Ubuntuと自由
Linuxのディストリビューション、Ubuntu。
この名前は、ネルソン・マンデラの用語から採られたもの。
マンデラは、ubuntuという語を、例えば「fellowship」という英語に訳しています。
「他を思いやる」という意味の言葉。
マンデラやツツ大主教が、南アフリカ共和国の理念をあらわすキーワードとして用いた。
OSのUbuntuのコミュニティでは、
Ubuntu is an African word meaning ‘Humanity to others’, or ‘I am what I am because of who we all are’.
「ウブントゥ」は、アフリカの言葉。意味は、「他者をいたわること」。ていうか、「ボクがボクなのは、みんながみんなであるお蔭」。
と定義されています。
Our work is driven by a philosophy on software freedom that aims to spread and bring the benefits of software to all parts of the world.
Ubuntu : our philosophy
ubuntuという語は、freeという言葉と、強く結んでいます。
ネルソン・マンデラは、freeをこのように使います。
「水や空気はfreeであり、土地も同様であったが、白人たちがやって来て、それを所有した。」
free。
日本語では、「自由」とも「タダ」とも、「開放」とも「放任」とも「野放図」とも訳される。
土地はfreeだったので、白人たちが求めれば、それを分け与えた。
しかし、彼らはfreeとは反対のコンセプトで、事に処した。
こうして、かつてはubuntuで結ばれていた各部族が、分断した。
freeの反対語は、所有であり、それは「誰かが所有する」というより、ある人以外の他人に使わせないこと。
人をその人自身に使わせないこと、主人がそれを所有することが、奴隷状態。freeのない状態。
マンデラは、ubuntuの精神をうたう。
新しい南アフリカの建国にあたって、黒人と白人が、たがいをゆるす必要があったから。
互いに使いあうことでしか、新しい国は生まれないから。
「主人もfreeにしなければ、奴隷の解放はない。」
真実と和解委員会(Truth and Reconciliation Commission)の委員長ツツの、freeという言葉の使い方。
ツツは、もう一方の頬を差し出すイエスへの思いがある。
freeとは、自分自身を自分で所有することではなく、自分自身をも他人に分け与えること。
真実と和解委員会は、アパルトヘイトの罪の告発をするだけの魔女狩りの場になるのではないかと、白人たちを恐れさせた。
なぜならそれは「真実」だから。
ツツがもっとも心を砕いたのは、むしろ白人のことだったと言います。
罪の告発ではなく、罪のゆるしの場にしなければ、新しい国は生まれない。
「真実」のすぐあとに、「と」で結ばれた「和解」。つまり、ゆるしということ。ubuntu。
南アフリカの新しい憲法では、healという語が使われています。日本語では、いやし。この語のまっとうな使い方はこう。
Heal the divisions of the past and establish a society based on democratic values, social justice and fundamental human rights.
しかし、そんなことが可能なのだろうか。
夫を殺され、子供の前でレイプされた女は、相手をゆるせるだろうか。
分断(divisions)と、人間としての権利(human rights)。
この二語の間に横たわる、無際限の距離、コトバ。
healは、この二つの言葉の冒頭を括っている。
Linuxのディストリビューション、Ubuntu。
コミュニティにfree(無償、自主)で参加する開発者たちの気合が、猛烈に熱い。
このガッツはどこから来るのだろうと不思議に思っていましたが、ubuntuという語は上のような出自を持つ。
「正義」の立場から、悪を糾弾すること。
「正しい」ものが、まちがったものを告発すること。
それはなるほど、矛盾なく正しいことなのだけれど、マンデラやツツはありえない問いかけをしなければならなかった。
つまり、「正義」は「悪」をubuntuできるだろうか?*1
しかし、それがfreeということなんだ。
思えば、ジャック・デリダの最後の講演は、真実と和解委員会に関するものでした。彼はそこでカントの言葉として、freeを思いあぐねます。*2

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