現役の日本語作家の中で、今いちばん秀でた存在は、津原泰水である。
個人的な感慨ではなくて、客観的事実だと思って、こう書いてみる。
そのことを証し立てる手段はある。
短篇「土の枕」がそれだ。
昨年(2008年)、小説すばるに掲載されたもので、
本になるのを待っていたら、意外な、
しかし、じつに「やすみん」らしいところに出現していた。
- 超弦領域 年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)
- 編集: 日下三蔵
- 出版: 東京創元社
- 価格: ¥ 1,155(古: ¥ 800)
- 発売日: 2009-06-25
- ASIN: 4488734022
年間の日本SFのベスト作品を選んだもの。
…といっても、「土の枕」は、SFではない。
SFと思って読む必要はないし、たぶん読むべきでもないのだが、
このような場所にこのような形で採られるのが、
らしいといえばらしい。
作者も選者も読者の誰も、SFとは思わないのに、
ここに選ばれるのが、「やすみん」現象である。
カフカや(ヘンリー・)ジェイムズの作品に劣らぬ謎と人間的苦悩にみち、できばえの点ではむしろ優っているとさえ思われる。
とは、ボルヘスが、あまり読まれないキプリングの晩年の短篇について評した言葉。
この表現が、「土の枕」にぴったり当てはまる。
ホーソーンのあの「ウェイクフィールド」を思わせもするが、「できばえの点ではむしろ優っているとさえ思われる。」
短篇小説というフォーマットが達成し得る最高の境到。
内容について、ここでは一切紹介するまい。
ただ読んでほしい、まずそこに置かれた「言葉」から始めて。
津原泰水が誰か、どんな作品を書くのか、どんなジャンルなのか
…そうしたレッテルが彼の作品の読解をさまたげてきた。
一方で、彼は無冠の帝王であり、
今はただ小説家と呼ばれるだけの存在となりえている。
「1Q84」の作者より、作家として幸福なことかもしれない。
「土の枕」は、「小説家 津原泰水」の作品であり、
小説家の書く「言葉」でできている。
津原泰水の本になっている近作は、「たまさか人形堂物語」。
カバー絵ののほほんとした印象は、ほとんど中身を伝えない。
(この仕打ちも「やすみん現象」だろう。)
ひとつひとつの言葉が刻む陰影は、
ひとりひとりの人物の心の襞となって揺らぐ。
いずれ、個々の箇所を取り上げて、
この作品がどれほど「小説」であるか、感動を伝えたい。
- たまさか人形堂物語
- 著者: 津原 泰水
- 出版: 文藝春秋
- 価格: ¥ 1,500(古: ¥ 708)
- 発売日: 2009-01
- ASIN: 4163277706


