河合隼雄は生きている

written by overQ

河合隼雄さんの夢を見た

このところ河合さんの著作をよく読んでいます。
というのも先日、不思議な夢を見たから。
本を読んだから夢を見たのではなく、その逆。

見たのは、こんな夢。

大きなお葬式の会場。誰の葬式かはわからない。
私は片隅のほうに座っていて、故人には面識がないか、あるいは会場の設営にあたる作業員のようなものらしい。
と、いつの間にか、となりに人が座っていて、見ると河合隼雄さんだ。
「ほんとはまだ生きてるんですけどなあ」
とささやくように、というより独り言のように、河合さんがつぶやく。
「みなさん、気づいておられんのですが」

どうやら葬式は河合隼雄さんの葬儀らしい。
じつは河合さんは生きているのだが、気づいているのは私だけのようだ。
しかし、しばらくすると、河合さんはべつな人のとなりに座って、やっぱりさっきと同様、
「ほんとはまだ生きている」「あなた以外の人はみな、そのことに気づいてない」
とささやいている。
どうやら、そうやって、会場の全ての人に、「こっそり」自分の生存を告げて回っているらしい。
そして、告げられた人はみな、自分だけがそのことを知っていると思っている。
そんな夢。

養老孟司さんの講演

不意にこんな夢を見たので、そういえば「河合隼雄」というキーワードで検索したことがなかったなと思い、やってみると、河合さんには公式サイトというものがあるのでした。
河合隼雄公式サイト 〜河合隼雄 その人と仕事〜

サイトには、養老孟司さんが京都マンガミュージアム(養老さんは館長です)でおこなった講演の動画があって、その中で、
「河合さんは死んでない。生きています」
と養老さんも言っている。
ほら、やっぱり。みんな、同じお告げを受けているんだ!

さらに、最近出版された「臨床家河合隼雄」という本。
序文は、臨床心理学者の河合俊雄さん(ご子息です)。隼雄氏が、ブームになる以前から「千の風になって」に注目し引用もしていた(「ユング心理学と仏教」)として、この詩を結びにしています。
その最後の一節は、「私は死んでいないのです」。
どうやら、ほんもんのお告げらしい。

話すだけで癒してしまう人

公式サイトの養老孟司講演。
河合さんとの対話が間接的なきっかけとなって、自分の心のあるわだかまりに気づいたことを述べる、養老さん。
養老さんは若い頃から、町で知り合いにあっても、あいさつがうまくできなかった。
それがなぜかわからなかったのだけれど、幼い頃に父を亡くした際、別れの挨拶を拒んだことが原因だった。
挨拶ができないのは、父の死を受け容れまいとする気持ちのせいであったと、四十をすぎてから、初めて気づいた。
そして、これに気づくきっかけは、河合さんとの会話でした。
といっても、カウンセリングを受けたわけではなく、たんに河合さんと会って話したというだけのことなのです。
河合さんと話すということは、それがふつうの会話であっても、何か治癒力のようなものがあったらしい。

面白いことに、同じような経験をした人が何人もいます。
河合さんの著作を読んでいこうと思い、まずは本を知ろうと、「河合隼雄を読む」という、代表作を取り上げ、著名人が感想を述べる本を読んでみたのですが、そこに、養老さんとまったく同じような体験がいくつも出て、驚きます。

筒井康隆さんは、殺人犯として刑事二人組から追われる夢を繰り返し見ていたのですが、河合さんに話すと、「殺したのは自分かもしれませんね」と言われて、やがて若い頃、自分は役者になりたかったのに、結局はSF作家になってしまったこと、つまり役者としての自分を殺していたことに思い当たる。
のちに筒井さんは自分の戯曲の上演で、役者として出演することになり、この夢を見なくなったと。
萩尾望都さんや白洲正子さん、谷山浩子さん、柳田邦男さんも、似たような話をしていて、心理療法家としての河合隼雄の治癒力のすさまじさを物語っています。
カウンセリングを受けたわけじゃなくて、ちょっと対談したり、本を読んだだけだというのに、みなさん、癒されてしまっているんです。
おそるべし、魂の医者、河合隼雄。

河合隼雄は生きている

さらに重要なのは、河合さんがあーしろこーしろと、治し方を明示したわけでは全然なくて、自分で気づいて、自分から癒されていること。
河合さんのカウンセリングの極意は、「何もしないこと」だったのは有名ですが、本当に相手の自発的な治癒力を目覚めさせるパワーがあったようです。

かつて、河合さんの心理療法の事例研究会に出席したことのある大江健三郎さんは、こんなふうに述べています。

それに加えてもうひとつの側面があったように思います。河合さんの講演を聞いていますと、心が解放されていく。なにものかから治療されていく、治癒していくという気持ちが感じられるのです。とにかく自分が素直になっていく気がして、気持ちがいいのでした。

<シンポジウム>河合隼雄とは 「河合隼雄その多様な世界」所収

河合隼雄は死んでない。
その言葉の治癒力は、まだピンピンしていると言ってもいい。
死者はたぶん、生きているのです。

Do not stand at my grave and cry,
I am not there;
I did not die.


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