在しない・実現し得ないのに、漫画やアニメの中で、何十年にも渡って、進化してきた夢の機械たち。

アニメ版の「メトロポリス」は、街の背景や建物が素晴らしい出来でした。
背景画だけを集めた画集も出てるそうです。

「犬神博士」。
「白髪」とは全然ちがうお話なのに、作品の構造はよく似てて、それがドグラマグラにつながっていく不思議。
主人公のチイちゃん=犬神博士はついに、何者なのかわからないままです。

旅芸人というもののことを、夢Qは実際に知っていたんでしょうね。
父親がモデルらしい人物も登場するし、家に芸人を呼ぶような、地域の顔役だったのでしょうか。
「チイちゃん」は、柳田国男が「桃太郎の誕生」などで探求した「小さ子」伝承に合致してて、
夢野はどこからこれを発想したのか、起源は何なのか、今たいへん興味があります☆

Posted by: Site icon overQ : November 16, 2007 7:23 PM
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