風邪の日の読書 – スティーヴン・キング「ザ・スタンド」

written by overQ

先週末から風邪。今日はほぼ治る。

症状は重くない…鼻水、喉のいたみから始まって、わずかな発熱、ずきずき頭痛。
消化器系は全然やられず、食欲もりもりで、わりと早めに恢復した感じ。

大事をとって(鳥インフルエンザ報道の影響?)金曜はお休みに。
で金土日月と、風邪の四連休。
伏せってるほど重篤じゃない。この機会に「ザ・スタンド」を読む。
仕事は休んでも、図書館には(自転車でスイスイ)借りにいける、読書っ子魂。

スティーヴン・キングの代表作「ザ・スタンド」。
風邪で人類の大半が死滅してしまう話(;・∀・)
ものすごく大部な小説…かつて私は英語で読もうとした、そしてその時も風邪であった…が、十数ページで早々と落伍した経験ありw

今回は日本語。なんだけど、やっぱり長いよ。めちゃくちゃ長かった。
でも、これはやっぱりキングの代表作と言っていい。
名作にして迷作…迷路のようであり、迷惑なようであり、明晰と蒙昧、名人芸と迷走・酩酊・目眩が混在する怪作。
スティーヴン・キング以外の何物がこのようないびつな合金を錬成できるだろう…アメリカそのものを除いて。
天才とぞんざいの混在としての、スティーヴン・キング。
彼の人がいかに全身小説家であることかを、あらためて思い知る、4日間でした。

風邪をひき始めの方にお薦め(;・∀・)
ちょうどね、風邪の進行とともに、だんだん悪くなり、どんどん悪くなり、
恢復のかすかな光…が差し込み、そして寝込み、
玉蜀黍畑のぶらんこでギターを弾くおばあちゃんの夢にうなされ、
あのゴミ箱男が現われ、
やっぱりお前が裏切るのか、そしてニックがニックが、
やがて何となく登場人物たちの性格づけが変わっている(笑)第三部へ。

小説らしい小説…いびつで、ごちゃごちゃで、しまったりたるんだり。
致命的欠陥と天の声としか思えぬ「言葉」が混在。
アメリカの「ふつうの人々」がもっとも完璧に描けるのはキングであったこと…ドライブ感と停滞感が行きつ戻りつする文体…を思い出しながら忘れていく(その逆とともに進行)。

第一部の、さまざまな「ふつうの人々」…そう一語で呼ばれるには、あまりに雑多でデタラメにバラバラな、でもよく見知っているとさえ言えるあの人たち…の視点から、「風邪による滅亡」が描かれる、病的に暴力的な懇切丁寧さ。
これがキングの、他のどんな作家よりはるかに抜きん出た天才だと思う。

ある超常現象のもとに生き残った人々がより集っていく、無理ありすぎる設定をどーどこコード見せていく、つぎはぎと力業に満ちた(そう、伏線を張り倒さねばならないのだよ、ここで、作家は…作品を商品として(も)終わらせねばならぬ)、小説らしい第二部。
…そして指の隙間からこぼれおちる、ゴミ箱男とトム。…「対称性(のくずれ)」がこの作品のダイナモ、世界復活の鍵。

そして第三部、結末へ。最後の雪のシークエンスが本当にすばらしい。犬、飼いたくなる。いいよねえ、犬。

ふと思うんですが、映画「ダークナイト」のジョーカーの造型。
「IT」のペニーワイズや、この作品のゴミ箱男など、スティーヴン・キングのイマジネーションにある「アメリカの闇=壊す人」に、背中を押されてませんかね。

そう。「IT」といえば。
この大好きな作品のことを書いてみたいとずっと思っていた。
次回のたら本は、この作品を取り上げることのできるお題にしたいです(* ^ー゚)ノ
「幸福な結末」
なんてのは、どうだろか?

それがすべての近代小説がひそかに目指している境地。
ディケンズの頃には(なんだか今になってみるとやすやすと)達成されていた小説の終わり方。

「IT」のラストシークエンス、美しい
…この作品を「キングの最高傑作」としている人は多いけど、彼ら彼女らは、きっとこのラストに目がくらんで、作品全体のいびつさを忘れている(笑)
しかし、「忘れる」ってことが(「思い出す」こととともに)、この作品の肝…作者の意識的な意図をずっと越えた。
そう、それはたぶん…おっと。

この先は、次回、たら本で。
「幸福な結末」がお題です(…のはず)。
長めので、ああ、やっととうとう、ここにたどり着けたって、作品のこと、思い出してみてみて下さいませ。天竺(あがり)にたどり着いた、三蔵法師や悟空たちのような。
まだ、だいぶ先になる予定ですが…少なくともオバマ就任演説よりは先…二月になるかも(;・∀・)


COMMENTS

COMMENTS

  1. 『ザ・スタンド』と『IT』がキングの代表作であり、最高傑作であることは、たしかに間違いないと思います。
    そして、「病的に暴力的な懇切丁寧さ」がキングの真骨頂であること、、これもたしかにその通りだと思います。

    キングの小説が長くなるのは、それに加えて、たぶんキャラクターが多すぎるのではないかしら。『ザ・スタンド』では、その多すぎるキャラを整理する為に大技使ったらしいですが。
    キングは悪役が魅力的で好きです。
    『ダークナイト』は未見なんですが、なんか評判いいですね。近所のTSUTAYAではまだ新作扱いなので、もう少し時間がたってから・・。

    その後、お風邪大丈夫ですか?
    なんか寒い日々ですし、どうかお気をつけください!

  2. ★shosenさん。

    ありがとうございます。
    風邪はすっかりよくなりましたヽ(´ー`)ノ

    キングは、アメリカ人のいろんなタイプを、彼らが遭遇する些事から見事に描き出していくのが、真骨頂でしょうか。
    あのいらいらした感じ、「爆発」が作家当人にも曖昧なまま象徴化されていく過程…キングが達成したものは、小さくないですね。
    文体も素晴らしくて、とりわけ「スタンド」「IT」の頃のキングは、現在のアメリカを総体でとらえる、新しい文学を創造していった。

    「ダークナイト」のジョーカーは、すごくキング的です。
    キングは、小説・映画・漫画を問わず、今の物語作家たちに広範な影響を与えていて、その存在があるかないかは、そうとう大きい。
    日本でも「20世紀少年」はキングの存在なしには生み出すことができなかったはず。

    でも、この路線は、プロット(筋)の面白さを追い回しすぎると、「ピュアなもの」が消えていく傾向があるかも。
    読者をハラハラドキドキ、驚かせたり感動させたりするのは、面白いのですが、その虜になって物語のテクニックを追求しまくると、ピュアなもの(少年時代の友情とか)さえ、プロットの素材になっていく。
    そして、興味深いのは、それが主人公たちが対決すべき「悪」の基本設定となっていくという点。
    「デス・ノート」なんかは、まさに展開のたくみさだけをどこまでも追及した作品で、読み終えてしばらくしてから思うと、夜神月の「正義」のように空虚で、この傾向の極端な例になってるかもしれません。

    けど、キング自身は、彼のフォロワーよりか、むしろずっと「不器用」(笑)
    それは、テクニックに解消できない何かを、彼が根に持っているからにちがい。
    読んでると「もっといいアイデア」「もっとすっきりした筋」は多くの読者が思いつくはずですが(笑)、あのいびつさがキング最大の魅力。
    何かを引きずっていて、それはどうしても離れないものなんです。