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19
Jun
2008

うつほ舟、あるいは恋する兄と妹(前篇)

流される恋人たち

子供のころに聞いた民話をもとに、プーシキンが書いた「勇士ルスランとリュドミーラ姫」。
四季さんが記事にしておられました。
「勇士ルスランとリュドミーラ姫」プーシキン - Ciel Bleu

そのうち「サルタン王のものがたり」は、「2人の姉の悪だくみのために、樽に入れられて海に流されたお妃さまと王子の話」なんだそうです。

この樽って、「うつほ舟」ですね。
柳田国男が、
「うつほ舟の王女」(『昔話と文学』)
「炭焼小五郎が事」(『海南小記』)
「うつぼ舟の話」(『妹の力』)
あるいは『桃太郎の誕生
などで、天空の大鷲のように螺旋を描きながら、追いこんでいく獲物。
神話の心臓部。どく、どく、どく。

類話はグリム童話のが有名。
そもそもペンタメローネ(五日物語)にあるらしい。「一日目」の第三話「ペルオント」。

昔むかし、貧乏で怠け者でぶさいくな青年がおりました。

青年が、薪を刈りにいくと、路傍で石を枕に眠る三人の子供。
かわいそうにと木の枝で日よけを作ってやったところ、子供たち、じつは三人の魔女っ子。
「お前の願いを何でも叶えてやる」と。

「じゃあ、おいらが薪を運ぶんじゃなく、薪がおいらを運んでけれ」
と逆さまを願うと、薪の束が馬のように青年を載せて歩き出す。
さて、たまたまお城の高窓から下界をのぞいていたお姫様が、この様子を目撃。
生まれて一度も笑ったことのない姫が、このぶさいくで怠け者で貧乏な青年を見て大笑い。
笑われた青年は怒って、「オラの子を孕むがいいだわさ」と言うと、たちまち姫は妊娠。
黄金の林檎のような美しい子供を双り生んだとさ。

子らが七つになった年、王様は娘を妊娠させた男を見つけようと、宴会を開く。
一日目は貴族を呼んで宴会。子らは誰にも見向きもしない。
二日目は勝ち組のお金持ちを呼ぶ。子らは誰にも興味を示さない。
三日目は残りものたちを呼ぶ。すると、子供たちは、中でも特に貧乏で怠け者でぶさいくな青年の手を握り、離さない。

愕然とした王様。
「負け組でヘタレで、目上の者に挨拶もできず、目下のものを使役することのできないもの、許すまじ」
かくして、文句を言う力のないところから支出を削減して財政を建て直し、姫と青年と子供たちと後期高齢者をうつぼ舟に入れて、海へ流してしまう。

ペンタメローネ (上) 五日物語 (ちくま文庫)


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この後、魔法の力で、ウツホ舟は豪華船に、船は城となって、価値が逆転していく。
たぶん、ヘタレ青年は「負ける」ことの意義を、ツン姫は「笑う」ということのやさしさを取り戻したってこと。市場にあふれる美や価値とはちがう、自分の手の平で知る本当のこと。
一方、「邪魔なもの」「劣ったもの」を排除した王様はかえって没落。
海原山原のチマタをさまよううち、姫と青年と子供たちと後期高齢者のニライカナイにたどり着く。(ああ、今の日本だと、ほんとリアリティないやw、無可有郷)
「おじいちゃん!」と駆け寄る孫の声。大団円。
そんな予言的内容を持つ寓話です(一部ノンフィクションを混えてお送りしています)。

うつほ船の聖母子

うつほ舟。
日本では例えば、すでに古事記の神功皇后(オキナガタラシヒメ)の条に見える。
息子(のちの応神天皇)を異母兄弟の暗殺計画から守るため、「空舟」に入れて、新羅から難波へ送り出す皇后。

母・神功皇后と、王子・応神天皇。
この聖母子は、八幡さんとして祭られるもの。ちょうどマリアとイエスみたいに。

大隅八幡の縁起として伝えられる話では、「大比留女(ヒルメ)が王子を生み、母子ともにウツホ船で流された」となってるとか。
より元型に近いのかもしれません。

そういえばヒルメは天照大神の別名のひとつ。「昼目」と書いてもいいのかもしれない、太陽信仰と深く関わる名前。
すべての天皇の聖母である、アマテラス。
八幡の大比留女は、太陽を呑む夢をみて子を孕む

ホムダノワケ=応神天皇は、父が何となくはっきりしない王子さま。その点、心なしか、イエスと似てる。
王子(応神…神の応え)が太陽(天)の子だから、と神秘主義に解釈してみることにする。そうそう、天照大神がこもる天の岩戸も、ウツホのようなものであることも言い添えて。

「父がはっきりしない=神の子」というのは、神話では世界共通のパターン。
梅原猛さんが、京都の賀茂社の縁起を読み解きながら、そう指摘しています。(「京都発見〈4〉丹後の鬼・カモの神」
山城国風土記逸文、賀茂社の縁起。
川からどんぶらこと流れてきた丹塗り矢によって子を孕んだ玉依姫。
生まれた王子が成人したとき、カモの御祖神(おじいちゃん)は宴会を開き、王子に「お前の父がいたら、酒を飲ませなさい」と。
ペンタメローネとそっくりの展開。
王子は盃を天に向けて捧げる。つまり、父は天であり、王子は屋根を突き抜けて、昇天します。

(後篇へ続く…後篇では、夢野久作の作品がこの系列にあることから、神話の世界的大風呂敷を広げます。)

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