天の階

written by overQ

天の階段

前の記事で、姫路の北西にある峰相山系の「トンガリ山」が、稲にまつわる古代の神秘思想の舞台であることを書きました。
山頂付近の巨石「亀岩」にはかつて、その窪みに香稲が生え、これはオオナムチ・スクナヒコナが置いた稲種であって、稲作の起源を説く伝説がもともとはあったのではないか、と。
それは毎年毎年、稲が新たに再生することで、反復され続ける神話でもありました。

長くなるので書き及べなかったことをいくつか補足してみると。

「稲穂に米が宿る」という穀霊の信仰は、天の神がよりつくという考え。
神さまをよせるのに、今でも稲穂のような形をした幣を使います。ウツホや穴があればなおよく、神さまを捉えることができる…というのが、穀物の実の生り方から類推した、古代の世界観。
トンガリ山の特異なピラミッド状の頂、亀石のくぼみもそのようなものでした。

神が降りてくる…という一方で、神が天に帰っていく、という機能もあります。

トンガリ山から真西に三キロばかり行くと、嘴崎(はしさき)という場所があります。
揖保川にかかる大きな橋のあるところで、非常に美しい磨崖仏が有名。
磨崖仏のレリーフされた崖は巨大な一枚岩で、屏風岩と呼ばれています。
人がこの地域に住み着いたはじめから、渡しのある重要な場所だったでしょうか。

しかし、この「橋」は、川にかかった橋のことではなくて、古代人のイマジネーションの中では、天空への階段のことでした。

御橋山。
大汝の命、俵を積み、橋を立てたまひき。山の石、橋に似たり。かれ、御橋山と号く。

「播磨国風土記 揖保郡」

俵を積んで、天への橋を作る。
トンガリ山が風土記では「稲積山」と呼ばれていたことを前回書きましたが、それはこの御橋山と同様、天へ通じる橋という意味であったはず。
神がよりつく、天からの回路であるとともに、神が天に帰っていく通路でもあった。
のちに仏の姿を彫りつけた時も、古代からの思考が残響していて、浄土から菩薩が降り立つ橋として、この巨大な岩を想像していたのかもしれません。

古事記の歌謡にある、

梯立ての 倉橋山は 嶮しけど 妹とのぼれば 嶮しくもあらず

も同じような「天の階」を歌うもので、日本津々浦々に天との通い路があります。
(播磨の東、加古川にも、八十の岩橋というものがあって、天と地を結ぶ架け橋と考えられていました。天女が降りてきた天下原もすぐ近くで、「天下り」は官僚ではなく、古代の神々の定番でした。)

石の鞍

トンガリ山への登り口があるのは、石倉という場所。
因幡街道沿いで、かつては徒歩の往来が盛んであったあたり。
石倉という地名は、ふもとにある、「石の鞍」と呼ばれる聖石に由来します。
神功皇后と関わる遺物、と播磨鑑(18世紀)にあり。またがるとほどよさげな、石の鞍。
じつは「石の鞍」のオリジナルは、備前のほうへ持って行かれて、今あるのはレプリカだ、と播磨鑑は指摘していますから、かなり古くからあるもの。
しかし、本来は、イシクラという地名は、トンガリ山の亀石のことを指していたんじゃないかとも思われます。かなり早い時期から、亀石の稲神話が失われていたことの証でしょうか。

亀岩の神体文字?

そうそう。
亀岩に登ったとき、神体文字らしきものを発見。

発見…というか、赤ペンキで矢印が描いてあって、見てみるとそこに刻印がありました。
いったい誰がいつ、何のために…謎です…文字もペンキも(笑)

破磐(はばん)

このゾーンでどれほど巨石が崇拝されていることか。

石倉から1キロほど南西に、破磐という大岩が祀られています。
文字通り、割れた大岩で、まっぷたつになっています。
もともと割れていたのか、古墳づくりの際に運び出そうとして割れてしまったのか…わかりません。

伝説では、神功皇后が放った矢が落ちて、割れたことになっています。
見るからに奇妙な大岩で、意外とひっそりした場所にあり、神秘的です(大きな破磐神社は別なところにあり。祭事に不便なので移したらしい。岩は動かせないもんね)。

不思議ついでに付け加えておくと、姫路の心霊スポットで特に有名な神社が、このすぐ近くにあります。
何十年か前にごく小さな新興宗教がおこした社だったそうで、子供の生き神を祭っていたとかいう話を聞きましたが、本当かどうか。
今は荒れ果てて、非常に不気味なことになっているそうです。私は行ったことがありませんが、このゾーンはやっぱり何か独特のパワーを秘めている。
私は神社やお寺や古代遺跡などそうとう古い由来のものを見て回ることが多いですが、あとになってから、超有名どころの心霊スポットが付近にあることに気づくことは多いです。
「新耳袋」で特に有名なふたつのスポット、「幽霊マンション」と「山の牧場」は、どちらも古代の道と深く関わる場所に立地しています(このことにおそらく誰も気づいてないのですが。一度ちゃんと書かないと。でもちょっと怖いw)。


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