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16
Oct
2008

Qnapshots #045 「彼の岸に咲く」

  

彼岸に咲く花

UFOや幽霊から、メアリー・セレスト、コティングレーの妖精、
スカイフィッシュやチュパカブラに至るまで。
いわゆる、超常現象。
信じるか、信じないか…と問いつめられたりする。

でも、こうしたものに心惹かれる思い。
それが真実か、本当はべつなトリックがあるのか、
というところに、核心があるんだろうか。
謎の解かれる前の、あのあいまいな気分。
むしろ、そこに、心惹かれる「何か」の核心が脈打っているのではないかと。
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13
Oct
2008

ご利益アップデート

  

地蔵ボード・左

Mlle Cさんのパソコンのモニタが壊れたらしい。
前回、マウスが故障した時は、上善寺のお地蔵さん軍(通称・マザーボード地蔵尊)によって、直ったのです。

今回、なぜ効かないのか。
それは、あれですね、ご利益アップデートをしてないからw

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岩神、大井子、あははの辻。

  

Like A Rolling Stone

西陣の岩上神社

西陣のとある一角。
最近区画が整備され、新築の家が並ぶ、この地に、
高さ2メートルほどの巨大な岩が、にょっきりそそり立つ。
綱を巻かれ、神として祀られています。

岩神さま
お乳の出がよくなるのが、ご利益。たぶん女神さま。

さまざまな来歴を経て、この地にやってきた。
京の民は、ことのほか、この岩神さまに感心があると見え、
その複雑な来し方は文献からたどることができます。

西陣にいらっしゃる前は、今出川門の南、
江戸時代、八条殿があったあたり、路上に転がされていた。
というのも、これを禁裏の後水尾院の築山の立石としたところが、
禿童(カムロ=カッパ)と化して夜行する、吠えるなどの妖怪事。
道に放られたあと、寛永のはじめ、西陣に祀られたらしい。(「菟藝泥赴」)

庭石にされる以前は、中山神社に祀られていた。
中山神社は、二条城の南、岩上通りにあります。
「岩上」というのは、もちろん岩神さまのこと。
この神社は、以前はもう少し北、
今は二条城の東北辺にあたる場所にあった。


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二条大宮、通称「あははの辻」のあたり。
冷泉院があり、
そもそも岩神さまはそこに祀られていたもの。

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その神の名は(園神韓神と蘇民将来、そして鵺)

  

その神をみやこに

園神韓神(そのかみ、からかみ)。

桓武帝が平安遷都のとき。
園神韓神という神さまがすでに祀られていて、
建都のため、これを取り除けようとしたところ、神託があり、
「長くこの地にあり、帝都を護らん」と。
こうして、韓神園神は、
大内裏に当初から祀られた、唯一の社となった。

延喜式によれば、

「宮内省坐神三坐 園神一坐 韓神社二坐。
春二月冬十一月丑日 祭之参議一人就祭所行事」

園神が一座で、韓神が二座。
合計、三座が宮内省にまつられた。

園神=婆梨釆女
韓神=牛頭天王と王子

なんだと思うのです。
この名前で呼ばれていたかどうかは、わからないけれど、
同じ型の信仰が、ここにあった、と。*1

ちかきだに 聞かぬみそぎを なにかその
        から神
までは 遠く祈らむ

ー少将内侍(「後拾遺和歌集」)

少将内侍は、少将(=牛頭天王とその王子)につかえる巫女。「うねめ」としての生き神、ハリ采女。
同じく、後拾遺和歌集の歌人である「少将井の尼」も、そう。
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¶ Footnotes:
  1. 牛頭とは呼ばれてなかったかもしれない。
    この名前の文献登場は、わりと新しいから。
    牛には関係していただろう。
    天王とか、天神・天使とは、
    呼ばれていた可能性がある。
    すると、天皇とダブってしまうので、具合が悪い。
    そこで、韓神というよそよそしい一般名で呼ばれていると。 []
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瓜生石の謎

  

瓜生石、キュウリ、牛頭天王


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瓜生石(うりゅういし)。
知恩院前の道路のど真ん中に、ご鎮座まします神の石。

知恩院より古い由来を持つ。
貞観2年(860年)6月14日の深夜のこと。
この石に一夜にして瓜(キュウリ)が生り、
牛頭天王が宿った、というもの。
その後、牛頭天王の新霊は今の粟田神社に移られた。

「牛頭天王」の文字が表面に浮かんだとか、異説もあるけれど、
これは桃太郎やかぐや姫・瓜子姫と同様、
「うつほ」に神が宿りつくことなので、
実のうちに宿ったとみるのが正統。*1

八坂神社の紋はキュウリの輪切り

素盞嗚尊こと牛頭天王を祀る八坂神社の紋は、
輪切りにしたキュウリの断面をかたどったもの。
粟田神社では、神輿を瓜生石の上に置いて、神を宿らせる行事が、
明治まではおこなわれていたそうです。
ちょうど、少将井の井桁の上に神輿を置いて、
神を宿らせるのと、ペアになってる感じです。
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¶ Footnotes:
  1. 一夜にして実がなるのも、
    「一夜で子を孕む」タイプの神話のパターン。
    ペンタメロンのペルオントと同系。 []
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祇園祭の星の王子さま

  

王子さまの魅力に感染…したい?

王子辞典 Prince Dictionary


タイムマシンラボ
¥ 1,554 / 太田出版
( 2007-02-01 )
通常24時間以内に発送

いづれの王子さまから始まったのだったか
…ハンカチ王子とか、「王子さま」ブーム。
テレビ映えのする美形男子には、
この呼び名を与える風習がしばらくつづいてます。

しかしながら、日本で伝統的に「王子」と呼ばれるものは、
じつは全然ちがうものでした。
いわゆる「疫病神」
…比喩ではなく、文字通り、
伝染病を運んでくる目に見えない鬼の魂魄。
それを「王子」と呼んで、お祭することが多かった。
コレラとか、鳥インフルエンザとか、O157とか、
プリオンとか、メタミドホスとか、
そういうのが、ほんとの王子さまです(-_-;)

日本各地に、「王子」の名を持つ地名が名残りをとどめる。
東京の八王子、神戸の王子動物園。
京都だと、岡崎の王子町、
下京の悪王子・元悪王子、左京の若王子、北区に福王子など。*1

みなさんのお近くにも、きっと「王子様」がおられるはず。
疫病がはやると、お祭りをして、荒神をしずめた、その痕跡。
「若宮」とか「今宮」と呼ばれることも。
「将軍」っていうのも、じつはこの系統だし、
ほんとに全国津々浦々、たくさんいらっしゃる王子さま。

八坂の悪王子神社2

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¶ Footnotes:
  1. 若王子は少し系統がちがって、
    熊野権現・十二所権現の流れにあって、
    仏教と習合しながら、整備され、
    天照大神、その子ニニギ尊をお奉りします。
    でも、大元の由来は、同じかもしれない。
    八幡さんも、じつは母子神として、根っこがつながる。
    御霊として祀られるのも、八柱。
    また福王子は、桓武帝の孫で、宇多天皇の母・班子皇后を祀り、
    平安時代でも母子神としての王子信仰が生きていた。
    天皇が天王であった平安京のはじめ。
    斑子女王の「斑」は、班女に通じること。 []
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井戸の中の女神さま

  

井戸の底から

リング コンプリートBOXリング コンプリートBOX
監督:中田秀夫
出演:松嶋菜々子
¥ 13,440 / ポニーキャニオン
( 2003-04-16 )
通常24時間以内に発送

リングの貞子さんを思い出すことから始めたいのです。
平成に出現した、いちばん有名なお化けといっていい、貞子

以前書いたことがありますが、
貞子は戦前の千里眼事件からヒントを得たもの。
東京帝大の福来博士がおこなった念写実験。
大騒ぎになって、博士はついに大学から出て行くハメに。

「念写」を写真じゃなくて、ビデオに収録したのが、
リングの貞子さんのアイデア。
今はDVDになり、コピーが難しくて、きっと困っておられるはず。
その上、ブルーレイとかどんどん新しくなるし、
「もうほんま、アナログ怨霊で、困ってますわ」
…というぼやきが、井戸の底から聞こえてきそう。

そう。
貞子サンといえば、井戸。
じつは、「井戸にすむ女」というのは、
日本古来の重要な伝説につながるもの。
貞子さんの怖さの持つ、深みとポピュラリティは、
この元型に根を張っていることから生じる。
今回は、この貞子の系譜を追ってみます。

お菊さんの井戸

井戸の女の怨霊というと、姫路城のお菊井戸
皿屋敷のお菊さんです。
井戸の底から「一枚…二枚…」と恨めしげな声がする。
家宝の皿をなくした、という濡れ衣を着せられ、
殺されたお菊の怨霊。

お菊井戸と姫路城

姫路城には、お菊の井戸とされるものもあります。
お菊さんは今は、十二所神社の中に、
「お菊神社」として祀られています。

お菊神社

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まっぷたつの神さま

  

太陽と月の起源

岩波文庫「シベリア民話集」所収の、「太陽と月」という話。
題名のとおり、太陽と月の起源について、かたるもの。

若者のからだを、妻と幽鬼ムイラクが取り合う。
引っ張りあった挙句、彼はまっぷたつに引き裂かれてしまう。
幽鬼は左半分をもって逃走、妻のもとには心臓のない右半分がのこされた。

若者は夜になると一人前の男になったが、朝がくると、また半分に戻ってしまう。
心臓なしで生きていられるのは、夜だけなのだ。
かくして妻は、昼のあいだは自分が大地を照らし(これは天界の出来事だから)、
妻が眠る夜のあいだは、夫である若者が照らすことになった。
太陽と月は、こういうわけでできたのだ。

ネツケ キュージョン (アシュラ男爵)

まっぷたつにされた若者。その半分のからだ。

この体には、目がひとつ、足が一本しかない。
どうやらその姿で、夜の天界そのものを象徴する。
ひとつだけある目は、月。
もしかすると本来は、心臓のある左半身が、太陽をひとつ目とする、昼の天神だったのかもしれない。

世界中に分布する片目片足の巨人の伝承。
…じつは天そのものを神と見立てたもの、という奇々怪々な説に、私はこだわっています。
ひとつしかない目玉は、太陽であり、大地を蹴る巨大な一本足(あるいは男根)は、雷であると。
ホルスも、キュクロプスも、ヴォータンも、ダイダラボッチも、片目片足の天神さんのヴァリエーション。
AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: 一つ目の巨人
AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: 泥田坊のこと
AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: 太陽の瞳
AZ::Blog はんなりと、あずき色☆: 神の失われた瞳

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旅する神さま

  

「あの人に会いたい」という番組。
NHKの膨大な映像資料から、今は亡き著名人のインタビューを選り抜いたもの。
NHKアーカイブス NHK映像ファイル あの人に会いたい

晩年の柳田国男の映像もあり、その中で柳田翁は、自分の「最初の手柄」について、うれしそうにかたります。

農務省の官吏だった頃(と思う)、柳田は九州の山村を訪れ、ひとつ民話を聞いた。
猟師が山の中で、お産に苦しむ神さまに出会う、という話。
ひとりの猟師は、山中でお産の穢れに手を染めることは禁じられている、と断る。
もうひとりは、それはたいへんでしょうと、神さまのお産を助けた。
拒んだ猟師は呪われ、助けた猟師はその後、大いに繁栄したと。

柳田はすぐあとに、東北(だったかしら)でこれと同じ話を見つける。
思わぬ遠方に、似た話の朋輩が分布する不思議。
その発見が自分の民俗学の「最初の手柄」だと。

  +

この話は、蘇民将来の伝説と同じタイプ。
蘇民将来は、祇園祭の伝承。
また少し前、「セクハラポスター」で話題になった岩手の蘇民祭もそうだし、初夏や小正月に全国で見られる「茅の輪」をくぐる風習、ちまきを食べる習慣も、この伝説に基づく。

祇園祭・黒主山のちまき

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17
Aug
2008

姫路から京都へ来るもの

  

お盆は、姫路に帰郷。
新快速で姫路から京都に戻るあいだ、ぼんやりと播磨から京都にやって来るものどものことを思う。
「日本」史に落ちる、巨人の影。

姫路城の逆光

  +

陰陽師・安倍晴明のライバルは、蘆屋道満
播磨出身の法師陰陽師
晴明と道満の呪術対決は、中世説話から歌舞伎を経て、現在の陰陽師ブームまで、賑やかにカタられる。
晴明神社の☆の紋章「五芒星」は、ドーマンセーマンと呼ばれる。「道満=晴明」ということ。

蘆屋道満は、播磨から京都にやって来て、藤原道長に術をかけ、晴明に破られる。ために、播磨に追い払われたとも。
やって来るのか、払われるのか。
しかし、すべての「退治(エクソシスト)」伝承がそうであるように、ここでも「鬼(悪魔)」と「鬼退治(払い)」は同一人物である。
どーまん=せーまん。
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21
Jun
2008

うつほ舟、あるいは恋する兄と妹(後篇)

  

ノアの箱舟は「うつほ舟」?

柳田は、周防の大内氏や備前の宇喜田氏など、瀬戸内の古い氏族のうちに、百済の王子がウツホ舟に乗ってタタラ浜にたどり着き、一族の祖となった、という伝承をもつものがある、と指摘しています。
それらの伝承、話の後半は長者譚になっていき、その繁栄を受け継ぐものとして、今の一族があると。*1

前篇で取り上げたペンタメローネの話も、長者譚や一族の祖のカタリの気配を残していた。
まさに娘がどこかの馬の骨(=神の子)と作った「分家」ですから。分家が王様の本家を食うという結末。
きっとインドとかペルシャとかエジプトとか「世界の中心」から、端へ端へと、「新天地」を求めて、歩いていった人々がいて、その東と西の端がわれらがご先祖。
ユーラシアの東と西の端で、似たような物語があること。

うつほ舟に乗って、一族の先祖がこの地にやってきた…それはまるでノアの箱舟。
そう、人類、いやすべての種が、方舟というウツホ舟に乗って、流れ着いた祖から繁栄していった、という伝説。
これらの類似は偶然ではなく、同じ源から派生したバリエーションなのではないか。大きすぎて論証できないけれど、だんだんそう思えてきました。
「前篇」では、神功皇后+応神天皇の母子が、マリア+キリストに似ていることを書いた。
以下ではさらに、イザナギ・イザナミと、アダム・イブがとてもよく似ていることも見ていきます。
どれも、「うつほ舟」がキーになっている不思議。

日本の錬金術

柳田は、民話や伝説にある
「炭焼小五郎」
金売吉次
芋堀り藤五郎
といった長者譚を、ウツホ舟に隣接するものと見ています。
こららの話は、どれもペンタメローネの話によく似てるんです。
姫や長者の娘が、風来坊の男と結ばれる。風来坊は金属を錬成して、新しい長者となる。
そして、この話は、日本中いたるところにあります。
九州の八幡のあたりにもあるし、金沢の地名の由来でもあるし、黄金で有名な奥州藤原氏の伝承でもある。

奥州藤原氏といえば、先日の地震の宮城県栗原市。
あそこは金売吉次伝説の本場のひとつ。「金成」というズバリな地名が残っています。
地震で山が割れたけど、もし金脈が出てきたら。禍転じて…となるのになあ。ふと、そんなことを思いました。

八幡と関わるもの。金属を扱う人々。
山師や鍛冶師、鋳物師(イモジ…ここから「芋堀り」になる)が、鍬や斧、釜や鍋を打ち出して、開墾は始まる。
この人たちは、独特の神秘主義を持っていた。ユーラシアの西の端では、錬金術になっていくもの。

母胎−子供
ウツホ−神の子
鉱山−鉱石
炉−金属(黄金)
穂−米(麦)
試験管−ホムンクルス
竹・桃−姫・太郎
山(海、あるいは夜)−太陽

「包むもの」と「孕まれるもの」のアナロジーが、この信仰の要にある。
黄金や実り、神の子が、母胎に孕まれたのち、この世に新生する、という考え。
ヨーロッパの錬金術の思考でもある。
錬金術はたんなる金属加工ではなく、これらの柔軟なアナロジーによって、心の深層構造を旅するものであるのは、ユング翁の論考でつとに有名。

妹兄島の伝説

さて、前篇で取り上げた八幡さま、つまり神功皇后と応神天皇の聖母子では、母がクローズアップされているのですが、子供の方にもっぱら着目した場合。
赫夜姫や瓜子姫、一寸法師や桃太郎(たぶん山の子である「金」太郎や、海の太郎の浦島…玉手箱はウツホ)なんかがそうです。
今回は触れませんが、義経=牛若丸=御曹司の伝説も、じつはウツボロジーのバリエーション。蘇民将来もそうだと思い始めていますが。*2

子供の方に着目して、なお「一族の祖」というストーリーを保持したい場合。
そんな時は、子供はふたり、「男と女」となる。
アダムとイブ、イザナギ・イザナミ。そこから、孫・曾孫…連綿と一族が生まれてくる。

ペンタメローネの、樽詰の「ヘタレ少年とツン姫」との婚姻譚も、このタイプ。
ウツホの生み出す(子)宝によって、めでたしめでたしに終わる話。

しかし、もっと奇妙な場所にも、「類話」が見つかる。
夢野久作「瓶詰地獄」
浜に流れ着いた瓶の中の手紙。そこには、孤島に流された兄と妹の物語がしたためられていた。

」は手紙が入っていたウツホであり、また二人が閉じ込められた孤島のアナロジーにもなっています。
じつは宇治拾遺物語の「妹兄島(いもせじま)」の話もこれで、妹と兄が、苗代と鋤・鍬・釜・鍋など稲作の道具一式とともに、舟で流されて孤島にたどり着き、島民の祖となる、というもの。
この「妹兄島」伝承は、南方の島々に広く分布しています。島の起源をカタる、アダムとイブとして。
夢野久作は、妹兄島伝承からこの作品を着想しているんだと思います。

神話学者の吉田敦彦さんは、アジアの神話との比較から、イザナギ・イザナミもほんとは「兄と妹」だったはず、と指摘。( 日本神話の源流 (講談社学術文庫)
つまり、日本という島の起源も、「妹兄島」伝説になっている。
列島自体を生む、兄妹婚。最初に生まれたヒルコは、「葦舟」に入れて流すことも言い添えて(書紀では「天磐樟船」で、よりウツホ舟っぽいと柳田)。
きっと、アダムとイブもほんとは兄と妹で、人類発生の類話なんだろうなあ。*3

夢野久作がまだ作家「夢野久作」になる前に書いた「白髪小僧」。
これも、風来坊の少年と、お姫様の婚礼譚として、ペンタメロンの話などと、そこはかとなく似ています。

夢野はこの系統の話をどこから仕入れていたのかが、じつに不思議ですねえ。
久作の故郷は北九州で宇佐八幡の地元。おまけに謡の師範。芸能を通じて口伝の古伝承の端々に触れる機会はあったかもしれない。
また、右翼の大物、地域の大立者の息子として、旅芸人との交渉などもあったこと、「犬神博士」を読むと想像させる。

「白髪小僧」「瓶詰地獄」「犬神博士」と読むと、太古の伝承がまだ脈々と生きていることを思わせます。
そして、このマグマに降れているせいで、夢野久作は近代文学史のカヤの外にあるのかしれない。
書き物による表の歴史ではなく、口承文芸の流れのうちにあるから、と言いかえてもいいですが。

おまけ・秦河勝のうつほ舟

謡や能といえば、うつほ舟は、秦河勝の最後(=転生)にも現れる。
難波から赤穂の坂越(さこし、しゃくし)にどんぶらこ、うつほ舟(空舟)で流れ着き、その地で荒神となった川勝は、能の元祖とされ、大避神社に祭られています。(金春禅竹「明宿集」)

うつほ舟と能の奇妙な結びつき。
赤穂から赤穂浪士という江戸の荒神が出現、歌舞伎でヒットするのは、たぶん偶然ではなく、この地の伝統がいわば転生しているのかもしれない。
また、大阪湾から播磨方面の瀬戸内は、安倍晴明・芦屋道満といった、陰陽師と遠からず近からず、微妙に重なり離れている地域。渡辺綱とかもこのへんだし、秀吉が管理したがった荒事のできる連中の出自もこのあたり。西宮−淡路は、傀儡・式神といったものののテリトリーでもある。嘉吉の乱も思い出す。そして、広峰から京の八坂に牛頭天王が運ばれたことも。
歌舞伎の連中は、こうした伝統に通じているんだと思う。

ついでに、平家物語の「鵺」のことも、強引に書いてみると。
ヌエさん。謡曲にも採られていますが、このヌエもウツホ舟(空舟)で流される
端的にいってしまえば、「ヌエ=川勝」説というトンデモ。
京都のヌエ神社のある場所。二条城の北、NHKのビルの南です。
ここは、元の大内裏で、韓神社・園神社が祭られていた場所だと思いますが、どうなんでしょう。
内裏で祭られていたのは、このふたつだけだったそうです。
この二社(韓は二柱なのでほんとは三社)は平安京以前からそこにあった。そして、この地は平安京以前、秦川勝の邸のあった場所と伝えられる。
河勝のまつっていた社である可能性。
かくして、ヌエ=韓園=川勝と結ぶことができるんです。*4

おまけ2・UFOにされたウツホ舟

子供のころ、江戸時代のUFOだとか言って雑誌なんかによく出てきた、「虚舟の蛮女」。
八犬伝の馬琴たち、江戸の好事家たちが、持ち寄った奇談をまとめた「兎園小説」の一篇。
常陸国の「はらやどり」(!)という浜に、「蛮国の王女」が流れ着いた、という実録。ペンタメロンの話のちょうど続きみたい。
『兎園小説』第十一集より、「うつろ舟の蛮女(兎園小説版)」(奇談)

もう詳しく説明する必要もなく、これは新羅なり百済なり外国から流れ着いた、うつほ舟の伝承の残滓。遠き島より流れつくもの。
母子だったはずですが、ここでは母だけに(あるいは姫=妹だけに)。
妖怪・泥田坊がダイダラボッチであるように、弥生時代には存在していた伝承が、徳川時代にはビミョーな形に姿を変えています。

馬琴はこの「実録」が、古い古い伝承から流れ着いたものであることを、ほんとは知ってたんじゃないかなあ。
なぜって、八犬伝の、姫が孕む犬の子の八剣士、それは「八王子」の伝承を踏まえている。
日本中から奇談・伝説の類を集めたおしていた、江戸の民俗学者・馬琴。
八王子の伝承(あるいは蘇民将来のバリエーション)、そこに隣接可能な話としてウツホ舟があること、そして、究極的にはこの系列のうちに列島のすべての神話が包摂できる可能性…そんなことに気づいていたのではないか。
そして、その強引な実現が八犬伝であると。柳田先生が馬琴には嫉妬するわけだ。


¶ Footnotes:
  1. 長者は「真野」「万之長者」などと呼ばれる。
    このマノ・マンノは、たぶん空海の作ったリザーバの満濃池とも底で通じている。
    性能のよい鉄器で土地を切り開き、黄金の稲穂がたわわに揺れる新しい新天地を夢み、列島に分け入った人々と関わる名称。
    「分家」を枝分かれさせながら、奥地へ奥地へと開発を進める。古墳時代には確立されていた生き方。文献にある「歴史」とは別に、じつはこっそり近世初めくらいまで、実践されていたのではないかと思ったりもします。日本中に同じような地形と地名が分布する謎。 []
  2. 海の魚のウツボも、海底の「うつほ」にこもる竜神というイメージで、こう呼ばれるんでしょう。太陽の子としての龍。ウツボは、金色してますし。
    弓矢を入れる「靫」も、ウツボと読みますが、これは猿の子の皮で作る。猿の子は、日吉山(比叡山)の守り神で、もともとは、太陽の子。猿田彦=天狗がそうで、赤い顔が輝き、最後は海にしずんで、貝に食われます。貝は「うつほ」で、夜の間にそこで再生して、朝になるとまた山なり海なりから、新生してくるのです。 []
  3. たぶんアダム・イブの二人は「ふたり」ではなく、一人。両性具有
    イブがアダムの肋骨であったりするのも、この男女がもともとはひとつであったことを示すもの。カバラでは宇宙と同じ大きさをした「原初のアダム」は両性具有で、ゾフィ(叡智)と呼ばれる女性性と一体化している。 []
  4. 河勝については、実在した秦河勝よりも、この人物を神としてかかげてまつり、伝承を運び派生させている人々、何世代にもわたり見えない存在である人々を考えることがポイント。
    それは聖徳太子や空海や和泉式部や元三大師や義経や天神道真や小野小町や小野篁なんかもそうで、歴史上の人物よりもヤマトタケルやスサノヲのようなものに近いものとしてカタられることも多い。 []
...

19
Jun
2008

うつほ舟、あるいは恋する兄と妹(前篇)

  

うつぼ舟で流される恋人たち。それは世界的に広がる神話。マリア・イエスの聖母子が古事記で見つかり、アダム・イブの恋する兄妹が、宇治拾遺物語から夢野久作にまで流れ着く、という驚くばかりの根強き伝承。...