たら本43では、赤毛のアン、ブラウニング、ジョン・レノンのことを書いたのですが、
ちょこっと付け足し。
DEW、について。
dewは、露。朝露。
そして、デウス(神)と韻を踏む。
「赤毛のアン」では、最初(アルファ)と最後(オメガ)に、ブラウニングの詩が引用されます。
扉言葉として、
The good stars met in your horoscope,
Made you of spirit and fire and dew.
BROWNING良き星々が天空でめぐりあう時、精霊と
炎と露から、あなたを作ったのです。
そして、最後の一節は、アンがブラウニングの次の詩の一節が静かにささやく。
The year's at the spring
And day's at the morn;
Morning's at seven;
The hill-side's dew-pearled;
The lark's on the wing;
The snail's on the thorn;
God's in his heaven -
All's right with the world!
"Pippa Passes"季節なら春。
春なら朝。
朝なら七時。
丘には真珠の露。雲雀はその翼に。
蝸牛はその角に。
神様はその天にあり、
天の下には世の泰平。
対訳 ブラウニング詩集―イギリス詩人選〈6〉 (岩波文庫)
¥ 798 / 岩波書店
( 2005-12 )
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by AMAZ君(改)
ここで本題とはちょっとズレるけど、
上田敏先生以来の歴史的誤訳かも、と思える点に気づいたので、
まずは、その話。
上の詩の、
The snail's on the thorn
という箇所。
上田敏は、「蝸牛枝(かたつむりえだ)に這(は)ひ」と訳す。
平井正穂は、「蝸牛、棘の上を這う」。
松本侑子さんは、「かたつむりはサンザシに這う」。
松本正司さんは、「蝸牛山査子にありて」。
最新の岩波文庫版だと、「かたつむりは茨を這う」。
でも、このthorn、カタツムリが乗っかってる草のトゲじゃなくて、
カタツムリの角のことじゃないでしょかね?
ツノ出せ、ヤリ出せ、アタマ出せ、の、角。
だって、この行の前には、
The lark's on the wing
「ヒバリはその翼に」
それに続くんだもの。
次の行のsnailだって、「カタツムリはその角に」と読むべきでは。
翼がヒバリのものなら、同じ文型なんだから、トゲはカタツムリのもの。
詩人は、蝸牛がピンと角を勃ててる様に、春を見た。
ちがうのかなあ。。
みんなそうは読んでないしなあ。。
蝸牛とthornで、何か慣用句とかあるんですかねえ。。
「鳥+on the wing」
というのは、空を飛ぶ様を表わすこなれた表現。
それに無理にシンクロして、
「カタツムリ+on the 角」
という見慣れない形にしたせいで、
誤訳が生じてるんだと思うんですが。
カタツムリの「角」は、ふつうは鹿や牛の角と同じく、
hornで表わすけど、thornも不可能というわけではないはず。
鹿・牛より、もっと植物的なものとして、詩人はカタツムリを見ていると思う。
そもそも、なんで「thorn=刺・茨」というような、
固くて否定的なイメージのあるものが
春をやわらかに讃えるこの詩に混じるのか、
不思議には思ってたんです。
ここに、茨の人生を平然と這う蝸牛のイメージから、
何か深遠なものを見出そうというのが、
従来の「読み」だったかもしれませんが。
…でも、そういう反対物をあえて合一させた深い寓意じゃなくて、
たんにカタツムリの角だったかもしれない。
詩って、やっぱり難しい。
横の語のつながり以上に、縦の韻を踏む言葉のつらなりから、
隠れた意味が現れる。
英語を母国語にする読者たちも、
ここはやっぱり「角」とはなかなか読まないかもしれないけれど、
たぶんブラウニングは「角」のつもりだったと思う。
竹下景子に1500点くらいのオッズで(^_^;)
海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)
¥ 340 / 新潮社
( 1952-11 )
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さてと、本題の dew に戻ると。
「dew=露」は、神さまが天から授ける、恵みの甘露のイメージがある。
それは聖書にたくさん現れ、定着したイメージ。
God give you of the dew of the sky,
of the fatness of the earth,
and plenty of grain and new wine.
-Genesis 27:28どうか神があなたに、天の露と、
地の恵みと、
あまたの穀物と新しい葡萄酒を
与えてくださいますように。
「創世記」Israel dwells in safety,
The fountain of Jacob alone,
In a land of grain and new wine;
Yes, his heavens drop down dew.
-Deuteronomy 33:28イスラエルは安らかに住み、
ヤコブの泉がひとり
実りとワインの大地にある。
そう、天が甘露をしたたらす地。
「申命記」
Your people offer themselves willingly in the day of your power, in holy array.
Out of the womb of the morning, you have the dew of your youth.
-Psalms 110:3あなたの力が現れる日、あなたの民は喜んであなたに身を捧げ、聖なる列をなす。
朝の母胎から、若さの露がもたらされる。
「詩篇」
やわらかく、慈悲に満ちた、天の露。
若さや再生とも関係してて、
また地に落ちて、実り(穀物とワイン)をもたらすもの。
天露(天ぷらが食べたくなるw)。
(上の「詩篇」の一節は、おまんこから垂れる露(業界用語でいう「マン汁」)を、どうしても思わせてしまう、性的ニュアンスが熱い。)
カバラでいうところの「上位の水」…ですかね。
グノーシスでは、「天の原始の水」。
世界霊魂は流出し、露となって大地に達し、男性である硝石と女性であるアルカリに凝縮し、このふたつが結びつくことで、酸性のアルカリ塩が生まれます。
…自分でも何を書いてるのか(電池のことを現代人は思い浮かべる)わかりませんが(;・∀・)、
ともかく錬金術でも非常に重要な物質である、DEW。
ラテン語では「露」は、ros。薔薇を思わせるもの。
この露は、正しき者をうるおすマナ。選ばれし者らは、それを求め、天の畑で、両手でそれを受け止める。
ゾハール
日本だと、年の初め(=一年の朝)に汲んだ水を、「若水」といって、
霊妙な神性をそこに見出します。
月のもたらす聖水であり、月夜見の持てるをち水(変若水)。
飲むと若やぎ、永遠の命を得る。
…霊感商法の口上みたいになってきましたが(;´Д`)
神聖水「若水」、一リットル三十万円で、会員様だけに特別にお分けしています(爆
ともあれ、「若水」と dew が、シンボルとして同じものだというのは、たいへん重要なポイント。
鍛冶師=錬金術師…が伝えたもの、なんだろうなあ。
インド〜エジプトにいたる範囲で発生し、その後、ちょうど柳田国男(蝸牛考)の周囲説を世界大にしたように、周辺に伝播して、ヨーロッパと極東に残ったもの。
さて、「赤毛のアン」の扉に刻まれた、ブラウニングの詩では、精霊と火と露が結びつく。
もともとは、エヴリン・ホープという、亡くなった少女への思いをつづった詩。
転生の果てにこの世界ではない場所で結ばれるというもの。
少女エヴリンは、ホロスコープの中でよき星々がめぐり合うとき、精霊と火と露から作られた存在。
すでに死んでいて、肉体をもたないため、土は出てこない。
霊と火と露のみでできている。
火と露の合体、というのは、神秘主義では常套句。
とくに錬金術では、男性原理と女性原理、
硫黄と水銀、太陽と月、火の鳥とペリカンの合一、
からみあう蛇として表される(=隠される)もの。
メルクリウスの杖。
二匹の蛇(火と水)が杖(霊魂)にからみつく。
✡ ダビデの星も見ときますか。
ナチスがホロコーストの際に用いたのが今では有名だけど、
もともとは神秘主義に広く見られる聖なる記号。
(そもそもナチスの鉤十字だってそうだ。)
その解釈は多種多様ですが、よくいわれるもののひとつは、
上向きの三角△が火、
下向きの三角▽が水、
そのふたつの組み合わせとして、対立物が調和した聖なるシンボル。
錬金術だと、○に縦線が入ったのが、露(硝石)。
世界霊が流出したもの。天から降る露。
そして、○に横線の入った塩と結合して、
○に十字のシンボルを作る。
これが、テラを表わす、とか。
まあ、これは一例で、錬金術のシンボルは、
ものすごいことになってて、何でもあり。
全然わからん。。
◇Alchemical symbol - Wikipedia, the free encyclopedia
「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」では、扉言葉の「精霊と火と露」がもう一度、本文中にあらわれます。
つまり、アンが「精霊と火と露から作られしもの」だと。
For Anne to take things calmly would have been to change her nature. All "spirit and fire and dew," as she was, the pleasures and pains of life came to her with trebled intensity. Marilla felt this and was vaguely troubled over it, realizing that the ups and downs of existence would probably bear hardly on this impulsive soul and not sufficiently understanding that the equally great capacity for delight might more than compensate. Therefore Marilla conceived it to be her duty to drill Anne into a tranquil uniformity of disposition as impossible and alien to her as to a dancing sunbeam in one of the brook shallows.というのもアンが物事をおだやかに受け容れるようになれば、彼女の性質は変わるであろうから。まったく「精霊と火と露」から出来た彼女のこと、人生の歓びも痛みも、とてつもない激しさで受け止めてしまうだろう。マリラはこう感じて、そのことをぼんやりと気に病んだ。こんなに激しい魂だもの、人生の浮き沈みがどんなに過酷に感じられるだろう、とマリラは気づくのだが、しかし、それと同じくらい歓びもまた大きく、補って余りあるほどであることが、わかってはいないのだ。そのためマリラは、アンが平静で安定した気分になるよう教育するのが、自分のつとめだと感じたが、それは小川の浅瀬できらめく陽光(=精霊+火+露)にダンスをやめさせるのと同じくらい、できそうにもないし、やり方もわからないことだった。
じつに面白い、複雑な色彩をもつ文章(そして、悲惨な私の訳…汗)。
たわめることのできないアンの気性が、「小川できらめく光のダンス」(=霊+火+露)にたとえられる。
それは、私の知る用語では、
「荒神」
と呼ばれるもの。
若水を吸い、あらたに生まれ出た魂は、手のつけようのない、お転婆。
名もなき日本列島の民は、これを「荒神」と呼んで、神と祀る。アラタマ。
どのようにしずめればいいのか、それは、「impossible and alien(=不可能で、未知)」。
しかし、この赤髪の外来者(alien)が、結局は、グリンゲイブルズに光をもたらす。
マリラ・マシュウの不毛な兄妹に、人生の意味を取り戻させる。
ルシファ。鬼。
それを神と祀ること。
価値の転覆。「壊す人」。ハンマーによる哲学(=錬金術、鍛冶)。
日本列島に棲んできた名もなき民の原思想と同じであり、
別な言葉で言えば、「自由」ということ。
神の実在、魂の不死、そして意志の自由。
この三本が、錬金術のカマドを立てる、根本の柱。