しばらく前亡くなった市川崑監督。
彼は、アニメーションの製作者として、最初の仕事を始めた。
彼のつとめるアニメーション製作部は、京都にあった。
蚕ノ社の向かいのあたり。
戦前、彼が作っていたのは、道成寺縁起にまつわる人形劇。
国威発揚映画として企画されたもので、
完成してみると、戦争は終わっており、
上映する機会もなく、進駐軍によってお蔵入りとなったとか。
市川崑物語
¥ 4,935 / ポニーキャニオン
( 2007-06-29 )
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by AMAZ君(改)
蚕ノ社。
不思議な形の鳥居があるので有名な、太秦の神社。
秦氏の社で、近くの広隆寺とは本来一体のもの。
京の三大奇祭のひとつ、牛祭りは、
仮面をつけたマダラ神が、このあたりを牛に乗って往来。
■木嶋坐天照御魂神社(蚕ノ社) - Wikipedia
■都名所図会・太秦牛祭図絵画像 - 国際日本文化センター
不思議な鳥居とは、三本足の鳥居。
これがなぜ三本なのかは諸説あるのですが、
実際のところ、よくわかりません。
三本を三角形に並べた辺が、
夏至だか冬至だかの方向に向いてるとか、
ダビデの星になるとか、
宇宙の中心とか、
いろいろ言われますが、よくはわからない。
ここにまたもう一脚、蛇足をつけたそう
…というのが、今回の記事。
三本足のもの。
八咫烏は三本足。
サッカーの日本代表の胸に止まる、あのカラス君。
導きのミサキ神であり、
じつは太陽を象徴する世界的に分布するシンボル。
三本足のもの。
鉄輪(かなわ)。
鉄輪とは、そもそもヤカンなどを火にくべる際、載せておく土台の足組。
囲炉裏とかに置いてあるやつですかね。
(実物を見たことがないですがw)
あれがふつう三本足です。
なぜ三本足なのかよくわからないけれど、
伝統的に三本足。
三本足のもの。
じつは錬金術師が黄金やホムンクルスを錬成するため、
窯を載せておく土台も、三本足。
三本足のもの。
もとは鍛冶師の使う炉が三本足で、
鉄瓶を載せる鉄輪も、錬金術師の炉台もここから来ており、
三本足の伝統を守っているのです。
宇佐八幡にまつられている聖なる石が、やはり三つ組になっていて、
これはカマドの土台の石だろうと、柳田国男がどこかで書いています。
洋の東西をとわず、炉の足の数。
それが、秘数3。
なんで3なのか、
世界的に3だとしたら、神秘的理由とはべつに、
何か実用上の利便性があるのかもしれません。
よくわかりません。
しかし、この三本足にまつわる伝説なら、いろいろと、わかる。
謡曲「鉄輪」
夫の浮気に気づいた妻が、鉄輪を頭にかぶって冠とし、
三本ロウソクを立て、丑の刻参りをする話。
最後は、陰陽師・安倍晴明に調伏される。
鞍馬の山で、藁人形に五寸釘という、
日本一有名な呪いです。
謡曲「鉄輪」の舞台とされるのは、
五條大橋の西、今の松原堺町通り下ル、
鉄輪の井戸。
民家の間の細い細い路地の奥。
この井戸の水を相手に飲ませると、後腐れなく縁を切れる
…と効能がうたわれます。
すぐ南に、猿田彦・ウブメとされる神石を裏に祀る朝日神明社、
すぐ北に、源氏物語・夕顔の舞台とされる場所。
夕顔が六条御息所の生霊に取り殺されるのは、
鉄輪と同系の伝承に触れているらしい。
さらにたどると、これもご近所に、
源融の六条河原院。
(今は五條楽園。鶴瓶師匠はここで童貞を失されたんじゃなかったかしら。)
かつては塩竈を焼いて風流を尽くしたが、
荒廃してお化け屋敷となっていたところ。
宇多上皇の御息所が呪い殺され、
この事件が夕顔に採られていると言われています。
魔所ですが、おおもとは橋姫。
いわば裏平家物語である、屋代本平家物語。
その剣之巻に出てくる、
宇治の橋姫のエピソード。
(源氏物語は、橋姫伝説を宇治十帖でフィーチャー。
この周辺の伝承が小耳に入るような場所に、
紫式部は位置している。)
ツワリで苦しむ宇治の橋姫は、
夫に「七尋のワカメをとってきて」と。
しかし、夫は海で美しい龍神に会って浮気。
(浦島太郎バリエーション。)
橋姫は貴船の神に祈り、
鉄輪を冠に、三本のたいまつを灯し、
鬼女となって、呪う。
橋姫の伝説はどうやらそうとう古くて、
屋代平家のも、すでにそのバリエーションらしい。
ウブメという妖怪を思う。
橋や山の麓、道のチマタなど、サカイの場所に出没、
道行く人に赤子を託す。
渡された赤子は重くなる、重くなる…というもの。
今昔物語集に、川を渡るさなかに
赤子を託される豪快なウブメの話が出てきます。
赤子の重みに無事耐えると、
怪力を得たり、富を得たり。長者譚につながっていくエピソード。
富をもたらす子をはらむ母胎…というのがプロトタイプらしい。
橋姫もこの系譜にあるはずで、
五条の橋にもこの伝承が響いている。
もともとは橋の工事を請け負う人々、
あるいは橋の工事費維持費通行費
道路目的財源を勧進するという名目で、
橋の近辺で物を売ったり、芝居や見せ物を行っていた人々の
伝承だったかもしれません。
五条大橋は、傀儡師ら興業のメッカで、弁慶・牛若の伝説もこの地に発祥。
歌舞音曲の神が降り立つサカイ。
そして、「剣之巻」に出てくることからもわかるように、
鍛冶師の秘教的な伝承が大元なのかもしれない。
ヨーロッパで錬金術を生み出すのと、
非常に近い神秘が、こんなところに、ある。
そして、強い。
話はトンで、記紀。
木花咲耶姫(コノハナサクヤビメ)。
一夜で妊娠した木花咲耶姫は、夫のニニギノミコトから、
「俺の子供じゃないだろう」疑惑を受け、
これを晴らすべく、産屋に火を放ち、
その中で三人の子を生みます。
ホデリ、ホスセリ、ホヲリの三兄弟。
火から「でり、せり、をり」。
(これを海幸山幸につなげるのが、古事記のカタリ。)
なんか壮絶な話のようですが、
これってもとは錬金術…鍛冶の作業(オプス)なんだと思う。
母石を焼いて、そこから子たる鉄や黄金、
金属類を取り出す、というわけ。
あるいは、鉱山の作業でも、母なる山から鉄鉱石(子)を取り出す。
炉の中で母は焼かれ、
子(鉄・黄金・ホムンクルス)が生まれてくる。
木花咲耶姫は木花ですが、
姉は磐長姫(イワナガビメ)で、
姉妹の父は大山祇(おおやまつみ)神。
醜い姉の方を嫁にもらえば、石のように長寿だったのに、
美しい妹をめとったので、花のようにはかない命
…と説明され、この部分は、
東南アジアなどによくあるバナナ型神話。
古事記は天津神の支配を語るのに忙しく、
エピソードもだいぶバリエーションと化してるけど、
山と石と木で、母を焼いて、子を取り出す
…という大枠が、鍛冶師の伝承になっている。
夫ニニギノミコトは、
「天饒石国鐃石天津彦火瓊瓊杵尊」(書紀)
という鉄鉱石と溶鉱炉のような字面にもなっていて、
生まれる三人の御子も、
「火闌降命、彦火火出見尊、火明命」
と燃えたぎる。
(記紀で鍛冶の過程らしいものが現れるのは、
ほかにも国生みやカグツチなど、いくつか。)
三本足の鉄輪の上の炉で母は焼かれる。
そうそう。
このエピソードの手前は、サルタヒコとアメノウズメの話。
五条の鉄輪地域がまるきり、それを踏襲するように、
道祖神に導かれ鉄輪が出現するという、不思議。
(そして道祖神社=朝日神明社は、
徳川時代には石田心学の塾があったという、
シュールなまでの歴史展開!)
剣巻の橋姫。
丑の刻参りの鉄輪。
木花咲耶姫。
これらの大元には、
鍛冶の作業に由来する
伝説がある、ということ。
さらには源融の伝説、
源氏物語の夕顔、
能の班女、
あるいは妖怪ウブメから、
お岩さんを通って、
ゲゲゲの鬼太郎(の母)にいたるまで。
(鬼太郎の話はもう一度書くつもり。)
しかも、それは、
ヨーロッパの錬金術と親近性を示すような、
呪術的神秘。
道成寺の安珍清姫エピソードも、
このバリエーションのうちに入るでしょう。
美形の僧・安珍に恋した清姫は、
安珍を追って追って追いたおす。
このストーカーはやがて蛇身(龍神)となって、
鐘の中で焼き殺される…という例のお話。
まったく同じといっていいほど。
炉(窯、釜)の中で焼かれて、
竜(剣、鐘)が生まれる。
あるいは、炉にからむ蛇。
炉の脚立は、三本足
…というところから、ずいぶん遠くに来ました。
また、出発点に戻りましょう。
蚕ノ社の三本柱。
これも、炉を示していたんじゃないか。
蚕ノ社(木島坐天照御魂神社)に祀られるのは、
天御中主命・大国魂神・穂々出見命・鵜茅葺不合命。
もとは天火明命が主神だったのでは、とも。
ばっちりですね☆
太陽が大地によりついて、山にこもり、
石となり、子を生んで、それが鉄や黄金。
その助産術を身につければ、「長者」となれる。。
しかし、私がほんとに不思議なのは、
その向かいでアニメ作家として仕事を始めた男のことで、
市川崑は何も知らないはずなのに、
道成寺の人形劇から創作を始め、
女たちの太い企みを描くのを得意とし(「黒い十人の女」「穴」「細雪」)、
金田一シリーズの犯人はいつも鐘に絡み付くような業深き熟女で(笑)、
妻・和田夏十の脚本から錬金術的に錬成された黄金が、
市川作品の魅力なのであった。
そういうことって、偶然…なんだろうか?
穴
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